コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(4)
――シャインの組織文化の3つのレベルと機能――
経営倫理実践研究センターフェロー
岩 倉 秀 雄
前回は、シャインの組織文化の定義をベースに筆者の組織文化の定義を述べた。
今回は、組織文化に関するより詳細な理解を得るために、シャインの組織文化の3つのレベルと組織文化の機能について整理する。(Edgar H.Schein(2009)”The Corporate Culture Survival Guide : New and Revised Edition(尾川丈一監訳、松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティーと文化の仕組み』(白桃書房、2016年))[1]
1. シャインの文化の3つのレベル
シャインは、「文化を理解しようとするあまり、文化を頭の中で簡略化しすぎてしまうことは最も危険な罠である。」(前掲書21頁)と述べている。そして、文化を3段階のレベルに分けて分類(図参照)し、組織文化を理解するためには、レベル3の目に見えない共有された暗黙の仮定まで掘り下げて考えることが重要であると指摘する。
図.文化の3つのレベル
※Edgar H.Schein(1985)“Organizational Culture and Leadership”清水紀彦=浜田幸雄訳『組織文化とリーダーシップ――リーダーは文化をどう変革するか』(ダイヤモンド社、1989年))及びEdgar H.Schein(2009)”The Corporate Culture Survival Guide : New and Revised Edition(尾川丈一監訳、松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年))他、をもとに岩倉がまとめた。
2. 組織文化の機能
シャインは組織文化の機能として以下の3つをあげている。(前掲書)
- ⑴ 組織文化は、個人および集団としての行動、認識方法、思考パターン、価値観を決定する強力だが潜在的で意識されない一連の力である。
- ⑵ 外部との関係における生き残りの問題に重要な機能を発揮する。即ち、 経営戦略や組織目標、業務方針、組織構造、システム、手続き、誤りの検出と修正等に影響を与える。
- ⑶ 内部統合の役割を果たしている。即ち、共通の言語と概念、グループの境界とアイデンティティ、権限関係、報酬と地位の割り当て、人間関係、チームワーク、自然と人間の関係、時間と空間の概念等に現れる。
それらを踏まえて、筆者は、組織文化の革新に関連して以下の認識を持つ。
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⑴ 組織が環境適応的に(コンプライアンスやCSRを推進する等)、新たな理念や行動規範、戦略や組織目標を設定した場合、組織文化にフィットしていれば「やらされ感」がなく、無意識に施策を推進できるので、施策の有効性が高まる。
逆に、施策が組織文化にフィットしていなければ、成員は「やらされ感」に襲われ、上から命令しても長続きせず、一時的に「やっているふり」をしても、もとの組織文化に戻るので、施策の有効性は減ぜられる。その場合には、組織文化を環境適合的に革新するか、組織文化にあった施策を考える必要があると思われるが、自社の組織文化が環境適応的でない場合には、組織文化を革新するしかない。 - ⑵ 組織文化の影響力は、組織に広範に影響することから、組織文化の革新に成功するためには、組織の戦略、構造、方針、システム、手続き、誤りの検出と修正等、広範に働きかける必要があることを示唆している。即ち、組織文化の革新では、単に掛け声をかけるだけではなく組織文化の革新を想定したそれらのシステムの革新も必要であると言うことになる。
- ⑶ 新たな組織文化には、新たな内部統合の役割を持たせることが必要になるため、中途半端な革新はできない。即ち、共通の言語と概念、グループの境界とアイデンティティ、権限関係、報酬と地位の割り当て、人間関係、チームワーク、自然と人間の関係、時間と空間の概念等に影響を与えることを踏まえた、強力なビジョンと様々なシステムの準備が必要になる。
次回は、組織文化の特性について考察する。