◇SH1484◇不動産テック(Real Estate Tech)の実務と法律上の留意点・問題点(3) 成本治男(2017/11/08)

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不動産テック(Real Estate Tech)の実務と法律上の留意点・問題点(3)

~不動産クラウドファンディングを中心に~

TMI総合法律事務所

弁護士 成 本 治 男

 

2. 日本における不動産テックサービスの類型

 (1) 不動産クラウドファンディング

  1. ③ 今後の課題
  2.  1)経済的対価以外の特典等の付与
  3.    本来、非常に多数の個人等の投資家から少額ずつの資金を集める仕組みであるクラウドファンディングは、純粋な利回り目的だけでなく、何らかの事業や目的に対する「支援者」や「ファン」から資金拠出を募ることに適した仕組みである。
     この点、例えば、アメリカの大手クラウドファンディング企業によるサービスでは、純粋な利回り目的や資金調達目的だけでなく、投資家に対して開発されるホテルやレストランの「オーナー」として優遇割引等といった経済的対価以外の特典を付与するもの[1]や、正式なプロジェクトになる前の段階でのテストマーケティング機能をデベロッパー事業者に提供するもの[2]もある。
     このように、日本でも、今後、例えば、地方創生や地域活性化、公的不動産の活用などの文脈において、必ずしも収益性が高いとはいえない物件やプロジェクトであっても、その地域の住民や地元出身者であったり、当該不動産におけるサービス(医療関係サービスや保育関係サービスなど)の利用者や利用予定者など、利回り目的以外の資金拠出をする動機を有し得る層の個人に対して「利回り+アルファ(特典等)」という形や「支援・応援+α(多少の利回り)」という形でのリターンを提供するようなファンドも出現することが期待されるところである[3]【図表4】。
     
  4. 【図表4】

     
  5.  2)犯罪収益移転防止法に基づく本人確認手続
  6.    不動産特定共同事業法に基づき不動産特定共同事業を行う者やソーシャルレンディングにおけるプラットフォーム提供者である第二種金融商品取引業者は、犯罪による収益の移転防止に関する法律(以下「犯罪収益移転防止法」という。)に定める特定事業者に該当するため、それぞれ当該クラウドファンディングに関する業務に係る取引を投資家との間で行う場合には、犯罪収益移転防止法に従った本人確認手続きを行う必要がある[4]
     この点、個人との間でインターネットによる非対面取引を行う場合における本人確認方法としては、電子証明書を利用する方法[5]を除けば、メール等で本人確認書類の送付を受けた上で当該本人確認書類に記載されている個人の住居宛に取引関係文書を書留郵便等の転送不要郵便物等として送付する方法又は本人限定郵便により取引関係文書を送付する方法のいずれかによらなければならず[6]、オフラインでのやり取りが必須となっている。
     非常に多数の個人等の投資家から少額ずつの資金を集める仕組みであるクラウドファンディングでは、すべての手続きがネットを介して完結することが望ましく、また、今後クロスボーダーで海外投資家からの資金拠出を募る可能性を検討するにあたっても、現状の犯罪収益移転防止法に従った本人確認手続きが阻害要因となり得る面は否めず、今後、金額等による免責基準等を含め改正を期待したいところである[7]
  7.  3)仮想通貨等による出資・分配
  8.    匿名組合出資型の不動産特定共同事業においてもソーシャルレンディングにおいても、投資家による出資の対象は「金銭その他の財産」であることが前提とされている[8]
     この点、ビットコインなどのいわゆる仮想通貨の法的性質論は未だ不確定ではあるものの、「財産」に該当する可能性は高いように思われる[9]。そうだとすれば、仮想通貨をもって出資を行い、仮想通貨で利益配当を行う、というファンドも想定され得るし、さらにその場合にはブロックチェーン技術によるスマートコントラクトを用いるなどして分散型・自律型の不動産ファンドをネット上に組成することも理論的には考えられ得る。このような仮想通貨を用いた取引の場合の法的な取扱いだけでなく、源泉徴収義務の有無などの会計上・税務上の取扱いについても早急に検討する必要があるように思われる。


[1] 『Realty Mogul』(https://www.realtymogul.com/

[2] 『FUNDRISE』(https://fundrise.com/)。なお、FUNDRISEは、アメリカの3 World Trade Center開発プロジェクトの開発資金の一部として25億ドルをクラウドファンディングで調達したと報道されている。

[3] 現在においても、例えば、京町屋の改修・活用を目的とするファンドにおいて、投資家に対して、対象事業の売上に応じて分配金が分配されるとともに、京町家を改修した事業者から和文化(茶道・華道)の体験、ランチ、宿泊などの招待券等が特典として付与されるというファンドも出てきている。

[4] 犯罪収益移転防止法第2条2項21号・26号、犯罪による収益の移転防止に関する法律施行令第6条1号・10号、第7条1項1号リ・ワ

[5] 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第6条1項1号ト・チ・リ

[6] 犯罪による収益の移転防止に関する法律施行規則第6条1項1号ロ・ホ・ヘ

[7] この点、金融庁は、平成29年6月21日付けで、オンライン手続のみで本人確認できるよう、FinTechに対応した効率的な本人確認の方法などについて議論・検討を行うための研究会を設置した。

[8] 不動産特定共同事業法第2条3項1号、商法第535条、第536条2項

[9] 片岡義広「仮想通貨の規制法と法的課題(上)」NBL No.1076(2014年)58頁以下など。

 

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