金融庁、スチュワードシップ・コード(改訂版)の確定
岩田合同法律事務所
弁護士 鈴 木 正 人
金融庁は、2017年5月29日、「『責任ある機関投資家』の諸原則≪日本版スチュワードシップ・コード≫」(以下「SSC」という。)の改訂版を確定し、また、パブリックコメント回答(以下「本PC回答」という。)を公表した。
「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」での議論を踏まえて同年3月にSSC改訂案がパブリックコメントを付されたが、今般、SSCの改訂版が確定した。改訂版の主な改正事項は、①アセットオーナー(資産保有者としての機関投資家)によるチェック(前文7、指針1-3から1-5)、②運用機関(資産運用者としての機関投資家)のガバナンス・利益相反管理等(指針2-3、2-4等)、③議決権行使結果の個別開示(指針5-3)、④機関投資家と投資先企業との対話の充実(パッシブ運用に係る留意点、集団的エンゲージメント)(指針4-2、4-4)、⑤運用機関の自己評価(指針7-4)である。なお、上記③については賛否の理由の不開示の場合でも不開示の理由の説明は必要ないと考えられている。
また、SSCの適用対象者については公表が求められる具体的項目の追加(下図参照)がなされており、SSC(指針を含む。)を(i)実施しない場合の理由の説明(前文13)、(ii)実施している場合の積極的な説明(いわゆる「コンプライ・アンド・エクスプレイン」)の期待(前文12)が定められている。SSCの改訂内容は、2017年4月のタイムラインで解説されているため、本稿では、本PC回答のうち重要と思われる事項について紹介する。
SSCが策定された際の2014年2月27日付パブリックコメント回答と同様に、本PC回答も和文版、英訳版のそれぞれの改訂案に対してなされている(以下、前者を「和PC回答」、後者を「英PC回答」という。)。
まず、新設の指針2-3(運用機関は、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止のため、例えば、独立した取締役会や、議決権行使の意思決定や監督のための第三者委員会などのガバナンス体制を整備すべきである。)に関しては、独立した取締役会や第三者委員会の整備は例示であり、「第三者委員会」を設置する際には、顧客・受益者の利益の確保や利益相反防止の観点から適切な独立性を有することが必要である旨の見解が示された(和PC回答12番、英PC回答12番)。
また、新設の指針5-3(議決権行使結果の個別開示)では、運用機関において同一の議案について賛否が分かれた場合の公表について、「賛否が分かれた旨を公表する対応や適切に議決権を行使しているか否かについての可視性を高めることに資すると考える場合には賛否の割合等を併せて公表する対応も考えられ」(同回答26番)、「守秘義務条項が存在し得る投資一任契約に基づいて運用される口座に関して顧客の承諾が得られない場合には、その旨の「エクスプレイン」を行う対応も考えられる」(同回答27番)旨の見解が示された。また、機関投資家が議決権の行使結果を個別の議案ごとに公表する点に関して、取締役選任議案については、一般に、個別の取締役候補者ごとに議決権が行使されることから、それぞれの候補者についての議案が、個別の議案に当たる(同回答28番)との見解が示された。
上記各回答は機関投資家が議決権行使結果の個別開示の方法を検討する際に参考になるものと思われる。
適用対象 | 根拠 | 公表が求められる具体的項目として追加されたもの |
全機関 |
指針2-2 |
特に、運用機関については、議決権行使や対話に重要な影響を及ぼす利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、それぞれの利益相反を回避し、その影響を実効的に排除するなど、顧客・受益者の利益を確保するための措置について具体的な方針を記載。 |
指針5-3 |
個別の投資先企業及び議案ごとに公表(それぞれの機関投資家の置かれた状況により、当該公表が必ずしも適切でないと考えられる場合には、その理由を積極的に説明。個別に公表を行わない場合には、少なくとも議案の主な種類ごとに整理、集計して公表。) |
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議決権行使 |
指針5-5 |
業務の体制や利益相反管理、助言の策定プロセス等に関する自らの取組み |
運用機関 |
指針7-4 |
各原則(指針を含む)の実施状況に関する自己評価 |
(注) 改訂前SSCを受け入れている機関投資家は、遅くとも本年11月末までに、改訂内容を踏まえて、SSCの各原則(指針を含む)に基づく公表項目の更新を行い、あわせて、更新を行った旨も公表することが要請される。