◇SH1188◇最大判 平成29年3月15日 窃盗、建造物侵入、傷害被告事件(寺田逸郎裁判長)

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1 事案の概要

 本件は、広域集団窃盗・建造物侵入等被告事件について、車両に使用者らの承諾なく秘かにGPS端末を取り付けて位置情報を検索し把握する刑事手続上の捜査(以下「GPS捜査」という。)の適法性等が問題とされた事案である(以下、本件で実施されたGPS捜査を「本件GPS捜査」という。)。なお、GPSを利用した捜査には、携帯電話・スマートフォンのGPS機能を利用して携帯電話等の位置情報を電話会社等から検証許可状の発付を受けて取得する方法があり、実務上も行われているが、本判決は、そのような捜査手法について触れるものではない。

 

2 訴訟の経過

 原々審裁判所は、本件GPS捜査は検証の性質を有する強制の処分(刑訴法197条1項ただし書)に当たり、検証許可状を取得することなく行われた本件GPS捜査には重大な違法がある旨の判断を示した上、本件GPS捜査により直接得られた証拠及びこれに密接に関連する証拠の証拠能力を否定したが、その余の証拠に基づき被告人を有罪と認定した。被告人が控訴し、訴訟手続の法令違反、量刑不当を主張して原々審裁判所が証拠能力を否定しなかったその余の証拠についても証拠能力を否定すべきであるとしたところ、原判決は、控訴趣意をいずれも排斥したが、本件GPS捜査に重大な違法があったとはいえないと説示した。

 

3 本判決

 本件の論点は、①GPS捜査の強制処分性及び令状主義(憲法35条)との関係、②強制処分性が肯定される場合、現行刑訴法上の各種強制処分との関係(GPS捜査が「現行刑訴法上の」強制処分といえるかという問題)の2点である。本判決は、上告趣意のうち、憲法35条違反をいう点は、原判決の結論に影響を及ぼさないことが明らかであり、その余は、適法な上告理由に当たらないとした。しかしながら、所論に鑑み、論点①について、前記「判決要旨」のような判断を示し(以下「判旨Ⅰ」という。)、論点②について、「GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して憲法、刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。」との判断を示し(以下「判旨Ⅱ」という。)、これらと異なる原判断は憲法及び刑訴法の解釈適用を誤っており是認できないとした上、原判決の前記法令の解釈適用の誤りは判決に影響を及ぼすものではないことが明らかである旨を述べて、裁判官全員一致の意見で、上告を棄却した。判旨Ⅱについて、岡部喜代子裁判官、大谷剛彦裁判官及び池上政幸裁判官の共同の補足意見が付されている。

 

4 説明

(1) GPS捜査の強制処分性及び令状主義との関係について

 ア GPS捜査の強制処分性等に関する最高裁判例はなく、下級審は、強制処分性を肯定して令状がなければ行えないとする名古屋高判平成28・6・29判時2307号129頁(本判決と同日付けの上告棄却決定〔職権判示なし〕により確定)等と、強制処分性を否定して任意処分として行えるとする広島高判平成28・7・21(控訴審で確定・判例秘書登載)等に分かれていた。なお、判例上、プライバシー等との関係で強制処分性が問題とされた捜査手法には、①公道上における写真撮影(最大判昭和44・12・24刑集23巻12号1625頁・京都府学連デモ事件)、②人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるビデオ撮影(最二小決平成20・4・15刑集62巻5号1398頁)、③刑訴法222条の2制定前の電話傍受(最三小決平成11・12・16刑集53巻9号1327頁。以下「平成11年判例」という。)、④宅配運送の過程下にある荷物の外部からのエックス線検査(最三小決平成21・9・28刑集63巻7号868頁)があり、①②については強制処分性が肯定されなかった一方で、③④については強制処分性が肯定されていた。

