◇SH1104◇経産省、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針を策定(平成29年3月31日) 唐澤 新(2017/04/11)

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経産省、コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)を策定(平成29年3月31日)

岩田合同法律事務所

弁護士 唐 澤   新

 

 経済産業省は、平成29年3月31日、「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(以下「CGSガイドライン」という。)を策定した。

 我が国のコーポレートガバナンス改革については、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)の策定など様々な施策が講じられ、企業においてもCGコードにより示された主要な原則を実践するよう努めてきたところではあると思われるが、この度策定されたCGSガイドラインは、CGコードを補完するものとして、CGコードの実践に当たって企業が考えるべき内容を示すとともに、企業が「稼ぐ力」を強化するために有意義と考えられる具体的な行動を取りまとめた内容になっている。

 CGSガイドラインにおいては、①取締役会の在り方、②社外取締役の活用の在り方、③経営陣の指名・報酬の在り方及び④経営陣のリーダーシップ強化の在り方の四つの観点から、企業が検討すべき事項の提言がなされている。本論考においては、紙幅の制約上、読者の関心が特に高いと思われる①及び②の点を中心に取り上げることにしたい。

 まず、①「取締役会の在り方」という観点からは、取締役会の機能としては、経営陣の指名や報酬の決定を通じて経営陣による業務執行を監督する機能(監督機能)と、個別の業務執行の具体的な意思決定を行う機能(意思決定機能)があるところ、これまで我が国企業の取締役会では、意思決定機能が重視され、監督機能が十分に発揮されてこなかったところも少なくないとして、いずれの機能を果たす上でも、基本的な経営戦略や経営計画を決定することが重要であるとする。より具体的には、取締役会への付議事項を見直し、取締役会で議論されてきた事項のうち重要性が高くない業務執行案件を縮小するとともに、経営戦略に関する議論や監督機能に関する議論を充実させることが対応策として挙げられている(CGSガイドライン2.2.1)。また、取締役会における議論をより活発にするためには取締役(特に社外取締役)に対する十分な情報提供と準備が必要とするが、かかる点からは、取締役会の数日前に事前に資料を提供する、取締役会の開催前に議案の説明を行う、取締役会とは別の会議体(社外取締役だけにより構成されるものも含む)を設け、インフォーマルに情報提供や意見交換を実施するということが選択肢として考えられる(CGSガイドライン2.4.1)。

 次に、②「社外取締役の活用の在り方」という観点からは、企業経営経験者の重要性が指摘され、社外取締役のうち少なくとも1名は企業経営経験者を選任することを検討すべきとされる。社外取締役の活用に関する従来の議論においては、法曹・会計士といった専門性や女性・外国人といった属性に着目した議論が主たるものであったと思われることから、CGSガイドラインが社外取締役の人材として企業経営経験者の重要性を指摘する点は注目に値する。経営経験者の人材の確保という意味では、経営陣から退任した取締役が、相談役・顧問として自社に残るのではなく、他社の社外取締役に就任し、長年の経営で培った知見を活用すること、将来経営トップに就く可能性のある人材や現役の経営陣について、他社の社外取締役として自社とは異なる業界や文化に触れさせるといったことも企業においては今後検討する必要があろう(CGSガイドライン3.3)。

 ③「経営陣の指名・報酬の在り方」の観点からは、社外者中心の法定又は任意の指名・報酬委員会を設置し、CEO、経営陣の選解任や報酬の基準を作成させ、また、そのプロセスを管理させること、④「経営陣のリーダーシップ強化の在り方」の観点からは、退任CEOが相談役、顧問に就任する際の役割や処遇を明確化し、現役の経営陣に対する不当な影響力が生じないようにすること等が挙げられる。いずれも興味深い指摘であるが、詳しくは、CGSガイドライン本文を参照されたい。

 最後に、CGSガイドラインにおいて繰り返し強調されることでもあるが、企業において、CGコードやCGSガイドラインに示される施策を形式的に導入するだけではかえってコストを増加させるだけであり、コーポレートガバナンス改革を「形式」から「実質」へと深化させる必要がある。そのためには、各企業において、弁護士等の外部専門家と共同して、取締役や経営陣等に対してコーポレートガバナンスに関する研修・トレーニングを適切に実施し、これらの者の意識改革を行っていくことが求められるといえる。

 

CGSガイドラインの提言[1]

各企業は、以下の事項について検討すべき
 

1. 形骸化した取締役会の経営機能・監督機能の強化

  1. 中長期の経営戦略、経営トップの後継者計画の審議・策定
  2. ■ 個別業務の執行決定は対象を絞り込み、CEO以下の執行部門に権限委譲
     

2. 社外取締役は数合わせでなく、経営経験等の特性を重視

  1. ■ 人選理由を後付けで考えるのではなく、最初に必要な社外取締役の資質、役割を決定した上で人選
  2. ■ 社外取締役のうち少なくとも1名は企業経営経験者を選任(逆に、経営経験者は他社の社外取を積極的に引受け)
  3. ■ 社外取締役の活躍ぶりを発信。中長期的な企業価値向上に向け社外取のインセンティブを高める報酬を付与することも排除しない
     

3. 役員人事プロセスの客観性向上とシステム化

  1. ■ CEO・経営陣の選解任や評価、報酬に関する基準及びプロセス を明確化
  2. ■ 基準作成やプロセス管理のため、社外者中心の指名・報酬委員 会を設置・活用(過半数が社外、半々なら委員長が社外)
  3. ■ 役員候補者の育成・選抜プログラムの作成と実施
     

4. CEOのリーダーシップ強化のための環境整備

  1. ■ 取締役会機能強化により、CEOから各部門(事業部、海外・地域拠点等)へのトップダウンをやりやすく
  2. 退任CEOが相談役・顧問に就任する際の役割・処遇の明確化
  3. ■ 退任CEOの就任慣行に係る積極的な情報開示

 

以 上



[1] 経済産業省「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」(CGSガイドライン)の概要」より一部抜粋

  http://www.meti.go.jp/press/2016/03/20170331012/20170331012-5.pdf

 

 

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