◇SH0650◇三菱自動車、当社製車両の燃費試験における不正行為について 臼井幸治(2016/05/09)

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三菱自動車、当社製車両の燃費試験における不正行為について

岩田合同法律事務所

弁護士 臼 井 幸 治

 

 平成28年4月20日、三菱自動車工業株式会社(以下「M社」という)は、同社製軽自動車の型式認証取得において、国土交通省へ提出した燃費試験データについて、燃費を実際よりも良く見せるため、不正な操作が行われていたこと、及び、国内法規で定められたものと異なる試験方法がとられていたことが判明したことを公表した。

 その後、M社は、同月26日、上記問題について、客観的かつ徹底的な調査を行うため、独立性のある外部有識者のみで構成される特別調査委員会を設置するとともに、同月20日に国土交通省より受けた調査指示につき、報告書を提出したことも公表し、上記問題に関連する対応を進めている。

 上記問題の背景、事実関係、原因分析、及び再発防止策については、特別調査委員会の調査結果の報告が待たれるところであるが、燃費試験データについて、燃費を実際よりも良く見せるため、意図的にM社により不正な操作が行われていたことは、M社の記者会見の内容等に鑑みても、現状でもほぼ明らかといえる状況である。

 M社は、車両を購入した顧客との間では、売買契約上の本旨履行がなされていないとして、契約上の損害賠償責任を負う余地がある他、今後の調査の結果として、車両を購入した顧客に対し、代表取締役がその職務を行うについて第三者に加えた損害であるとして、会社法350条に基づく賠償責任を負う可能性も否定できない。また、上記燃費の不正を指示した従業員、不正を行った従業員がその職務の執行につき第三者に加えた損害であるとして、民法上の不法行為責任(民法715条)を負う可能性がある。

 どこまでが損害の範囲に含まれるかという点は非常に悩ましい問題ではあるところ、損害賠償責任ではなく売買契約の錯誤無効が認められた場合には、車両購入金額の返金及び車両の引き取りを行う義務が生ずる可能性も完全には否定できない。すなわち、表示者が意思表示の内容部分となし、この点につき錯誤がなかったならば意思表示をしなかったであろうと考えられ、かつ、表示しないことが一般取引の通念に照らし妥当と認められる場合には、法律行為の要素に錯誤があったとして法律行為が無効となるため(民法95条)、上記不正の内容が、車両売買契約の要素に該当すると判断される場合には、M社は、原状回復のため、車両購入金額の返金及び車両の引き取りを行う義務が生ずる余地がある。

 また、本件では、新車の購入時に燃費に応じて国税の自動車重量税や地方税の自動車取得税が軽減されるエコカー減税の適用にも問題がある(本来適用がない減免がなされた可能性が大きい)とされているところであり、過去の減免分の税金の支払いが必要となる可能性もある。

 さらに、問題となった車両62万5000台の内、46万8000台については、M社より日産自動車株式会社(以下「日産」という)に対し、OEM契約に基づき販売されているとのことであり、同社に対する補償も想定されるところである。

 このように、今後、M社には巨額の金銭的な負担が想定されることに加え、企業の信用力の低下、ブランドイメージの毀損等、企業の経営に多大な影響を及ぼす被害も想定されるところである。M社は、過去にもリコール隠しによりその信用を多大に毀損しているところであり、今後想定されるダメージは著しいというほかない。

 加えて、上記問題の発覚の経緯は、内部通報や社内内部での指摘に基づくものではなく、OEM供給先の日産の指摘により発覚したものとのことであり、M社のコンプライアンス体制には問題があったと言わざるを得ない状況である。

 M社のような極端な事例は、今後他社においても容易に起こりうる事象とは考えられないものの、他企業においては、コンプライアンスに関する従業員研修、内部通報制度の設置、運用の徹底等、十分な予防措置を採ることが必要であり、このような予防措置が十分に行われているか、改めて確認が必要である。

 また、不祥事事件が発生した場合には、事後的な対応を適切に行う必要があることにご留意いただきたい。社内規程、制度の策定、改定にあたっては、専門的な検討が必要となるため、弁護士等の専門家の活用が有用である。

以上

 

 M社の負う可能性のある法的責任等
法的責任 内容

顧客に対する責任

契約上の責任(民法415条、95条)

会社法上の損害賠償責任(会社法350条)

不法行為責任(使用者責任、民法715条)

国に対する責任

エコカー減税に係る過去の減免分の税金の支払義務

日産に対する責任

OEM契約に基づく損害賠償責任等

 

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