 GPS捜査の強制処分性に関する国内の学説をみると、基本的に、①任意処分とみる見解と、②強制処分とみる見解に大別される。任意処分説として分類したものの中には、GPS捜査につき、尾行等の補助手段として行われる場合と、対象者の行動を網羅的、継続的に把握することを目的とする場合の二つの類型に区別し、前者は任意処分であるが、後者は強制処分になるとする「二分説」と呼ばれる見解が含まれる。①任意処分説は、「GPS捜査により得られるのは、対象車両が私有地内に入ったような場合を含め、第三者に知られないで済ますことを合理的に期待し得るような要保護性の高い重要な利益といえない情報である上、『対象車両がそこにいる』という、公的領域からの観察によって把握し得るものと等質の情報にすぎないから、GPS捜査は、重要な権利・利益に対する実質的な侵害・制約をするものではない」ことなどを論拠とする。一方、②強制処分説としてこれまで公表されていたものの多くは、プライバシー保護の観点から情報取得後の法規制の必要性を強調するものが多い。

 イ 以上のような状況の下、本判決は、判旨Ⅰのとおり、GPS捜査は令状がなければ行えない強制処分であることを肯定した。判例上、強制処分とは「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」と説示されており(最三小決昭和51・3・16刑集30巻2号187頁。以下「昭和51年判例」という。)、有力な学説も、基本的にはこの区別を支持する(井上正仁『強制捜査と任意捜査の区別』(有斐閣、2006)・同『強制捜査と任意捜査 新版』(有斐閣、2014)2~32頁、酒巻匡『刑事訴訟法』(有斐閣、2015)23~31、104~109頁等)。本判決も昭和51年判例を参照判例として引用しており、同判例を踏まえた判断をしたものと思われる。

 ウ 本判決は、判旨Ⅰの判断を導くに当たり、「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。」と説示している。この部分は、GPS捜査の強制処分性について判断する前提として、GPS捜査の性質を類型的に措定している部分であり、本判決が、①本件において実施された本件GPS捜査に係る個別具体的事情、例えば、捜査の必要性・緊急性等を基礎付ける事情や本件GPS捜査により侵害された利益の内容・程度等に言及していないこと、②強制処分性の判断に当たり、GPS捜査による「被侵害利益の内容程度」とともに「侵害の態様」に関わる評価を加えていること、③尾行の補助手段に留まるGPS捜査とそうでないGPS捜査を区別しておらず、前述のいわゆる「二分説」を採るものでないことを明らかにしていることが注目される。

 エ 次に、本判決が、GPS捜査について、令状がなければ行うことができない強制の処分と結論付けた理由をみる。

 本判決は、「憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。」と説示する。かつて憲法35条は「住居の不可侵」を定めるものなどと説かれていた時代もあるが、今日では、「住居、書類及び所持品」についての財産権的ないし物理的権利の保護にとどまらず、個人のプライバシー保護の観点から理解する見解が主流となっている(小林直樹『憲法講義(上)』(東京大学出版会、1968)368頁、伊藤正己『憲法〔第3版〕』(弘文堂、1995)341頁、部信喜著=高橋和之補訂『憲法〔第6版〕』(岩波書店、2015)248頁、井上正仁「令状主義の意義」・前掲『強制捜査と任意捜査 新版』58~63頁、前掲酒巻105頁等)。本判決は、このような学説の状況及び憲法35条の文理を踏まえて、憲法35条の保障対象には「住居、書類及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されることのない権利が含まれると判示したものと考えられる。

 その上で、本判決は、GPS捜査は、「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るもの」であるとし、「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」と説示している。注目されることは、GPS捜査が「個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う」ことから直ちに強制処分性を導き出すのではなく、侵害態様、すなわち「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器」を「所持品に秘かに装着すること」によって行うことを加味して「憲法の保障する重要な法的利益(=私的領域に侵入されない権利)」の侵害に当たるとの判断を導き出していることである。また、本判決が、GPS捜査の強制処分性を認める直接の理由付けとして、「私的領域に侵入されない権利」の侵害を問題にしているのは、令状主義の根拠条文である憲法35条の文理に即した解釈を示す必要があると考えられたこと、プライバシーという用語では、外縁が不明確で、憲法35条によって保障されているとみるべき権利・利益とそうでないものを区別することができないと考えられたことによるものと推察され、GPS捜査による被侵害利益の実質を「私的領域である自動車に侵入されない権利」と捉えたものではないように思われる。本判決は、GPS捜査の被侵害利益の実質を個人のプライバシーと捉えているものであるが、GPS端末の装着によって個人の行動の継続的、網羅的な把握が可能となることを重視している点で、空間の公私を問わず位置情報の把握自体がプライバシー侵害に当たるとする弁護人の上告趣意とは一線を画しているといえよう。

