コーポレート・ガバナンス報告書の動向
岩田合同法律事務所
弁護士 別 府 文 弥
1.はじめに
コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)が上場企業に適用されている中、多くの上場企業はコーポレート・ガバナンス報告書(以下「CG報告書」という。)の提出期限を年末に控え、CGコードに関する検討を進めている状況にある。
その中でも、CGコード原則3-1(ii)は、「本コードのそれぞれの原則を踏まえた、コーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針」を開示し、主体的な情報発信を行うべき旨を要求している。
かかる「基本的な考え方と基本方針」は米国等の海外におけるコーポレートガバナンス・ガイドラインに相当するとも解されており、「基本的な考え方」として上場企業のコーポレート・ガバナンスに関する総論的な考え方を、「基本方針」として本コードの個々の原則に対する大まかな対応方針を開示することが求められていると解されている(油布志行ほか「『コーポレートガバナンス・コード原案』の解説 Ⅲ」旬刊商事法務2064号36頁)。
2.各社の対応
既に公表されている上場企業のCG報告書やその他の開示情報を見ると、CGコード原則3-1(ii)に関し、①コーポレートガバナンス・ガイドラインを策定し、CG報告書において当該ガイドラインを引用している例(みずほFG、エーザイ等)、②コーポレートガバナンス・ガイドラインを策定せず、CG報告書においてコーポレート・ガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針を開示している事例に大別することができ、②の事例においては各社様々な表現が採られている(必ずしもCGコードについて言及していない事例も存在する)。
ヤマトホールディングス株式会社では、コーポレートガバナンス・ガイドラインが策定されており、CG報告書の「コーポレートガバナンス・コードの各原則に基づく開示」の冒頭で引用されているほか、CG報告書のCGコード原則3-1(ii)に対応する箇所には、別途コーポレート・ガバナンスに関する総論的な考え方が記載されている。
3.本ガイドラインの概要
ヤマトホールディングス株式会社のコーポレートガバナンス・ガイドライン(以下「本ガイドライン」という。)は、CGコードを意識して策定されており、CGコードのうち、基本原則及びCGコードにおいて開示が求められている11原則(いわゆる「開示11原則」)との対応関係は以下の別表のとおりである(本ガイドラインの詳細は上記URLを参照されたい)。
4.小括
本ガイドラインは、上記の通りCGコードの開示11原則を含むほか、CGコードの内容を網羅しており、上場企業各社におけるCGコード対応にあたって参考となる。また、上場企業においては同時並行的にCGコードに規定されるガバナンスに関する各事項について検討する必要があり、検討にあたって本ガイドライン及びCG報告書等で開示されているヤマトホールディングス株式会社のコーポレート・ガバナンスに関する取り組みは、他社事例として参考になると思われる(本ガイドラインにおいて、上記開示11原則のうち検討中のものが複数存在することも注目される)。
(別表)
CGコード |
本ガイドライン |
基本原則1 株主の権利・平等性の確保 |
第2章 ステークホルダーとの関係 1.株主の権利・平等性の確保 |
原則1-4 株式の政策保有に関する方針・政策保有株式に係る議決権行使基準の開示
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(3)政策保有株式に関する方針 ①方針 グループの事業との関係性や収益性等について総合に勘案し、保有意義のある株式を保有する方針とする。主要な銘柄については、毎年、取締役会において、アライアンス強化による効果や取引実績、時価等を踏まえて検証し、保有の継続について判断する。 ②保有している株式の議決権行使 保有している株式の議決権行使においては、発行会社の企業価値向上およびコンプライアンス体制、グループの事業へ不利益を与える可能性等を勘案し、株主総会の議案ごとに賛否を判断する。 |
原則1-7 関連当事者間の取引の枠組み開示 |
(5)関連当事者間取引 役員の競業、自己取引等に関しては、取締役会規程等に基づき取締役会決議と定めている。また、当社およびグループ会社における主要株主等の関連当事者との取引を行う場合には、社内規程に基づき、決裁者が取引の重要性やその性質に照らし合わせ、株主や会社の利益を害することのないよう確認する。 |
基本原則5 株主との対話 |
