◇SH1126◇実学・企業法務(第42回) 齋藤憲道(2017/04/24)

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実学・企業法務(第42回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

2. 開発・デザイン・設計

(4) 商品の安全性の確保

 商品の安全を確保する法令は、多くの場合、事故経験から得た教訓に基づいて整備されてきた。消費生活用製品安全法・液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律・ガス事業法・電気用品安全法[1]・有害家庭用品規制法[2]・化審法[3]・食品衛生法・健康増進法・その他の多くの安全に関する法令が制定され、①詳細な安全基準や規格等が定められるとともに、②安全確保に必要な業務管理を行うことが義務づけられる商品(又は、事業)もある。

  1. 〔安全確保を目的とする業務管理を法律で定めた例〕
  2. ・ 食品衛生法は、HACCPシステム[4]導入を推奨する。
  3. ・ 道路運送車両法は、車台番号の打刻・リコール制度[5]等を義務付けている。
  4. ・ 牛肉(BSE問題が発生)、及び、米(事故米流通問題が発生)については、トレーサビリティを厳格に確保する法律[6]が制定されている。
  5. ・ 医薬品は、新薬の開発着手から臨床試験等の厳格な手続きを経て、厚生労働大臣の製造販売承認を得たうえで製造・販売[7]され、患者に投与される。(開発着手から患者投与までに9~15年を要することが多い。)さらに、医薬品については、医師・看護師・薬剤師等の国家資格を有する者が取り扱い、万一、副作用等の保健衛生上の危害が発生した場合(又は、拡大するおそれがあることを知った場合)は、廃棄・回収・販売停止等の厳格な危害防止措置が義務付けられている[8]

 安全に関する法令違反に対しては、行政措置や刑事罰が法定されている。

 • 安全設計と遵法

 商品の設計は、安全に配慮して行う。

 商品の仕様の決定は、①使用者の特性[9]・使用場所(作動範囲を含む)・使用方法・使用期限(寿命)を設定し、②公的な最新の法令・基準・規格・規制、および、業界の事故例・裁判例・自社の前例等を反映して設定した社内業務規程・部品材料選定基準・製品試験基準等に準拠し、③想定される誤使用・異常使用を考慮して製造物責任法の欠陥要因を除去するようにして行う。

 一般に、設計段階で安全性を確保するためには、①用途・作動する範囲・寿命等を決定し、②発生する危険を洗い出し、③危害の大きさと発生確率からリスクの大きさを予想し、④リスクを評価して低減策を付加する(許容できないリスクが残れば①に戻る)、という①~④のプロセス(PDCAサイクルという)を順に繰り返すISO12100(機械類の安全性-一般原則)の手法が採られる。

  1. (注) 安全設計の具体的手法として、フールプルーフ設計[10]・フェールセーフ設計[11]・冗長設計[12]等が知られている。  

 設計段階におけるこれらの検討過程は、記録して整理しておくと、製品不良や事故の発生時に、迅速かつ適切に修理・回収・説明等するのに役立つ[13]

 商品の安全性を確保するために、技術基準を遵守することに加えて、法令により表示[14]・点検[15]等の義務を負うことになる場合は、表示ラベルの作成や点検業務の仕組みを整備し、法令に従って所管官庁等に届出等する。

(5) サービスに関する取引の適正性確保

 サービス分野のビジネスでは、新たな手口・形態による消費者被害が絶えず[16]、特定商取引法、割賦販売法、金融・投資関係の規制法令、プロバイダ責任制限法、不正アクセス禁止法、特定電子メール法、景品表示法、無限連鎖講防止法、古物営業法、著作権法等の法令の整備・改正が繰り返されてきた。

 役務・情報・利便等のサービスを顧客に提供するビジネスにおける開発・設計では、①提供するサービスの仕様、②サービス提供契約の内容(条件)、③サービスを提供する現場の整備、が決められるが、この①②③は、それぞれ適法かつ適切なものでなければならない。

サービスの開発・設計にあたっては、消費者の目線を常に意識し、最近の法令の改廃動向を踏まえて、サービス提供の現場で消費者トラブルが発生しない方法を考案することが重要である。