 本判決は、GPS捜査が強制の処分に当たるとする判断に引き続き、「一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難である」と指摘して、GPS捜査は令状がなければ行えない処分であるとした。刑事手続上の強制処分でありながら、令状を要しない処分として認められているものには、現行犯人逮捕や逮捕に伴う捜索等があるが、これらは、いずれも処分者による濫用の余地が乏しく、令状を要求する意味がないと思われるものである。本判決の前記指摘は、GPS捜査が、これら令状によるコントロールを不要とする類型に当てはまらないことを述べたものと思われる。

(2) 現行刑訴法上の各種強制処分との関係について

 ア GPS捜査を強制の処分と判断した下級審は、検証許可状等による実施の余地を認める判示をしたものと解される。もっとも、前掲名古屋高判は、「より根本的には、GPS端末を利用した捜査全般に関する新たな立法的措置も検討されるべきである。」などとも判示していた。また、学説は、検証許可状等による実施の余地を認める積極説と、新たな立法がなければ認められないとする消極説に分かれていた。

 イ 以上のような状況の下、本判決は、判旨Ⅱのように、GPS捜査について、刑訴法197条1項ただし書の「この法律に特別の定のある場合」に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義があるとし、憲法及び刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましいと判示した。本件GPS捜査はそもそも無令状で実施されているところ、本判決は、「捜査及び令状発付の実務への影響に鑑み」本論点について判断を示す旨述べており、本論点が、本件事案に直接不可欠な判示ということはできないことを踏まえているように思われる。それにもかかわらず、あえて大法廷が、本論点に関する判断を示したのは、GPS捜査につき令状がなければ行うことができない強制処分であると判断した以上、現行の令状によってGPS捜査を行えるかどうかはこれと直結する法律的論点であり、しかも、下級審の裁判実務が固まっていない現状にも鑑みれば、今後の捜査及び令状発付の実務に無用の混乱を生じることがないよう、最高裁の基本的な見解をこの段階で示す必要があると考えられたためであろう。

 ウ 本判決は、最初に「GPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。」と説示する。検証では捉えきれない性質を有することも否定し難いとしたのは、検証に「必要な処分」(刑訴法129条)としても説明しきれないとの意味であろうが、この説示に引き続き、「仮に、検証許可状の発付を受け、あるいはそれと併せて捜索許可状の発付を受けて行うとしても」と述べていることからすると、GPS捜査の性質決定が本論点の決め手になるとは解していないのであろう。

 エ 本判決の判旨Ⅱを導く根拠として重要なのは、前記ウの説示に引き続く説示部分といえよう。

 本判決は、まず、「GPS捜査は、GPS端末を取り付けた対象車両の所在の検索を通じて対象車両の使用者の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであって、GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。」と説示する。令状主義の趣旨は、被疑事実との関連で必要性のある処分であるか否かを裁判官に事前審査させるとともに、捜査機関に対し権限行使の具体的範囲をあらかじめ令状に明示させることにより、捜査権限の恣意的行使を抑制するところにあると解されている。GPS捜査は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うものであり、把握される情報の中には被疑事実と関係のない行動に関するものが必然的に含まれてしまう。その中には、将来の犯罪に関するものも含まれるが、そのような将来の犯罪の強制捜査は、刑訴法上は想定されておらず、これを許容するためには特別の立法が必要と解される。本判決が、車両及び罪名を特定しただけでは、被疑事実と関係のない使用者の行動の把握を抑制することができないとするのは、この点を重く見たのであろう。

 本判決は、次に、「GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項、110条)、他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても、これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは、適正手続の保障という観点から問題が残る。」と説示する。GPS捜査が事前の令状提示を行うことを想定できないものであること、事前の令状提示が絶対的な要請であるとは解されないことは、検証許可状等による実施の余地を認める見解から指摘される点であるが、本判決は、こうした指摘を踏まえつつ、適正手続の保障という観点からこれに代わる公正の担保の手段が「仕組みとして確保」される必要があることを指摘したものといえる。

