◇SH2084◇東証、「売買単位の統一に向けた単元株式数の変更等に関するご注意」を公表 鈴木智弘(2018/09/12)

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東証、「売買単位の統一に向けた単元株式数の変更等に関するご注意」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 鈴 木 智 弘

 

 株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)は、平成30年9月3日付で「売買単位の統一に向けた単元株式数の変更等に関するご注意」を公表した。

 全国証券取引所は、投資家の利便性を向上させるため、平成21年11月から上場内国株券の売買単位を100株に統一するための取組みを進めてきた。売買単位統一の取組みを始めた当初は8種類(1000株、100株、1株、500株、10株、50株、200株、2000株)の売買単位が存在していたが、平成26年4月1日までに100株と1000株への種類への集約を行い、平成30年10月1日までに100株単位への移行を完了させるものとされた。この取組みの結果、平成30年8月1日時点で上場会社の99.8%(3601社のうち3592社)が売買単位を100株とした。

 

https://www.jpx.co.jp/equities/improvements/unit/index.htmlより)

 

 全国証券取引所が平成19年11月27日付で公表した「売買単位の集約に向けた行動計画」は、売買単位の集約の意義として、①売買単位が何種類も存在する市場は国際的にも少数であり[1]、投資家の利便性を低下させる一因となっていたことや、②売買単位の種類が減ることにより株式売買取引における誤発注のリスクが低減する効果が期待できること等を挙げていた。

 売買単位100株への統一に向けた企業の取組みは、以下のような株主総会における株式併合の付議議案の増加からも読み取ることができる。

 

(中川雅博「株主総会参考書類作成上の留意点(役員選任議案以外)」旬刊商事法務2161号(2018)24頁)

 

 すなわち、売買単位を1000株から100株に変更するに際して、望ましい投資単位の水準(5万円以上50万円未満。東京証券取引所有価証券上場規程445条参照)との兼ね合い等から、併せて株式併合が実施されることが少なくないところ、平成29年6月総会での付議会社数が前年比で大きく増加している(113社から331社へ)のもこの影響である。そして、かかる株式併合議案に対し国内外の機関投資家からの反対はほとんどみられなかった(依馬直義「機関投資家による議決権行使の状況-2017年の株主総会を振り返って-」旬刊商事法務2150号(2017)22頁)。

 また、売買単位は株主提案権との関係でも取り上げられることがある。会社法上、取締役会設置会社の場合、原則として6か月前から総株主の議決権の100分の1以上、もしくは300個以上の議決権を保有する株主には株主提案権が認められている。

 この株主提案権の行使要件の議決権の100分の1以上という相対的基準と議決権の300個以上という絶対的基準のバランスが取れているのかについて疑問を呈する見解もある。例えば、仮に発行済株式総数が1億株で売買単位が100株である株式会社を想定すると、議決権の100分の1以上となる株数は100万株となる一方で、議決権300個となる株数は3万株に留まるため、両者でバランスを欠くことから、300個以上の議決権という絶対的基準を引き上げるべきではないかとの指摘がなされていた(加藤貴仁ほか「対話型株主総会プロセスの将来像(下)」旬刊商事法務2123号(2017)38頁〔永池正孝発言〕)。

 もっとも、この指摘に対しては100分の1以上の議決権という相対的基準と300個以上の議決権という絶対的基準の間に乖離が生じることはそもそも予定されていたものであり、両基準の乖離のみを理由として絶対的基準を引き上げることは絶対的基準が設けられた趣旨に反し、個人株主をはじめとする少数株主による株主提案権を過度に制限してしまうこととなるおそれがあるという反対の考え方もあった(法務省民事局参事官室「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案の補足説明」21頁)。

 以上のとおり両論あり得ることから、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が平成30年2月に取りまとめた「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」においても「株主提案権の行使要件のうち300個以上の議決権という持株要件及び行使期限の見直しをするものとするかどうかについては、なお検討を要する」と記載されることになった(第2の後注)。

 以上のとおり、売買単位やその統一は、株式の売買のみならず、株主総会の運営にも影響を与え得るものであった。

 平成30年8月1日時点で上場会社の99.8%が売買単位を100株とし、全国証券取引所の取組みは実った。売買単位の統一による利便性の向上が、今後の日本の証券取引所の株式市場の活性化につながるかどうかは大いに注目である。

以上



[1] 同行動計画によれば、アメリカでは100株単位、ヨーロッパでは1株単位が主流であるとされる。

 

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