東証、コーポレートガバナンス・コードの策定に伴う
有価証券上場規程等の一部改正を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 青 木 晋 治
1.
東京証券取引所(以下「東証」という)は、平成27年5月13日付で、コーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という)の公表を行った。これに伴い、コードを東証の有価証券上場規程(以下「上場規程」という)の別添で定めるとともに、コードの策定に伴う上場規程等の一部改正を公表した。
いわゆる「コンプライ・オア・エクスプレイン」(原則を実施するか、実施しない場合にはその理由を説明するか)を求めるほか、独立役員の独立性に関する情報開示についての見直しを行うなど、所要の整備を行うものである。
2.
改正の概要は以下のとおりである。
改正の概要
① コードを実施しない場合の理由説明(上場規程第436条の3)
② コードを実施しない場合の理由の説明の媒体(上場規程施行規則第211条4項等)
③ コードの趣旨・精神の尊重
④ 独立役員の独立性に関する情報開示の見直し(上場規程施行規則第211条第4項等)
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3.
上記2①から④についてポイントは大要以下のとおりである。
(1)コードを実施しない場合の理由説明(①)
- コードの定める各原則について、一律遵守ではなく、「実施するか、実施しない場合にはその理由」の説明を求める(上場規程第436条の3)。
- コードは、最上位の概念として「基本原則」を定め、その下位の概念として「原則」・「補充原則」を定めているが、本則市場(市場第一部・市場第二部)の上場会社は、コードの「基本原則」・「原則」・「補充原則」について「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められる(同1号)。
- マザーズ及びJASDAQの上場会社は、新興企業向け市場を巡る国際的な動向及び我が国の新規産業育成の観点から、コードの「基本原則」について「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められるに留まる(同2号)。
- 本則市場の上場会社に適用される「原則」について、例を挙げると以下のものがあるが、マザーズ及びJASDAQの上場会社には、直接的には「コンプライ・オア・エクスプレイン」が求められるものではない。
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(2)コードを実施しない場合の理由の説明の媒体(②)
- コードを実施しない場合の理由の説明は、コーポレート・ガバナンス報告書に欄を新設して記載するものとされた。
- これに加えて、コードを実施するために行う開示についても、コーポレート・ガバナンス報告書に別途、欄を新設して記載するものとされた。例えば、以下の点について開示を行う必要がある。
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- なお、上場会社は、定時株主総会後、遅滞なくコーポレート・ガバナンス報告書を提出するものとされているが、経過措置として、平成27年6月1日以降最初に開催する定時株主総会の日から遅くとも6か月を経過するまでに提出するものとされた(「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領(2015年6月改訂版)参照」)。
(3)コードの趣旨・精神の尊重(③)
コードは「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」を包含しているという観点にあるため、「上場会社コーポレート・ガバナンス原則」の尊重規定が、コードの趣旨・精神の尊重規定に置き換えられた(上場規程第445条の3)。
(4)独立役員の独立性に関する情報開示の見直し(④)
独立役員の独立性に関し、従前の上場規程施行規則は、独立役員として指定する者と上場会社との間に主要な取引先の元業務執行者など過去において上場会社と特定の関係を有していた独立役員については、当該事実と「それを踏まえてもなお独立役員として指定する理由」を記載させることとして、いわゆる「開示加重要件」として定めていた(改正前上場規程施行規則第211条第4項第5号a等)。
しかし、上場会社が独立性を判断する際における過度に保守的な運用を是正する観点から、上記「開示加重要件」を廃止しすべての独立役員について等しく情報の開示を求めることとしたものである(上場規程施行規則第211条第4項第6号)
(あおき・しんじ)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録。『新商事判例便覧』(共著、旬刊商事法務、2014年4月25日号~)、『Q&A 家事事件と銀行実務』(共著、日本加除出版、2013年)、『民事再生手続における取立委任手形にかかる商事留置権の効力』(共著、NBL969号、2012年)、「金融ADRから学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)(共著、金融財政事情研究会、2014年)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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