◇SH2393◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(147)日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑲ 岩倉秀雄(2019/03/12)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(147)

―日本ミルクコミュニティ㈱のコンプライアンス⑲―

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、企業グループのコンプライアンス体制の強化について、組織間関係論に基づく理論的視点を述べた。

 一般に、親会社は資本関係をベースにパワー(影響力)を行使しつつ、子会社の自主性に配慮して支援する。

 親会社の所有に基づく報酬・制裁のパワーは強力であり、時間が経つにつれて、親会社と子会社の間には組織間文化(グループ組織間で共有される価値や行動様式)が形成され、組織間の統合機能を果たすことになる。

 組織間文化(自らの価値と他組織の価値を結びつける)は、組織間の「行動規範」の機能があり、焦点組織の政策、対境担当者の行動とメンバー組織の評価・行動の積み重ねにより形成され、協調関係の形成・維持の前提となる。

 組織間文化は、組織間における神話、儀礼、言語の他に、経営会議や各種委員会への参加など公式のコミュニケーションシステム、経営者同士の個人的関係や対境担当者同士の業務行動などの影響を受ける。

 したがって、筆者は、企業グループのコンプライアンスで重要なことは、親会社が子会社に対して強力なパワーを行使するとともに支援を行い、コンプライアンス重視の組織間文化を形成することであると考える。

 具体的には、①グループ共通の理念やビジョン・行動憲章等の共有化、②親会社と子会社の対境担当者間のコミュニケーション、③親会社の子会社に対するパワーの行使と支援、④子会社の実施状況の確認・検証、⑤グループのコンプライアンス委員会に子会社の社長や責任者を出席させる、⑤親・子会社連携によるコンプライアンス研修の実施、⑥子会社に対するアンケート調査の実施等、様々の方法が考えられるが、留意点としては、子会社の実態に合った取り組みが重要である。

 今回は、子会社から見たコンプライアンス上の留意点について考察する。

 

【日本ミルクコミュニィティ(株)のコンプライアンス⑲:コンプラインス体制の構築と運営⑥】

 既述したが、筆者は、日本ミルクコミュニティ(株)の設立に関与した後、同社の初代コンプライアンス部長として移籍しコンプライアンスの仕組みをゼロから構築した後、子会社の管理担当役員として出向し、コンプライアンスについても担当した。

 そのため、親会社で自分が策定した子会社に対するコンプライアンス施策を、子会社の立場で実践し考察する機会を得た。

 それを踏まえ、今回は、子会社から見た企業グループのコンプライアンスの留意点について考察する。

 

1. 親会社の組織文化は子会社に遺伝する

 親会社から派遣される子会社の経営幹部は、意思決定の様々な場面において、慣れ親しんだ親会社の価値判断や仕組みを持ち込みやすい。

 企業にもよるが、子会社出向役員の人事権は親会社にあるので、常に親会社の意向を気にする出向経営幹部も多いと思われた。

 組織文化は意思決定の前提となるものなので、子会社の業種・業態が親会社と異なるとしても、経営環境の捉え方や課題への対応方法に出向者が持ち込んだ親会社の価値観が影響を与える。

 そのため、親会社から派遣された子会社の役員が、子会社の実態にふさわしくない場合でも、親会社の意思決定の仕組みや管理手法を子会社に導入しようとしやすい。

 コンプライアンスのように、実行することがグループ組織全体の存続を左右する重要事項であり表向き反対する理由がない場合であっても、子会社の実体に合わない仕組みを導入しようとすると、子会社の生え抜き社員は、表面上は指示・命令に従ったとしても、本心では納得してないので、現場は指示通りに動かず意図した成果を挙げにくい。(面従腹背になりやすい)

 特に子会社でコンプライアンス違反が発生しやすいのは、コンプライアンスの重要性を言いながらも、目先の成果を求める圧力が親会社から子会社に加わっている場合(不祥事発生組織の子会社に多い)や、過去、利益至上主義の組織文化であった親会社が、不祥事の発生を機に現在はコンプライアンス重視経営に舵を切っていたとしても、親会社の不祥事発生の前あるいは発生直後に子会社に転出した経営幹部が頭を切り替えられず、旧い利益至上主義の価値観を体現している場合等である。

 

2. 子会社は人的資源が少ない

 子会社の規模にもよるが、一般に子会社の管理部門は人数が少なく、一人の人間が様々な業務を兼任しているケースが多いので、コンプライアンスに投入できるマンパワーは少ない。

 前回は、規模が小さく資源の少ない子会社に対しては、親会社が密接・積極的に支援し、タイトな組織間関係を構築して支援をする必要があることを述べたが、具体的には、①親会社の対境担当者が、適切な情報をタイムリーに提供する(特に法関連情報等)、②子会社が研修を実施する場合に、親会社のコンプライアンス部門が相談に乗り、情報提供、テキスト作成補助、講師派遣・紹介等、様々な支援を行う、③共通の従業員相談窓口を設ける、④親会社が子会社にもコンプライアンスアンケートを実施する、⑤コンプライアンス人事評価を行い、必要によりコンプライアンス意識の高い経営幹部を派遣する、⑥コンプライアンスに関するグループとしての体制・強化基準を作成してチェックし、不足する面を補強する、等が考えられる。

 

3. 集合研修よりも現場での研修が重要

 既述したが、集合研修では研修参加者が子会社に帰った後に、十分に内容を伝えられない場合や、子会社の経営幹部の中にコンプライアンスに反発する幹部が居る場合、子会社の組織文化がコンプライアンスよりも利益重視になっている場合等では、集合研修の意図が十分に伝わらない。

 親会社のコンプライアンス部門のマンパワーにもよるが、可能な限り子会社に出向いて研修を行うことが、現場の実体の把握、質疑を通した理解の深まりコンプライアンス部門の熱意が伝わる等、の効果があると思われる。

 なお、その際には、事前に子会社のコンプライアンスアンケート結果を把握するとともに子会社のニーズを把握しておくことが重要である。

つづく

 

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