◇SH1225◇実学・企業法務(第55回) 齋藤憲道(2017/06/12)

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実学・企業法務(第55回)

第2章 仕事の仕組みと法律業務

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

4. 販売(営業)

(3) 営業の主要機能

4) ブランド戦略
 ブランド(商標、商号等。企業イメージを含む。)は企業の重要な財産の一つであり、ブランド・イメージは事業展開の方向に大きな影響を与える。商標は商標法に基づいて特許庁に登録し、商号(会社名)は商業登記法に基づいて法務局に登記して、自社の権利にする。

 商標には、商品に使用されるTrademarkや役務に使用されるServicemarkが含まれ、文字商標、図形商標、記号商標、立体商標、総合商標[1]の種類がある。商標には、①出所の表示(信頼、企業理念、企業意思、歴史、伝統、ステイタス)、②品質の保証(商品・サービスの品質・水準、企業への信用・信頼)、③広告・宣伝(商品・サービスの購買意欲を喚起)、という3大機能がある。

 商標権の存続期間は設定登録の日から10年間だが、更新登録することにより何度でも10年毎の延長を繰り返すことができる。こうして、商標の3大機能は永年継続して保持される。

 ブランドは、市場で消費者に高級品・普及品、高度安全品・一般品等の商品イメージを発信し、事業の成否を左右する力を持つので、企業は、多額の投資をして、ブランド・イメージの定着・向上に寄与する商品の開発やデザインを行う。

  1. (例1) Johnson & Johnson
    1982年に米国で何者かがTylenol(解熱鎮痛剤)に毒物を混入し5瓶で7人が死亡した。J&Jは迅速に全てのTylenolを市場から回収することを決定し3,100万個の瓶を回収して3瓶に毒物が混入しているのを発見した。J&JではTV・新聞・フリーダイヤル電話等を通じた広告・回収費用が1億US$発生したと報道された。J&Jは、更に、工場から出荷した製品に異物を混入できない商品構造にした。この事件の後、「J&Jは消費者の生命を守る」という好意的なブランド・イメージが社会に定着した。
  2. (例2) Intel  Inside
    1991年4月にWall Street Journalに掲載されたIBM社製パソコンの広告で「Intel Inside」が使用された。以降、Intelは、新聞・雑誌・TV・e-commerce等において、この宣伝活動に2000年頃までの10年間に70億$以上投入した。Intelは消費者に直接見えない電子部品の高性能・高コスト効率・高信頼性のPRに成功し、社会の認知度も向上した。

 企業の業容が拡大して、取り扱う品種が増え、顧客の所得や嗜好が多様化すると、客層を高級品指向・普及品指向・新製品指向等にグループ分けし、それぞれに最適の商品をグループ毎に設定したブランドを付して販売する戦略が採られることがある。

  1. (例) トヨタ自動車は、日本で、一般ブランドのトヨタと、高級ブランドのレクサスを使い分け、販売チャンネルも区分している。

 市場(インターネット販売を含む)で模倣品が発見された場合は、市場の実態を把握している営業部門が知財・法務等の部門と連携して排除措置(侵害者への警告、行政への被害届・取り締り要請、民事損害賠償請求、刑事告訴、マスコミを通じた世論形成等)を講じる。模倣品の流通を放置すると、真正品のブランド価値が毀損される可能性が大きい。

OEM

 企業の経営資源には限りがある。そこで、自社の設計力・製造力等を得意分野に集中的に投入し、自社ブランド製品の製造(設計を含む場合もある)の一部(まれに、全部)を外部に委託するOEM[2]を行って、商品の品揃えの充実等を図ることがある。

 市場で製品事故が発生した場合、大半の消費者は、商品を購入した店舗またはブランド事業者に修理や損害賠償等を求める。商品にブランドを表示する企業は、市場及び顧客に対して直接的に責任を負うが、OEM商品の安全性については受託して実際に製造・設計した者が関わるので、消費者の安全を確保する観点から、委託者と受託者の間で商品の安全に関する責任の所在を明確にする必要がある。

  1. ① 製品安全四法[3]における技術適合義務対象製品のOEM[4]
    OEMの場合も、基本的に、実際に製造を行う供給元が製造事業者として経済産業大臣に届け出る義務を負う。
    しかし、消費生活用製品安全法の「長期使用製品安全点検制度」対象製品(経年劣化により一般消費者の生命・身体に特に重大な危害を及ぼすおそれがある法定の9品目[5])については、点検受付先・製造元表示の有無・仕様決定権限等がブランド事業者側にあるか否かを考慮したうえで、ブランド事業者の行為が実質的に「製造」と同等と判断できるか否かを見て、特定製造事業者として経済産業大臣に届出義務を負うべき者を定める。考慮する要素は、次の⑴ ⑵である。⑴ ブランド事業者が設計する場合はブランド事業者の責任。⑵ 供給元が設計する場合は次のⅰ~ⅴを考慮して責任の所在を決める。ⅰ) 親子会社関係、ⅱ) 同業・異業種、ⅲ) 技術仕様の決定力の有無・技術的採用基準の設定の有無、ⅳ) アフターサービスの窓口、ⅴ) アフターサービスに関する技術講習の有無。
  2. ② 化粧品のOEM
    日本の医薬品医療機器等法(旧、薬事法)では、化粧品の輸入に際して、包装・表示・保管に関する化粧品[6]製造販売業許可(厚生労働大臣)を必要とするものの、自社ブランド商品をOEM調達することは可能である。

 なお、OEMは、ブランド占有率と生産量占有率に影響するので、独占禁止法上の問題が生じないように注意しなければならない。メーカー間の相互OEM供給は、競争回避的な行為が存在すると独占禁止法に抵触するおそれがあるが、競業会社に材料をOEM供給することや、収益悪化により自社製造を止めた企業にOEM供給することについては、問題ないとされる可能性が大きい[7]

 


[1] (文字商標の例)Canon・SONY・東芝、(図形商標の例)トヨタ自動車・ヤマト運輸、(記号商標の例)三菱商事・武田薬品工業、(立体商標の例)カーネルサンダース立像・ペコちゃん/ポコちゃん人形・コカコーラ瓶、(総合商標の例)NTT・ナイキ・松屋・京セラ・TDK。

[2] Original Equipment Manufacturerの略。

[3] 消費生活用製品安全法、電気用品安全法、ガス事業法、液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律

[4] 経済産業省2008年7月「消費生活用製品安全法におけるOEM生産品・PB品の取扱いに関するガイドライン」

[5] 屋内式ガス瞬間湯沸器(都市ガス用、LPガス用)、屋内式ガスふろがま(都市ガス用、LPガス用)、石油給湯機、 石油ふろがま、密閉燃焼式石油温風暖房機、ビルトイン式電気食器洗機、浴室用電気乾燥機

[6] 石鹸・シャンプー等が含まれる。

[7] 公正取引委員会「独占禁止法に関する相談事例集(平成21年度事例4、平成26年度事例7)」

 

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