公取委、大東建託株式会社及び大東建託パートナーズ株式会社に対する勧告
岩田合同法律事務所
弁護士 藤 田 浩 貴
1 はじめに
公正取引委員会(以下「公取委」という。)は、令和元年9月24日、大東建託株式会社(以下「大東建託」という。)及び大東建託パートナーズ株式会社(以下「大東建託パートナーズ」といい、大東建託と大東建託パートナーズを併せて「大東建託ら」という。)に対し、消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法(以下「転嫁対策特措法」という。)第3条第1号後段(買いたたき)の規定に違反する行為が認められたとして、同法第6条第1項の規定に基づき、勧告を行った。
本稿では、転嫁対策特措法の概要及び大東建託らの違反行為の概要等に加えて、転嫁対策特措法に関する今後の展望等を解説・紹介する。
2 転嫁対策特措法の概要
転嫁対策特措法は、一定の事業者による消費税の転嫁拒否等の行為を禁止しているが(同法第3条)、その目的は、消費税率の引上げに際し、消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保することにある(同法第1条)。
消費税は、最終的に消費者が負担することが予定されており、そのためには消費税の転嫁を正常に行う必要がある。転嫁拒否等の行為により消費税が正常に転嫁されない場合、上乗せするはずだった消費税を事業者が負担しなければならず、その分事業者の利益が減ることになってしまうので、それを防ぐことが転嫁対策特措法の目的である。
規制対象となる事業者(特定事業者)及び禁止される行為は、以下のとおりである。
出典:公取委『消費税転嫁対策特別措置法について(リーフレット)』
https://www.jftc.go.jp/tenkataisaku/index_files/190516leaflet2.pdf
規制対象となる特定事業者が、禁止される行為を行った場合、公取委等による調査や必要な指導等が行われることがある。また、重大な転嫁拒否等の行為を行った場合には、公取委による勧告が行われ、事業者名等が公表される可能性もある。
3 大東建託らの違反行為の概要等
大東建託は、駐車場等を賃借していたところ、消費税込みの額で賃料を定めていた一部の賃貸人に対し、平成26年4月分以後の賃料について、消費税率引上げ分を上乗せせず、同年3月分の賃料と同額の賃料を支払っていた。
大東建託パートナーズは、オーナーから賃借した駐車場等を利用者に転貸していたが、税込転貸賃料から運営管理費等を差し引いた額をオーナーに支払う借上賃料としていた。大東建託パートナーズは、平成26年4月分以後の税込転貸賃料を同年3月分までの賃料と同額と定めつつ、消費税率引上げ分を上乗せした運営管理等を差し引くことにより、オーナーに対して、平成26年4月以後の借上賃料を、消費税率引上げ前の額よりも低い額で支払っていた。
これらの行為に対して、公取委は、令和元年9月24日、大東建託らに対して、転嫁拒否による不利益の回復等を指示した。報道によれば、大東建託らの消費税相当額の未払い分は計約30億円に上り、公取委による未払い分の消費税の勧告額としては過去最大となるようである。
大東建託らの違反行為等を図式化したものが下図である。
出典:公取委『(令和元年9月24日)(参考1)本件の概要』
https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/10/190924_files_02.pdf
4 転嫁対策特措法に係る今後の展望等
令和元年10月1日に消費税率が8%から10%に引き上げられたことに伴い、軽減税率制度も導入された。軽減税率制度の導入に伴い、転嫁対策特措法上、飲食料品の販売に際し使用される包装材料や容器の納入業者に対する買いたたきが問題となる可能性があると考えられている。例えば、小売業者(買手)が、刺身の販売に際し使用されるトレーの納入業者(売手)に対し、トレーには標準税率(10%)が適用されるにもかかわらず、刺身が軽減税率(8%)の対象品目であることを理由として、消費税率引上げ分を上乗せせず、対価を消費税率引上げ前と同額に据え置くことが考えられるが、これは転嫁対策特措法に違反する可能性が高いので、注意が必要である。
公取委は、今般の消費税率引上げに先立ち、委員長による年頭所感での言及[1]、要請文書の発出[2]、集中的な広報活動などを既に実施しているうえに、引き上げ後においても書面調査、ヒアリング調査などを積極的に行い、違反行為に対する迅速かつ厳正な対処を行う旨を公表している[3]。規制対象となる特定事業者は、転嫁対策特措法の違反とならないよう、改めて注意が必要である。
以上