◇SH3117◇2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(中) 尾崎安央(2020/04/23)

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2020年の定時株主総会とハイブリッド型バーチャル株主総会(中)

早稲田大学法学学術院教授

尾 崎 安 央

目 次
はじめに
Ⅰ 3月決算会社の6月定時株主総会
Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点
 1 決算手続の遅滞
                     〔以上(上)掲載〕
 2 「三密」を回避した定時株主総会の開催
 (1)「三密」
 (2) 定時株主総会を開催することの必要性
 (3) 定時株主総会の開催延期
  ① 株主総会の延期または続行の決議
  ② 現行法の解釈で延期を認めることの可否
  (ⅰ) 定款所定の開催時期との関係
  (ⅱ) 定款所定の基準日との関係
                     〔以上(中)掲載〕
 (4) 規模を縮小した定時株主総会の開催
 (5) インターネットの活用
  ① テレワーク、インターネット会議
  ② バーチャル株主総会
おわりに 
                     〔以上(下)掲載〕

 

Ⅱ 2020年6月の定時株主総会(2019年度決算総会)の問題点(承前)

2 「三密」を回避した定時株主総会の開催

 第二の問題点は、株主総会の開催自体ができるかどうかである。

(1)「三密」

 「三密」という言葉は、今や人口に膾炙している。「三密」の語は、従来は密教などの用語であったと思うが、今はウイルス拡散防止にとって重要である「密閉空間・密集場所・密接場面」を避けることを意味するようである。それでは、定時株主総会は、この「三密」に該当するのか。

 多くの会社では、特定の屋内の密閉された空間(大きめの会議室など)で、少なくない数の株主が参集し、役員らも株主らも隣り合わせに配置された座席に着き、役員からの説明、株主からの質問などが交わされるのではなかろうか。これでは、「三密」を完全に充たすことになってしまうおそれがある。

(2) 定時株主総会を開催することの必要性

 定時株主総会は、毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない株主総会である(会社296条1項)。しかし、多くの会社では、特別の事情がない限り、株主総会の日の前日までに到着した議決権行使書面で決議は成立している可能性が高い。それゆえ、新型コロナウイルスが猛威を振るっている現在、定時株主総会を無理してでも開催しなければならないのかという疑問が生じるかもしれない。とはいえ、株主総会は株主の議決権行使による決議の場として重要であり、また近時は株主と会社経営者との対話の場としてもきわめて意義があるとの認識が広まっており、定時株主総会の開催は必須である。書面や電磁的方法による事前の議決権行使も現実に開催された株主総会における株主の議決権行使の方法の1つにすぎない。新型コロナウイルスが猛威を振るっているからといって、定時株主総会を開催しないという選択肢は、会社法上は、ありえないと考えられる。会社が議決権行使の基準日を定款で3月末日に定めているとすれば、その会社は、遅くとも6月末日までには定時株主総会を開催しなければならない、ということになる。

 それでは、新型コロナウイルスの感染のリスクを避けるためにどうすればよいのであろうか。

(3) 定時株主総会の開催延期

 定時株主総会を延期するという選択肢はどうか。新型コロナウイルスが収束するか否かが見えない現在、この選択肢は「いつまで延期するか」も含めて考えなければならない問題である。新型コロナウイルス感染症の拡大がある程度収束して、「三密」回避の要請が緩和されることが前提となるであろうが、以下では、その「延期」の可能性を検討してみよう。

➀ 株主総会の延期または続行の決議

 いったん現実の株主総会を開催し、「延期」あるいは「続行」を決議する方法が考えられる(会社317条)。金融庁は、「関係者の健康と安全が害されるリスク」を避けるために、日程の後ろ倒しとともに、継続会の方法を示唆する(新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応に係る連絡協議会「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査等への対応について」(2020年4月15日))。しかし、この方法には、株主総会の「続行」または「延期」に係る株主総会決議を有効に成立させる必要がある(会社317条「株主総会においてその延期又は続行について決議があった場合には」)。

 たしかに延期または続行の決議は議案そのものに関する決議ではなく、一種の議事進行に関する決議であるとして、予め招集通知に議題として記載されていなくても決議できると解されているので(上柳克郎他編集代表『新版注釈会社法(5)』(有斐閣、1986)249頁〔菅原菊志〕)、招集通知の記載方法には特段の問題はないとも考えられる(取締役会設置会社では、招集通知に記載されていない議題は決議することができない(会社309条5項本文))。しかし、そのような延期または続行の決議をするための株主総会の開催という問題は避けられない。この第1回目の株主総会の開催方法には何らかの工夫が必要であろう。決議の成立に限っていえば、これまでの定時株主総会がそうであったように、書面や電磁的方法による議決権行使によることで対応可能な場合が少なくないであろうが、株主総会自体が現実に開催されることが必須となろう。当該株主総会の延期・続行を決議した第1回目の定時株主総会がいわば「無観客試合」でもよいのかという問題はありうるであろう。

② 現行法の解釈で延期を認めることの可否

 現行法の解釈による株主総会の開催延期は可能か。2つの超えるべきハードルが考えられる。

 (ⅰ) 定款所定の開催時期との関係

 定時株主総会の開催時期に関する定款規定がある場合である。この点で、法務省は、今般の新型コロナウイルス感染症と定時株主総会の開催についてのリリースを発している(法務省「定時株主総会の開催について」(2020年2月28日、4月2日更新))。すなわち、定時株主総会の開催時期に関する定款規定がある場合でも、天災その他の事情によりその時期に開催することができない状況が生じたときまでその時期に開催することを要求していない、との前提から、今般の新型コロナウイルス感染症に関連して開催困難な状況となった場合について、「その状況が解消された後合理的な期間内に」開催すれば足りる、としている(同様のリリースは、東日本大震災のときにも発せられた)。現に、2月決算会社について定時株主総会を7月29日に延期した会社(D社)があることも報告されている(JPXグループマーケットニュース「定時株主総会の延期発表会社の一覧(2020年2月期以降)」)。

