◇SH2995◇最二小判 令和元年8月9日 措置取消請求事件(三浦守裁判長)

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 死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条1項2号所定の用務の処理のために必要とはいえない記述部分がある場合に、同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し又は抹消することの可否

 刑事施設の長は、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条1項2号所定の用務の処理のために必要な記述部分のほかに、そのために必要とはいえない記述部分もある場合には、同項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き、同条1項に基づき、同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し、又は抹消することができる。

 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条

 平成30年(行ヒ)第299号 最高裁令和元年8月9日第二小法廷判決 措置取消請求事件 破棄自判

 原 審:平成29年(行コ)第179号 大阪高判平成30年4月26日判決
 第1審:平成27年(行ウ)第412号 大阪地判平成29年8月2日判決

1 事案の概要

 本件は、死刑確定者であるXが、同人宛ての信書(以下「本件信書」という。)の一部について受信を許さないこととして当該部分を削除した大阪拘置所長(以下「所長」という。)の措置(以下「本件処分」という。)は違法であると主張して、Y(国)を相手に、本件処分の取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求める事案である。

2 事実関係等の概要

 (1) 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(以下「刑事収容施設法」という。)139条1項は、刑事施設の長は、死刑確定者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く。以下同じ。)に対し、その親族との間で発受する信書(1号)、婚姻関係の調整、訴訟の遂行、事業の維持その他の死刑確定者の身分上、法律上又は業務上の重大な利害に係る用務の処理(以下「重大用務処理」という。)のため発受する信書(2号)及び発受により死刑確定者の心情の安定に資すると認められる信書(3号)について、発受を許すものとする旨を、同条2項は、刑事施設の長は、死刑確定者に対し、同条1項各号に掲げる信書以外の信書の発受について、その発受の相手方との交友関係の維持その他発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律及び秩序を害するおそれがないと認めるときは、これを許すことができる旨をそれぞれ規定している。

 (2) 所長は、平成27年3月12日付け達示第16号「「死刑確定者処遇規程」の制定について」を発出しているところ、その別紙「死刑確定者処遇規程」16条は、死刑確定者に対し、面会及び信書の発受が予想される者の申告を求め、所管の統括矯正処遇官は、当該死刑確定者と上記申告がされた者との間における外部交通の許否の方針について所長の決裁を受けるものとする旨を定めている。所長は、同条に基づき、同年7月31日当時、被上告人の親族38名、弁護士14名及び友人1名について被上告人との外部交通を許す方針としていたが、本件信書の差出人は、被上告人の親族ではなく、所長が被上告人との間の外部交通を許す方針としているその他の者にも含まれていなかった。

 (3) 本件信書には、Xからコピーを依頼された訴訟書類の写し及び原本を送付する旨の記述のほか、1行目には時候の挨拶(暑中見舞い)が、4~9行目にはXに対する謝意及び激励の記述があった(以下、上記の時候の挨拶並びにXに対する謝意及び激励が記述されている部分を「本件記述部分」という。)。所長は、本件信書のうち、本件記述部分については、刑事収容施設法139条1項各号に該当せず、同条2項により受信を許すべき事情も認められないが、その余の部分については、同条1項2号に該当すると判断した。そこで、所長は、本件記述部分について受信を許さないこととしてこれを削除する措置(本件処分)をし、Xに対し、削除後の本件信書を交付した。なお、削除とは、信書の一部分を物理的に切り取る処分をいい、抹消とは、記述部分を黒塗りするなどして認識できない状態にする処分をいう。

3 訴訟の経過

 1審は、刑事施設の長が、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき、重大用務処理のために必要とはいえない部分の発受を許さないこととして同部分を削除し、又は抹消することができるなどとした上で本件処分は適法であるとし、Xの請求をいずれも棄却した。

 これに対し、原告が控訴提起したところ、原審は、刑事収容施設法139条1項2号は、信書の発受の目的が重大用務処理のためであることを発受の許可の要件とするものであるところ、上記目的は当該信書全体の内容及び発受の相手方に照らして判断すべきものであり、上記目的が重大用務処理のためであると認められる信書については、その全体の発受を許すべきであり、重大用務処理のために必要とはいえない記述部分があるとしても、信書の内容による差止め等を規定した同法129条1項各号のいずれかに該当しない限り、当該部分を削除し、又は抹消することはできないと解するのが相当であるなどとして、本件処分を違法として取り消すとともに、本件処分が国家賠償法の適用上も違法であるとして、Xの損害賠償請求を一部認容した。

 そこで、Yが上告受理申立てをした。最高裁第二小法廷は、本件を上告審として受理し、刑事施設の長は、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律139条1項2号所定の用務の処理のために必要な記述部分のほかに、そのために必要とはいえない記述部分もある場合には、同項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き、同条1項に基づき、同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し、又は抹消することができる旨判断して原判決中被告敗訴部分を破棄し、原告の請求はいずれも理由がなく、これらを棄却した一審判決は正当であるとして、上記部分につき、Xの控訴を棄却した。

4 説明

 (1) 刑事収容施設法129条1項は、同項各号に該当する場合には、刑事施設の長が受刑者の発受する信書の発受を差し止め、又はその該当箇所を削除し、若しくは抹消することができる旨を規定し、同法141条は、死刑確定者の発受する信書についても同法129条(1項6号を除く。)を準用している。しかし、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき、刑事収容施設法139条1項2号所定の用務の処理(重大用務処理)のために必要な記述部分のほかに、そのために必要とはいえない記述部分(以下「不必要記述部分」という場合がある。)もある場合において、刑事施設の長が、不必要記述部分の発受を許さないこととしてこれを削除し、又は抹消することができるか否かについては、同法に明文上の規定は存在しない。

