実学・企業法務(第20回)
第1章 企業の一生
同志社大学法学部
企業法務教育スーパーバイザー
齋 藤 憲 道
(3) 物(モノ)
企業経営では、どの事業に、どの資産を、どれだけ投入するかに関する経営判断が日常的に行われている。最適な資産を調達して、それを最大限に活用すれば、その分だけ市場競争力が増し、利益も大きくなる。
そこで企業では、①市場における商品の需要動向、価格・特性等の動向、競争相手の開発力・コスト力・供給力等を調査・分析し、②自社の取り扱い商品を選択して、売り込む市場と供給量を想定し、③その供給に必要な設計・生産・販売等の体制を構築して、④生産・販売活動を行い、⑤代金回収して、売上と利益を計上する。
企業が事業のために調達する資産の種類は業種によって異なる。一般に、商社では営業債権や棚卸資産に、メーカーでは開発や生産設備に多くの資金が投入されるようである。
-
〔資産の種類〕
資産には多くの種類があり、財務諸表規則はその分類方法及び区分表示の方法を定めている[1]。
主な区分表示は次の通りである。
-
〔流動資産〕 現金・預金、受取手形、売掛金、リース債権、有価証券
商品・製品(半製品を含む)、原材料・貯蔵品 -
〔有形固定資産〕 建物、構築物
機械装置、船舶・車両
工具・器具・備品
土地
リース資産 -
〔無形固定資産〕 のれん[2]
特許権、商標権、実用新案権、意匠権
借地権(地上権を含む)
鉱業権、漁業権(入漁権を含む)
ソフトウェア
リース資産 -
〔投資その他の資産〕 投資有価証券、関係会社株式
長期貸付金
〔保険の対象〕
企業では、資産が毀損・滅失しないように、それぞれの特性に応じた方法で管理する。
それでも、盗難・火災・地震等による物品の毀損・滅失のリスクがあるので、損害保険を掛ける[3]。工場火災等に伴う営業活動の支障により生じる損害を補填するために、利益保険を付すこともある。
〔課税の対象〕
資産は、課税の対象になる場合がある。
土地・家屋・償却資産[4]等の固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日[5])の所有者に対して市町村[6]が固定資産課税標準額を算定して課す。土地・家屋については3年ごとに評価額が見直される。
自動車税[7]は、毎年4月1日(賦課期日)の所有者に対して、都道府県が課す。
次回以降、物(モノ)の資産について、企業における管理のあり方を学ぶ。
[1] 財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(通称、財務諸表等規則)15条、17条、22条、23条、27条、28条、31条、32条
[2] 被取得企業又は取得した事業の取得原価が、受け入れた資産及び引き受けた負債に配分された純額を、上回る場合にはその超過額を「のれん」として、下回る場合にはその不足額を「負ののれん」として会計処理する。「企業結合に関する会計基準(企業会計基準委員会)」31項、32項、33項
[3] 損害保険には、火災保険・自動車保険・貨物保険・運送保険・船舶保険等がある。
[4] 土地・家屋以外の事業の用に供することができる資産で、その減価償却額又は減価償却費が法人税法又は所得税法の所得の計算上、損金又は必要経費に算入されるもののうち少額資産等の例外を除くものをいう(地方税法341条)。例えば、構築物・機械装置・船舶・航空機・車両運搬具・工具器具備品。
[5] 地方税法359条
[6] 特例として東京23区については東京都が都税として徴収する。(地方税法734条)
[7] 地方税法145~177条、734条