厚労省、派遣元事業主に対する労働者派遣事業停止命令及び
労働者派遣事業改善命令
岩田合同法律事務所
弁護士 平 井 太
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厚生労働省は、平成29年7月18日、東京労働局が、同日付けで、L社に対し労働者派遣事業停止命令(以下「事業停止命令」という。)及び労働者派遣事業改善命令(以下「改善命令」という。)を、W社に対し改善命令を行ったとのプレスリリースを公表した。
行政処分の対象となったL社及びW社の行為は、他社が雇用する労働者を業務委託と称して受け入れ、さらに発注会社に業務委託と称して派遣し、当該発注会社の指揮命令の下、業務に従事させるなどしたというものであった。これらの行為は、業務委託と称して発注会社の指揮命令のもとに業務に従事させていた点で偽装請負が問題となり、また、他社から派遣された自己の雇用しない労働者を発注会社での業務に従事させていた点で多重派遣が問題となる。
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偽装請負とは、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)の諸規制を潜脱するため、請負契約等と称して請負会社が雇用する労働者を発注者の指揮命令の下で稼働させる行為である。偽装請負の場合には、派遣元及び派遣先事業者が労働者派遣法上の義務を果たしていないことがほとんどであり、その場合には同法に違反する行為となる。
他方、多重派遣とは、派遣労働者が派遣先からさらに別の事業者に派遣されることをいう。この場合、1次派遣先の事業者は、自己の雇用していない労働者を2次派遣先の事業者においてその業務に従事させているため、これは「労働者派遣」には当たらず[1]、労働者供給[2]として職業安定法44条(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)に違反することになる。また、多重派遣は、中間搾取の禁止を定める労働基準法6条(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)にも違反する。
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前記労働者派遣法及び職業安定法違反を理由として、冒頭の行政処分がなされたのであるが、事業停止命令は、派遣元事業主が労働者派遣法若しくは職業安定法の規定又はこれらの規定に基づく命令若しくは処分に違反したときや許可の条件に反した場合に、厚生労働大臣の委任を受けた労働局が行うことができる(労働者派遣法第14条第2項、56条1項)。
この点、厚生労働省の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」(以下「業務取扱要領」という。)によれば、事業停止命令は、「当該事業主に事業を引き続き行わせることが適当でないとまではいえない場合について、当該停止期間中に事業運営方法の改善を図るために、また、一定の懲戒的な意味において行うもの」とされている(業務取扱要領第12. 2 (2) ロ (ロ)a)。
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次に、改善命令については、派遣元事業主が労働者派遣法その他労働に関する法律の規定(職業安定法、労働基準法、男女雇用機会均等法など)に違反した場合に、適正な派遣就業を確保するため必要があると認めるときに労働局が行うことができる(労働者派遣法49条1項)。
この点、業務取扱要領によれば、改善命令は、「違法行為そのものの是正を図るのではなく、法違反を起こすような雇用管理体制その他の労働者派遣事業の運営方法そのものの改善を行わせるもの」とされている(業務取扱要領第12. 2 (3) ロ (イ) )。したがって、労働局が、L社およびW社に対して改善命令を行ったことに加えて、L社に対してのみ事業停止命令を行ったのは、W社よりもL社のほうが違法性の程度が高いと考えたためであろう。
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今回、L社及びW社に対する事業停止命令及び改善命令については、プレスリリースとして公表されたわけであるが、これは、労働者派遣法49条の2に基づく企業名公表ではなく、実務上の取扱いとしての企業名公表である。
厚生労働省は、検察庁に事件送致した場合や告発した場合及び事業者に対し行政処分をした場合には、企業名を明らかにしてプレスリリースを実施するという実務上の取り扱いを行っている。
企業名公表がなされると、従業員、取引先、その他のステークホルダーの当該会社に対する信頼が大きく損なわれることになる。そこで、本件のように行政処分が実施された場合にも企業名が公表されることを念頭に置き、労働者派遣法等を遵守した労務管理を徹底することが必須といえよう。
以 上
[1] 労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」と定義されている(労働者派遣法2条1号)。
[2] 労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法2条1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとされている(職業安定法4条6項)。