 たとえば、諸外国の例にはあるが、新インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態措置によっては難しいとされるロックダウン(都市封鎖)により外出禁止が徹底されたときである。このような事態に立ち至ったきは、株主総会の開催が不可能な状況になったといえるかもしれない。またロックダウンにならないとしても、会社の役員等や使用人等が全員あるいは主要な役員等が感染者あるいは濃厚接触者として隔離等をされているときなどでは、現実に株主総会(リアル株主総会)を開催したとしても、重要な会社関係者が欠席した株主総会となる。また現実に定時株主総会が開催され会社関係者が出席したとしても、出席株主がゼロという事態は、新型コロナウイルスの猛威が収まらないとすればありうることであろう。経済産業省=法務省はその「株主総会運営に係るQ&A」(2020年4月2日、4月14日更新)において、そのような出席株主ゼロという株主総会の開催も可能とする。株主は、通常時においても、株主総会に出席しないという選択が可能であることからすれば、株主自らが新型コロナウイルスの猛威を理由に出席しないと判断し、結果として全株主が出席しない事態となっても、株主総会決議はなしうるということである。その場合の方策が、そのQ&Aにも示されている書面や電磁的方法による議決権の事前行使である。しかし、逆にいえば、決議の成立だけを考えるならば、書面や電磁的方法による議決権の事前行使で成立が確保されている限り、定款規定の通りに定時株主総会を開催すればよいともいえる(無観客総会でも構わないという理解である)。

 株主総会の開催延期を考えるのは、株主が出席できる状況下で定時株主総会を開催すべきであるということである。新型コロナウイルスが猛威を振るっていて、多くの株主が出席を躊躇する状況下でも定時株主総会を開催する。しかし、「三密」を回避するためには、定款規定に従って定時株主総会を開催するのではなく、株主が出席できる時期(「その状況が解消された後合理的な期間内に」)まで延期して、定時株主総会を開催することが合理的であるということなのである。それはそれで一理ある。

 もっとも、今般の新型コロナウイルス感染症の猛威の前に、いつまで延期すればよいのであろうか(「その状況が解消された後合理的な期間内に」とはいつか)。現時点では、確実な解は出せないように思われる。

 (ⅱ) 定款所定の基準日との関係

 かりに定時株主総会の開催が延期されたとして、そのとき、定款所定の基準日はどうなるのであろうか。株主にとっては、議決権行使の基準日と剰余金配当の基準日が特に気になるところであろう。

 議決権行使や剰余金配当の基準日を変更すべく、定款変更をする方法はどうか。しかし、この方法も、定款変更には株主総会の特別決議が必要であるので(会社466条、309条2項11号)、今年の株主総会には間に合わない。

 それでは、定款規定を無視して、議決権行使の基準日を後ろ倒しで新たに設定し(たとえば5月末日とすれば、現行法規定に従えば、8月末までの定時株主総会の開催が可能となる)、その基準日設定を公告する方法はどうであろうか。法務省はそのような方法を示唆する(前掲「定時株主総会の開催について」参照)。たしかに会社法の条文は、公告方式がデフォルトであり(会社124条3項本文)、定款規定があるときについて、「この限りでない」と例外的処理的なものとされていることからすれば(同条同項但書)、原則に立ち返ればよいということなのであろう。

 もっとも、この方法は、議決権行使基準日や剰余金配当基準日が3月末日であることを期待していた株主が基準日を一方的に代えられた結果不利益を受けたとして、定款違反等の主張を行い、決議取消訴訟等を提起すおそれがある。裁量棄却で対応できるという指摘もあるが(倉橋雄作「新型コロナウイルス感染症と総会開催・運営方針の考え方――リスク管理のあり方が問われる2020年定時株主総会」商事法務2227号(2020)14~15頁)、訴訟提起自体を避けたいと考える総会実務担当者にとっては、クリアするにはハードルがいささか高いように感じられよう。また株主の期待に応えて剰余金配当の基準日はそのまま3月末日とすることになれば、議決権行使基準日と剰余金配当基準日とが一致しないことになる。それは現行法上も可能なことであるが(D社の例では、剰余金配当基準日は2月28日(有配)、議決権行使基準日は4月30日とされている。この会社についてリリースしたJPX「マーケットニュース」は「上場会社が配当金その他の権利の基準日を事業年度末日から変更することとなった場合、変更後の権利付最終日までの間において当該銘柄を売却した場合は、配当その他の権利が付与されないことになりますのでご留意ください」との注意喚起がなされている)、株主の期待を損なう突然の変更という受け止め方がなされても仕方がないであろう。会社の役員、使用人等も、また株主も、定時株主総会で決議等がなされることを前提に行動しているはずである。定時株主総会の開催の「延期」はその行動予定に反する面がある。会社法上、定款規定を墨守せよとまではいえないのはその通りであろうが、定款規定を「無視することの合理性」はやはり必要であろう。また延期したときでも、「合理的期間」内の開催日が明確にされる必要があると考えられるが、前述したように、新型コロナウイルスがいつ収まるかがよくわからず、「三密」をあまり意識しなくてもよい時期がいつ到来するかよくわからないことからすれば、延期後の開催日を明確にすることは難しいであろう。

(下)につづく

[2020年4月20日脱稿]

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