 本判決は、前記説示を受けて、「これらの問題を解消するための手段として、一般的には、実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられるところ、捜査の実効性にも配慮しつつどのような手段を選択するかは、刑訴法197条1項ただし書の趣旨に照らし、第一次的には立法府に委ねられていると解される。仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、以上のような問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じるが、事案ごとに、令状請求の審査を担当する裁判官の判断により、多様な選択肢の中から的確な条件の選択が行われない限り是認できないような強制の処分を認めることは、『強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない』と規定する同項ただし書の趣旨に沿うものとはいえない。」と説示する。本判決は、GPS捜査の公正さを担保する手段として、「実施可能期間の限定、第三者の立会い、事後の通知等様々なものが考えられる」としているが、それ以外にも多数の選択肢があり得る上、個々の手段を具体的にどのようなものとするかについても一義的には決まらず、そのほか、対象犯罪に限定を加えるか否か、嫌疑や必要性としてどの程度のものを要求するかということも問題となり得るであろう。このような制度的な検討を、令状請求を受けた個々の裁判官の判断に委ねるのは、強制処分法定主義の趣旨に照らし相当とは考えられず、本判決が、「第一次的には立法府に委ねられている」としたのは、このようなことを考慮した結果であって、刑訴法197条1項ただし書が定める強制処分法定主義の下では、立法によって対応するのが原則であることを改めて確認した説示と思われる。さらに、仮に法解釈により刑訴法上の強制の処分として許容するのであれば、既に述べた問題を解消するため、裁判官が発する令状に様々な条件を付す必要が生じることになろうが、令状請求がある度に、事案ごとに令状審査を担当する裁判官の判断により、かつ、事案ごとに多様な選択肢の中から的確な条件の選択が求められるというような強制の処分を認めることは、本判決が述べるとおり、強制処分法定主義の趣旨に沿うものとはいえないと思われる。GPS捜査を許可する令状を発付するに当たって付すべき条件は、強制採尿の場合のようなシンプルなものでは済まないのであって、判断する裁判官によって実質的に異なる条件を付した令状が種々発付されるおそれがないとはいえないということが考えられたのではないかと思われる。また、電話傍受に係る平成11年判例との関係については、平成11年判例と今回とでは、判断の前提となる問題状況が大きく異なっているため、特に言及することなく、大法廷の判断を示すこととされたものと考えられる。

 オ 本判決は、以上のような説示を踏まえ、判旨Ⅱのとおり判断したものと思われる。本件は令状が発付された事案ではないことから、判例の直接的な射程という意味からすると、今後、現行法の下での令状請求があった場合に、これを発付するかどうかは、現実に令状請求を受けた裁判官が改めて判断すべき問題として残されているともいえる。本判決が、特別の条件を付した検証許可状により実施することについて、「疑義」を指摘するとの表現にとどめているのは、こうした点を考慮したためと思われる。しかし、本判決は、令状請求を受けた裁判官がGPS捜査を可能とするために刑訴法上の令状を発付することは基本的に想定していないように思われる。本判決に付された共同補足意見が述べるように「刑訴法1条の精神を踏まえたすぐれて高度の司法判断として是認できるような場合」、すなわち「ごく限られた極めて重大な犯罪」について、行動の継続的、網羅的な把握が不可欠であるとの意味で「高度の必要性」が認められる場合に、令状が発付される余地があるとしても、その余地は極めて限定的であって、そのような場合に当たるかどうかについては、「特別の事情の下での極めて慎重な判断」が求められることになるように思われる。

 

5 本判決の意義等について

 本判決は、GPS捜査という新しい捜査手法に関し、憲法35条の解釈にも言及しつつ、その強制処分性、令状主義との関係について、最高裁として初めての判断を示したものであって、現行刑訴法上の各種強制処分との関係に言及した部分とともに、理論上及び実務上極めて重要な意義を有するものと思われる。

 本判決の評釈として、井上正仁「GPS捜査」井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選〔第10版〕』別冊ジュリスト232号(有斐閣、2017)64頁がある。

 

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