中国:「爆買い」中国人消費者に日本製品を売る
――越境ECと法律問題(2)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 若 江 悠
3.越境ECの種類
「越境EC」サイトにはいくつかの種類があるが、代表的なものはプラットフォーム型のサイトで、海外(多くは香港)にサーバーがおかれた「越境EC」サイトに、海外のメーカーや流通業者が売主として出店し、出品する商品の情報や写真等を中国語で掲載する。中国の消費者が商品を注文し、支付宝(Alipay。米国のPaypalに類似した決済サービス)等の仕組みを通じて代金の決済を行うと、海外又は中国国内の保税区に所在する倉庫から商品が出荷され、中国の消費者のもとに配送される。このタイプとしては、具体的には、アリババ系のオンラインショッピングモール天猫の国際版である天猫国際、伊藤忠系の跨境通(kjt.com)などがある。
この他にも、C2C、すなわち個人輸入代行(海外にいる中国人や華人等の個人が、注文に基づき現地で商品を調達し中国の消費者に発送する)は淘宝を通じてだいぶ前から行われてきた(今は淘宝全球購)し、B2Cと呼ばれるサイト、すなわちサイト運営者(海外法人)が海外のメーカー等から商品を仕入れ、自らが売主として消費者に販売するもの(具体的にはアマゾン、家電小売業者である蘇寧系の蘇寧海外購、大手物流業者SF Express系の順豊海淘、京東系の全球購(ただしプラットフォーム型も併用)等)もあるが、本稿では上記プラットフォーム型のみを取り上げることとする。
4.法律関係の整理
プラットフォーム型の出店にあたっては、天猫国際等のプラットフォーム業者と出店契約を締結し、プラットフォームの定める各種規約を遵守すること等に同意する必要がある。とはいえ、プラットフォーム業者は売買当事者に対して情報提供や決済等のサービスを提供するだけであり、売買契約は出店者(売主)と中国の消費者個人(買主)との間で成立する。このほか、支払手段を提供する業者との間の契約書(と関連規約)にも合意することになるし、店舗サイトの構築や、保税区内に在庫を保管するについては、中国国内の業者(多くの場合、プラットフォーム業者の関連法人である中国法人)に委託することも多い。
売買当事者間でどのような内容の売買契約が成立するのかは必ずしも明らかでないが、プラットフォーム業者の規約には、「売主は買主に対し保証責任を負担しなければならない」といった形で売買契約の内容を規定する条項が含まれるため注意を要する。売買契約の準拠法としては、中国の国際私法により中国法が適用されることになるであろうし、商品の品質問題等に関し買主から不法行為責任や製造物責任が追及される場合も、中国法が適用されることになろう。この点、日本国内で中国消費者に対し商品を販売し中国消費者が自分で輸入する場合とは異なる。紛争解決方法については、プラットフォーム業者との契約においては香港等での仲裁が合意されていることが多いが、そのような仲裁合意は売買当事者間の売買契約について適用されるものではないので、特段の合意がない限り、買主からその常居住地の人民法院に訴訟が提起された場合には、当該人民法院に管轄が認められる可能性は高いのではないか。
((3)につづく)
((1)はこちら)