2.株主との対話 |
原則5-1 株主との建設的な対話を促すための体制整備・取り組みに関する方針 |
株主・投資家との建設的な対話を通じた継続的かつ中長期的な企業価値の向上を図るため、社長をはじめとする経営陣幹部による対話等を推進し、IR 戦略担当役員を中心とする体制を整備する。 (詳細については同(1)~(5)に記載の通り) |
基本原則2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働 |
3.株主以外のステークホルダーとの協働 |
基本原則3 適切な情報開示と透明性の確保 |
第3章 情報開示 |
原則3-1 (ⅰ)経営理念等、経営戦略、経営計画 (ⅱ)コーポレートガバナンスに関する基本的な考え方と基本方針
(ⅲ)経営陣幹部・取締役の報酬決定の方針・手続 (ⅳ)経営陣幹部・取締役・監査役指名の方針・手続 (ⅴ) 経営陣幹部・取締役・監査役の個々の選任・指名についての説明 |
(ⅰ)⇒経営理念は第1章(総則)2. に明記されている (ⅱ)⇒本ガイドラインとして明記
(ⅲ)⇒社外取締役以外の取締役及び執行役員の報酬は外部水準を考慮した固定報酬に加え、業績を反映した業績連動報酬による旨、第4章(コーポレートガバナンス体制)2. (6)に明記 (ⅳ)⇒指名報酬委員会の審議を経て、取締役会/監査役会で決定される旨、第4章(コーポレートガバナンス体制)2. (5)①に明記 (ⅴ)⇒株主総会招集通知の選任議案において、個々の略歴、選任理由等を記載し開示する旨、第4章(コーポレートガバナンス体制)2. (5)②に明記 |
基本原則4 取締役会等の責務 |
第4章 コーポレートガバナンス体制 |
補充原則4-1① 経営陣に対する委任の範囲及びその概要 |
2.(2)取締役会の役割・責務 取締役会は、当社の企業価値向上を促すための基本方針を協議、決定し、業務執行の監督を行う。 ①取締役会は、当社の経営の重要な意思決定を行うとともに、業務執行取締役および執行役員の職務の執行を監督する。 ②取締役会は、中期経営計画が株主に対するコミットメントの一つであるとの認識に立ち、その実現に向け最善の努力を行う。また、中期経営計画への取組みやその達成状況について十分に分析し、株主に説明を行うとともに、その分析を次期以降の計画に反映させる。 ③取締役会は、執行役員が過度にリスクを回避・抑制することなく健全な企業家精神を発揮することを促す一方、説明責任の確保ができる体制を整備する。 ④各執行役員の管掌範囲は取締役会で決定し、これを開示する。執行役員は、社内規程に基づいて業務の執行を行う。 |
原則4-8 3分の1以上の独立社外取締役を選任することが必要と考える会社における取組み方針 |
該当なし。なお、同社のCG報告書において、以下の記載がある。 「当社では、社外取締役を2名以上選任することにより、経営の監督機能を確保すること、独立した立場から、会社と経営陣・支配株主等との間の利益相反を監督し、ステークホルダーの意見を取締役会に適切に反映すること、豊富な経験と幅広い知見を活かし、取締役会における重要な意思決定に意見を反映することを通じて、企業価値の向上に取り組むこととしております。」 |
原則4-9 独立社外取締役に関する独立性基準 |
5.(3)独立性判断基準 社外取締役および社外監査役を選任するための当社からの独立性に関する方針として、東京証券取引所が示す独立性に関する判断基準を踏まえ、独自の基準を策定する。 |
補充原則4-11① 取締役会の構成に関する考え方 |
2.(1)取締役会の構成 取締役会は、当社グループの事業に関する知見、専門知識、経験等のバックグラウンドが異なる多様な役員で構成し、取締役の員数は、定款の定めに従い 12 名以内とする。また、独立した客観的な立場から監督を行う独立社外取締役を2名以上選任する。 |
補充原則4-11② 取締役・監査役の兼任状況 |
5.(4)兼任状況の開示 社外取締役および社外監査役の他社での兼任状況は、株主総会招集通知、有価証券報告書等において毎年開示を行う。 |
補充原則4-11③ 取締役会の実効性に関する分析・評価結果 |
2.(4)取締役会の評価 取締役会が適切に機能し成果を上げているか、その実効性の維持・向上を図るため、取締役会の評価を行う体制整備を検討する。 |
補充原則4-14② 取締役・監査役に対するトレーニングの方針 |
7.(2)トレーニング方針 取締役および監査役に対するトレーニングについては、求められる役割を果たすために、法改正等に応じて外部専門講師による役員研修を実施するなど、必要な知識を習得する機会を計画的かつ定期的に実行できるよう、体系的に取りまとめる。 |