◇SH0388◇経産省研究会、「コーポレート・ガバナンスの実践」の公表 伊藤広樹(2015/08/03)

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経産省研究会、「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」の公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 本年7月24日、経済産業省が設置した「コーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会」(座長:神田秀樹東京大学大学院法学政治学研究科教授)は、「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革~」と題する報告書を公表した。

 本年6月30日に閣議決定された「『日本再興戦略』改訂2015」は、いわゆるアベノミクスの3本目の矢である「成長戦略」に位置付けられるものであるが、具体的施策の一つとして、「『攻めの経営』の促進」を掲げており、その中でコーポレート・ガバナンスの強化が重要な課題として位置付けられている。

 本報告書は、このような状況の中で、コーポレート・ガバナンスに関する論点の整理等を試みるものである。

 本報告書の内容は、いずれも極めて示唆に富むものであり、本稿でその全てを紹介することはできないが、その中でも、コーポレート・ガバナンスに関する法的論点について解釈指針(別紙3:法的論点に関する解釈指針)が示されており、この点については実務上の影響が大きいと考えられることから、以下、その重要なポイントを紹介する。

1.  取締役会の上程事項

 会社法上、「重要な業務執行の決定」等については、取締役会への上程が強制されている(会社法362条4項)が、具体的にどのような事項が「重要な業務執行」等に該当するかについては、一義的な基準は存在せず、各社の事情に応じて個別具体的に判断されるべきものである。

 このような状況の下、本報告書は、取締役会への上程事項について、取締役会が主として監督機能を果たすことが想定されているような場合等には、具体的な業務執行の意思決定に関与していない方が客観的な立場から業務執行を評価することができ、実効的な監督機能に資することから、限定的に解されるという考えを示している。

 具体的には、取締役会への上程が強制される事項を限定的に考えるべきケースとして、①任意の指名委員会・報酬委員会が設置されている場合、②社外取締役が選任されている場合、及び、③内部統制システムが(適切に)構築・運用されている場合を挙げている。

 以上の考え方は、(本報告書では明示的にこの用語を用いてはいないものの)監査等委員会設置会社の導入により注目されている、いわゆる「モニタリング・モデル」を意識しているものではないかと考えられる。

2.  社外取締役の役割・機能等

 会社の「業務を執行した」(会社法2条15号イ)者は社外性を欠くため、社外取締役に就任することができないところ、本報告書では、ここで言う「業務を執行した」の該当性について、監督機能を有している社外取締役と被監督者である業務執行者との分離独立を確保する観点から、原則として「業務を執行した」には該当しない具体例(例えば、業務執行者から独立した内部通報窓口となること等)を列挙している。

3.  役員就任条件

 本報告書では、役員報酬の決定手続とともに、会社補償(役員が損害賠償責任を追及された場合に、会社が当該損害賠償額や争訟費用を補償すること)や、会社によるD&O保険の保険料の負担が許容される場合等についても言及されている。

4.  新しい株式報酬の導入

 本報告書では、コーポレートガバナンス・コード(補充原則4-2①)において、企業の持続的な成長に向けた経営陣への健全なインセンティブの一つとして推奨されている、新しい株式報酬の類型が幾つか紹介されている。

 

 以上のとおり、本報告書は、(賛否を含めて)今後のコーポレート・ガバナンスの在り方に関する議論に重大な影響を与えるものと考えられることから、引き続き今後の議論状況を注視する必要がある。

 

法的論点に関する解釈指針

  1. 取締役会の上程事項

      取締役会上程事項を限定的に考えるべき場合:
       ①  任意の指名委員会・報酬委員会が設置されている場合
       ②  社外取締役が選任されている場合
       ③  内部統制システムが(適切に)構築・運用されている場合
     

  2. 社外取締役の役割・機能等
      ⇒  「業務を執行した」の範囲等
     
  3. 役員就任条件
      ⇒  役員報酬、会社補償、D&O保険の保険料等
     
  4. 新しい株式報酬の導入

 

 

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