商事法務研究会、第12回「会社法研究会」会合の議事要旨を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 小 西 貴 雄
商事法務研究会は、平成29年2月13日、同会が設置している会社法研究会(座長:神田秀樹学習院大学教授)が開催した第12回の会合の議事要旨を公表した。この研究会は、平成26年会社法改正を審議した法制審議会会社法制部会のメンバーであった委員や法務省民事局に所属する委員によって構成されており、同研究会における議論が今後の会社法改正の議論に影響を与えるであろうことが推察される。
今回の会合では3つの議題が取り上げられているが、ここでは、特に重要であると思われる、社外取締役の選任義務付けに関する議論について解説する。
会社法上、株式会社は、原則として社外取締役を選任する義務を負わないが、一定の場合には社外取締役の選任その他の義務を負う。すなわち、取締役会が決議すべき一定の事項を特別取締役の決定に委ねる場合には、1人以上の社外取締役の選任が必要であり(会社法373条1項2号)、株式会社が監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社である場合には、2人以上の社外取締役の選任が必要である(会社法331条6項、同400条3項)。
また、有価証券報告書の提出義務を負う監査役会設置会社(公開会社であり、かつ、大会社であるものに限る。)は、社外取締役を置いていない場合、社外取締役を置くことが相当でない理由を定時株主総会で説明し、事業報告の内容に含めるとともに、社外取締役となるべき者を候補者とする取締役選任議案を提出しない場合には、当該理由を株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法327条の2、同施行規則124条2項、同74条の2第1項)。これらの情報開示の規定は、平成26年会社法改正で新たに導入されたものである。
この他、コーポレートガバナンス・コードの原則が適用される上場会社は、同コードの各原則を実施するか、実施しない場合にはその理由をコーポレート・ガバナンス報告書において説明することが求められるため(コンプライ・オア・エクスプレイン方式)、独立社外取締役を2人以上選任しない場合、コーポレート・ガバナンス報告書においてその理由を説明することが必要となる(同原則4-8)。
選 |
特別取締役への委任 |
1人以上の社外取締役の選任 |
監査等委員会設置会社 |
2人以上の社外取締役の選任 |
|
指名委員会等設置会社 |
2人以上の社外取締役の選任 |
|
理 |
有報を提出する監査役会設置会社(公開会社かつ大会社) |
定時総会での説明、事業報告への記載、株主総会参考書類への記載 |
CGコード原則が適用される上場会社 |
コーポレート・ガバナンス報告書における2人以上の独立社外取締役を選任しない理由の説明 |
前述のとおり、現行の会社法では、原則として社外取締役の選任は株式会社の義務ではないが、今回の会合では、この義務付けの要否が議論された。平成26年会社法改正の際にも係る義務付け規定の導入が検討されたが、このときは導入には至らず、妥協的に情報開示の規定が導入されることとなった。そして、同改正法の施行後2年を経過した時点で、社外取締役を置くことの義務付けについて改めて検討することとされた(同改正附則25条)。今回の議論は、今年の5月1日に同改正法の施行から2年が経過することを見据えたものであると思われる。
議論の内容としては、少数株主を含めた全ての株主の利益を代弁する立場である社外取締役は、どの会社でも最低限1人は必要であるという意見もあるものの、義務付けには消極的な意見が大勢を占める。特に、平成26年会社法改正及びコーポレートガバナンス・コードによって上場会社一般に社外取締役が普及しており、このような状況下であえて社外取締役を選任していない会社に対して選任を義務付けることに意味があるのかという論調が強い。
もっとも、今回の研究会では、社外取締役選任の義務付け自体には消極的ではあるものの、経営者の独善を抑制すべきという問題意識は存在しており、社外取締役を置く会社は増えたが株主の利益を代弁するという意識を持った社外取締役は少ないとの指摘もなされている。その意味で、株式会社のガバナンスを強化する方向性は共有されている。折しも、法務大臣は、本年2月9日の法制審議会総会において、社外取締役選任の義務付けを検討課題に含む会社法改正に係る諮問を行い、同審議会の会社法制(企業統治等関係)部会において検討がなされることとなった。今後、部会における議論状況を注視する必要があろう。
以 上