法のかたち-所有と不法行為
第十五話 自由-「私のもの」を守ること
法学博士 (東北大学)
平 井 進
5 関係概念と対象概念
前述のセシルやクックのいう人の本来的な自由・権利という概念は、オーヴァトンにおいては、他のいかなる者にも侵されたり奪われたりすることのない、その人に固有の自由・権利という概念として定式化されており、彼のいうpropertyは、前述の伝統的なsuum概念に対応している。[1]この思考は、政府に対する個人の人権概念の基礎となっているが、個人間の関係として見るときは、互いに他者のsuum/propertyを侵害しないという対称的・相互的な概念となる。
なお、ジョン・ロックのいう有名な“every man has a property in his own person”という表現は、このような伝統的な文脈において理解される。[2] personとは、その人の「人となり」(personality)をいうのであって、自身の外部にあるものとの関係としての新しい「所有」の概念によってとらえるのは誤りである。このように、伝統的なsuum/property概念は、人間主体の「実体」とそのあり方における譲渡できない「関係概念」であって、譲渡可能な「対象概念」ではない。[3]
[1] なお、カール・オリヴェクローナは、グロティウスがsuumと述べていたことをロックはpropertyと述べていたとする。Cf. Olivecrona, Karl, “Application in the State of Nature: Locke on the Origin of Property,” in Ashcraft, Richard, ed., John Lo>
[2] John Locke, Two Treatises of Government, 1690, Laslett, Peter, ed., Cambridge University Press, 2nd ed., 1967, Second Treatise, V. 27, p. 287. 田中正司は「自分のパーソンに対するプロパティとは、自分の生命や自由と自分の身の回りのものは自分固有(proper)のものであるというにすぎない。」とする。田中正司『ジョン・ロック研究』(お茶の水書房, 新増補2005)391頁。
[3] 参照、平井・前掲64-66頁。なお、田中・前掲390頁、一ノ瀬正樹『人格知識論の生成-ジョン・ロックの瞬間』(東京大学出版会, 1997)212頁も参照。