◇SH0499◇法のかたち-所有と不法行為 第六話-1「フランス中世以来の土地の利用関係」 平井 進(2015/12/08)

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法のかたち-所有と不法行為

第六話 フランス中世以来の土地の利用関係

法学博士 (東北大学)

平 井    進

 

 第二話において、所有権の本質が他者を排除する法作用でありながら、その結果として可能となる「使用・収益・処分」という機能によって所有権が規定されることについて述べたが、ここでは、所有権がそのように記述されるようになった歴史的な経緯について見ていきたい。

 所有の対象の中核に位置するのは土地であり、それは古来、土地利用において一般的であった社会的な支配関係(封主-封臣、領主-農民)の中にあった。そこにおいて、下位者がもつ権能が土地の利用であり、上位者がもつ権能がその全体的な支配であり、所有権をその対象に対する権能によって記述することは、所有に関してこのように階層別にその権能(活動領域)が分かれていたことを反映していたと見られる。

 

フランス中世の封建的関係

 先ず、ヨーロッパ中世の封土(feudum)における封主(国王を頂点とする)と封臣の関係について見ていきたい。一般的に、封主は封臣に対してその一定の土地支配を認める代りに軍事的賦役の義務を課し、また裁判権をもつ。[1]封主は、義務を果たさない封臣に対して授封を拒否する権限をもつ。

 このような関係は、古代ローマにはなかったものである。これに対して、中世の註釈学派はこの関係をどのように法的に構成したか。彼らは、従来、ドミニウムと同様の効果(抗弁と準訴権の権能)をもつと考えていたものをdominium utileと呼んでいたが、上記の封建関係をとらえるにあたりこの法概念を適用することとし、それをローマ法における用益(ususfructus)の権能に対応させた。[2]

 しかし、ローマ法においては、一つの土地に一つのドミニウムしか認められない。それ故、上記dominium utileを古典的なドミニウムとどのように関係付けるかということが大きな問題であり、これについて註釈学派の議論は錯綜をきわめることになる。[3]授封関係をローマ法を適用した体系に組込むために、後期註釈学派は、ローマ法におけるドミニウム概念を分解し、その関係を「分割ドミニウム」と称することになる。[4]

 一方、このイタリアの註釈学派のdominium utileという概念について、16世紀のフランスの人文主義の法学者は、古典的なローマ法とは異るとしてこれを否定していた。[5]

 いずれにせよ、フランスを含む大陸の普通法においては、ローマ法を物権と債権に区別する体系として理解し、またローマ法のいわゆる「売買は賃貸借を破る」[6]について、物権が債権に優越するものとする。

 



[1] 参照、片岡輝夫「フランス法における分割所有権の歴史的研究(一)」国家学会雑誌, 64 (10・11・12) (1950) 554-556, 574-575頁。このような例は、12世紀のイタリアのランゴバルドに見られる。なお、封臣が裁判を補助し、封主に代わって訴訟を行うことがある。

[2] 参照、同上569-570頁。dominium utileは、本来、取得時効による不動産取得等の権能に関わる。

[3] 参照、片岡輝夫「フランス法における分割所有権の歴史的研究(二)」国家学会雑誌, 65 (2・3) (1951) 167-168, 179頁。

[4] 参照、片岡輝夫「フランス法における分割所有権の歴史的研究(三)」国家学会雑誌, 65 (5・6・7) (1951) 386-387頁。dominium utileには、ローマ法においてius in reであった用益なども含まれる。同387,393頁。ただし、バルトルスは、封主に適用されるドミニウムは万民法、封臣に適用されるドミニウムは市民法によるとして、形式的に区別しようとした。同 389-392頁。

[5] 参照、同上412頁。

[6] Codex Iustinianus, 4.65.9.(ただし、売買において買主が同意している場合、賃借人の地位は継続する。)ローマ法を継受する前の慣習法において、貸借関係が売買によって変動するとは考えられていなかったことについて、次を参照。原田純孝『近代土地賃貸借法の研究-フランス農地賃貸借法の構造と史的展開-』(東京大学出版会, 1980)96頁。

 

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