 この点について判断した最高裁判例は見当たらないが、下級審の裁判例としては、刑事施設の長が、不必要記述部分の発受を許さないこととして同部分を削除し、又は抹消することができる旨を判示するものが多数存在していた(大阪高等裁判所平成28年(行コ)第310号同29年3月17日判決(公刊物未登載)等)。他方、原審のように、信書の発受の目的が重大用務処理のためであるか否かは当該信書全体の内容及び発受の相手方に照らして判断すべきものであり、発受の目的が重大用務処理であると認められる信書については、不必要記述部分があってもその全体の発受を許すべきであるとして、不必要記述部分を削除し、又は抹消する措置を違法とする裁判例は見当たらない。

 (2) 刑事収容施設法において、外部交通の一類型である信書の発受は、受刑者については、原則的に相手方の範囲に制限はなく、基本的に保障されているのに対し(同法126条)、死刑確定者については、許される範囲は制限され、親族との間においては基本的に保障されるものの(同法139条1項1号)、それ以外の者との間においては重大用務の処理のため(同項2号)又は心情の安定に資すると認められる場合(同項3号)にのみ保障し(権利発受)、これ以外の場合には、信書の発受を必要とする事情があり、かつ、その発受により刑事施設の規律秩序を害するおそれがないと認められるときに、刑事施設の長の裁量により許す(同条2項)にとどまるもの(裁量発受)と解される。このように、死刑確定者について信書の発受が許される範囲が制限されているのは、①死刑確定者の拘置の趣旨、目的が、死刑の執行に至るまでの間、同人を社会から厳重に隔離すること等にあること(監獄法時代の判例であるが、最二判平成11・2・26集民191・469参照)に照らせば、刑事施設における処遇上、受刑者と比較して、より広範にその自由を制約することも許されると考えられること、②死刑確定者は、来るべき自己の死を待つという特殊な状況にあり、外部交通によって、激しい精神的苦痛に陥ったりすることが十分に想定されるため、親族などとの間の信書や交友関係の維持のため等に必要な信書の発受以上に、外部交通の自由を認めるのは適当ではないと考えられることなどを踏まえたものと解される(林真琴ほか『逐条解説 刑事収容施設法〔第3版〕』(有斐閣、2017)711~713頁)。

 そして、刑事収容施設法139条1項2号による信書の発受は、重大用務処理のための必要性を理由に許されるものであるから、その処理のために必要とはいえない記述部分についてまで、同号により発受を許すべき理由はない。

 本判決は以上のような理解のもと、判旨のとおり判断したものと考えられる。なお、本判決が、「刑事収容施設法139条1項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときを除き」としているのは、重大用務処理のために必要と認められない記述部分であっても、別途、同条1項3号によりその発受を許すべき場合があるほか、同条2項は、刑事施設の長の裁量によりその発受を許すものであるが、その発受を許さない旨の刑事施設の長の判断について裁量権の範囲の逸脱又は濫用があれば、当該判断が違法となることを念頭に置いたものと思われる。

 (3) 次に、刑事施設の長が、信書の一部についてその発受を許さないこととする場合に、削除又は抹消のいずれの方法を採るべきかが問題となる。

 信書の内容による差止め等を規定した刑事収容施設法129条1項は、刑事施設の長は、被収容者が発受する信書の一部が同項各号のいずれかに該当する場合には、「その該当箇所を削除し、若しくは抹消することができる。」とのみ規定しており、削除又は抹消のいずれの方法を採るべきかについては特段の定めをしていないこと、削除と抹消とでは事務量に差があり、そのいずれの方法を採るかが信書の検査事務全体にも影響を及ぼすものであること等に照らせば、同項は、各号に該当する箇所につき削除又は抹消のいずれの方法を採るかの判断に関しては、刑事施設内の実情に通暁し、刑事施設の規律及び秩序の維持その他適正な管理運営の責務を負う刑事施設の長の合理的な裁量に委ねたものと解される。そして、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書について、重大用務処理のために必要な記述部分のほかに不必要記述部分もあり、同法139条1項3号又は同条2項によりその発受を許すべきものと認められるときにも当たらない場合において、当該不必要記述部分につき削除又は抹消のいずれの方法を採るかの判断に関しても、同法129条1項の場合と別異に解すべき事情は見当たらない。そうすると、刑事施設の長が、その裁量権の行使に当たり、その範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められるときに限り、当該判断に係る処分は違法になると解するのが相当と考えられる。

 本件において、Xが収容されている大阪拘置所では、被収容者と外部との間で日常的に多数の信書の発受が行われており、抹消作業の実情に照らせば、これに従事する職員の負担は相当大きなものとなるというのであるから、抹消の方法によった場合、事務量の増加等により、信書の検査事務に支障を生ずるおそれがあるというべきである。そうすると、本件記述部分につき、抹消ではなく削除の方法によることとした所長の判断について、裁量権の範囲の逸脱又は濫用があるとはいえないと考えられる。

 本判決は、以上のような理解のもと、本件処分を適法と判断したものと思われる。

 (4) 本判決は、死刑確定者が親族以外の者との間で発受する信書につき刑事収容施設法139条1項2号所定の用務の処理のために必要とはいえない記述部分がある場合に、同部分の発受を許さないこととしてこれを削除し又は抹消することの可否について、最高裁として初めて判断を示した点で、理論上及び実務上、重要な意義を有するものと考えられる。

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