 近年は、高齢者を含む生活弱者保護の法制度整備が進んでいる[17]ことに注意したい。



[1] 以上の4法を、製品安全4法という。

[2] 有害物質を含有する家庭用品の規制に関する法律

[3] 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律

[4] 食品衛生法13条1項に規定する「総合衛生管理製造過程(製造または加工の方法及びその衛生管理の方法について食品衛生上の危害の発生を防止するための措置が総合的に講じられた製造または加工の過程)」の承認制度が1996年5月から施行された。この中に、米国で宇宙食の安全確保を目的として開発された食品の衛生管理システムHACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point)が組み込まれ、この他にも施設設備の保守管理と衛生管理・総合的な衛生管理の文書化等が定められている。総合衛生管理製造過程承認制度実施要領には、次の手順と原則が掲げられている。〔導入の5つの手順〕①HACCPチームの編成、②食品の記述(材料、最終製品、安定性、最終期限、包装、流通形態等)、③製品の用途、対象消費者、④製造工程一覧図(フローチャート)を作成、⑤製造工程一覧図を現場で確認。〔7つの原則〕①危害要因の分析、②必須管理点(Critical Control Point )の設定、③許容限界を確立、④モニタリング方法の確立、⑤是正措置の設定、⑥検証方法の手段の設定、⑦記録、文書化、保管方法の設定。

[5] 道路運送車両法29条(車台番号等の打刻)、63条の3(改善措置の届出等)

[6] 牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(通称、牛肉トレーサビリティ法)、米穀等の取引等に係る情報の記録及び産地情報の伝達に関する法律(通称、米トレーサビリティ法)

[7] 製造・販売に関しては、厚生労働省の品質管理の基準に関する省令・製造販売後安全管理の基準に関する省令が、厳しい管理体制の構築を義務付けている。

[8] 医薬品医療機器等法68条の9は、廃棄・回収・販売の停止・情報の提供・その他必要な措置を義務付ける。

[9] 乳幼児・小中学生・健常成人・高齢者、男性・女性、医師・看護師・薬剤師等の有資格者、一定の訓練を受けた者等

[10] 例えば、ふたが開いていると作動しない洗濯機

[11] 例えば、過電流が流れるとヒューズが切れて電流が停止する回路

[12] 例えば、病院の停電バックアップ・システム

[13] 裁判で記録を証拠に採用することがあり、裁判所の保全命令等に従って管理する。米国に関係する販売・製造・設計等のデータの管理は、米国のeディスカバリー法に留意して行う。米国の訴訟では、膨大な量の資料の保全・提出が必要になる。

[14] 例えば、食品表示法4条は、内閣総理大臣が策定する食品表示基準に掲げる事項(名称、アレルゲン、保存の方法、消費期限、原材料、添加物、栄養成分の量及び熱量、原産地、他)を食品に表示することを義務付ける。医薬品医療機器等法50~54条は、医薬品の直接の容器(又は被包)及び添付文書等への記載事項と記載禁止事項を詳細に定め、一定の記載事項について厚生労働大臣あてに報告することを義務付ける。

[15] 例えば、消火器(消防法17条の3の3)・自動車(道路運送車両法47条以下)・長期使用製品(消費生活用製品安全法2条4項)。

[16] 国民生活センター編「消費生活年報2016」によれば、2015年度にトラブルが多かったのは、多い順に、アダルト情報サイト、デジタルコンテンツその他、インターネット接続回線、商品一般、賃貸アパート・マンション、フリーローン・サラ金、移動通信サービス、健康食品、四輪自動車、他の役務サービス、放送サービス、修理サービス、出会い系サイト、新聞、化粧品、携帯電話、紳士・婦人洋服、生命保険、エステティックサービス、医療サービス、ファンド型投資商品、他の行政サービス、アクセサリー、その他金融関連サービス、クリーニングである。

[17] 例えば、消費者契約法(2016年6月改正)は、高齢化社会において消費者を保護するため、事業者が消費者契約の締結を勧誘する際に分量・回数・期間が当該消費者にとって通常の分量等を著しく超えると知っていた場合に、その勧誘によって契約の申込み・承諾の意思表示をした消費者は、その契約を取り消すことができることとした。

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