インドネシア:インドネシアにおけるライセンス契約の登録手続(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 小 林 亜維子
1. 総論
インドネシアでは、2014年に著作権法、2016年に商標法及び特許法が全面的に改正され、知的財産権に関連する法令の整備が進められてきた。これに関連して、2016年には、各知的財産権に関連する法律に基づくライセンス契約の登録に関する手続について、知的財産権の担当当局である知的財産権総局が属する法務人権省によって規則(法務人権大臣規則2016年第8号、以下「2016年規則」という。)が制定された。
インドネシアの知的財産権に関連する法令上、知的財産権保有者は、その保有する知的財産権をライセンスすることができる。そして、締結されたライセンス契約は、知財産権総局に登録されることで、第三者との関係で有効となる。そこで、日本企業がインドネシアの現地企業に知的財産権をライセンスする場合、現地企業からライセンス契約の登録を要求されるケースが増えるものと考えられる。また、例えば、商標権の場合、権利者が登録された商標権をインドネシア国内において3年間継続して利用していない場合、第三者は当該商標権の登録の取消しを裁判所に求めることができる。権利者が当該商標権をインドネシア国内でライセンスを行い、ライセンスを受けた者(ライセンシー)が当該商標を利用することも、権利者がインドネシア国内で商標権を利用している事実となるところ、ライセンス契約を登録することで商標権をインドネシア国内で利用していることの間接的な証拠とすることができる。逆に言えば、ライセンス契約を登録していない場合には、権利者による商標のライセンスさえ行われていないとみなされてしまう可能性もある。したがって、ライセンスをする日本企業にとっても、ライセンス契約を登録しておくことにメリットがあるといえる。
2016年規則の制定以前は、ライセンス契約の登録に関する手続について規定する施行規則がなく、登録の申請書は受理されるものの、登録自体はされない状態が続いていたが、2016年規則の制定により、その問題は解消された。
しかしながら、ライセンス契約の登録に関する手続の詳細については、各法律上、大統領令や政令など省庁レベルの規則である2016年規則よりも上位の規則で定めることを要求している場合があり、著作権法もライセンス契約の登録手続について政令において定めるよう規定していた。
そこで、政府は、2018年6月27日付で知的財産権のライセンス契約の登録に係る政令2018年第36号(以下「新政令」という。)を制定し、2016年規則よりも詳細な内容を含むことでライセンス契約の登録の円滑化を図った。新政令は、2016年規則を含む関連する法令について、新政令と矛盾しない限りで、なお有効とするものであるとしている。そこで、本稿は、2016年規則と比較しながら、新政令について解説をする。
2. ライセンス契約の内容
新政令は、ライセンス契約を登録できる知的財産権として、著作権及びその関連する権利、特許権、商標権、意匠権、集積回路配置に関する権利、営業秘密並びに植物品種保護権を規定しているところ、2016年規則は植物品種保護権は対象としていなかった。新政令においても、植物品種保護権の登録については当該権利に関する法令において定めるものとされているので、新政令が適用されるわけではない。
ライセンス契約は、ライセンスの対象となる知的財産権の保護期間が満了している場合、又は登録が抹消されている場合(権利者による申請、又は上訴委員会若しくは裁判所の判断による抹消)には締結することができないと新政令で明示しており、また、①インドネシアの経済又は国益を害する規定、②技術の移転、コントロール及び発展を妨げる規定、③不公正な競争を生じさせる規定、並びに④法令、宗教的価値、品位及び社会秩序に抵触する規定がライセンス契約に含まれることを禁止している。2016年規則ではこれらの規定はなかったものの、申請書類の添付書類として、上記①から④に類似した規定が含まれないことを誓約する宣誓書を提出するよう規定していることから実質的な変更はないものと考えられる。
登録されるライセンス契約には、少なくとも、①ライセンス契約締結年月日及び締結場所、②ライセンスする者(ライセンサー)及びライセンスを受ける者(ライセンシー)の名前及び住所、③ライセンス契約の目的となる権利、④独占的又は非独占的のいずれのライセンス契約であるか(サブライセンスの規定も含む。)、⑤ライセンス契約の期間、⑥ライセンス契約が適用される地域、⑦特許の場合には、年間で生じる費用を支払う者の規定が含まれなければならないとしている。これらの必要的記載事項は、従来から実務上要求されていたものの、2016年規則では規定がなかった。
さらに、新政令では、ライセンス契約は、書面により締結する必要があり、インドネシア語以外の言語で締結された場合には、インドネシア語に翻訳しなければならないことを明示的に要求した。
(つづく)