タイ:税関手続の透明化と効率化に向けて
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 箕 輪 俊 介
現在、TPP等の仕組み作りにより全世界的に輸出入の自由化が進展している。ASEAN域内も昨年末に発足したASEAN経済共同体(AEC)にて、域内の貿易自由化を進めるため、加盟各国は通関の透明化や電子化・効率化に取り組んでいる。タイにおいても近代的な税関手続を導入するための仕組み作りが進められており、そのひとつの動きが新たな関税法制の導入である。タイはASEAN域内における物流のハブの一つとして、通関の簡素化は比較的進んでいるものの、関税局の恣意的な法解釈・運用等、透明化の観点からはなお課題も多い。このため、新たな関税法制の導入により、税関手続の合理的な運用と手続の透明化が実現することが期待されている。現在、新関税法の原案は審議中であるが、その中でも重要な点についていくつか解説したい。
1. 関税報奨制度の変更
現在、タイでは、関税法違反の発見を促し、税関職員の汚職を抑制するために、関税法違反の発見者と、違反者の逮捕に関与した税関職員に対して報奨を与える制度を設けている。現行のこの制度では、違反者の逮捕に関与した税関職員に対して違反者に課される課徴金の25%、一般人を含む情報提供者に対してペナルティの30%が分配される仕組みとなっており、報奨金の上限は設けられていない。
この制度は、税関職員の積極的な摘発活動を促し、関税法違反を不当な金員の収受により見逃すという税関職員の汚職行為を抑制する、という点で一定の効果は挙げている。しかしながら、課徴金の金額に応じて報奨金の金額が非常に高額になることが多いため、税関職員がその報奨金を目当てに不合理な請求を行ったり(強引な法解釈により過少申告を指摘し、不合理な追加納税を請求する等)、不適切な手続を行っていたり(関税法違反を認識したまま、すぐにその事実を指摘せず、関税法違反の金額がある程度まとまったものになるまで待って、頃合いを見計らってその事実を指摘する等)といった問題が指摘されている。
そこで、現在の法改正案では、分配率を低減化し(具体的には税関職員15%、情報提供者30%とし)、税関職員、情報提供者の報奨金についてそれぞれ5百万バーツ(日本円で約16百万円)及び10百万バーツ(日本円で約33百万円)の上限を設ける案が検討されている。これにより、報奨金を目的とした税関職員の不適切な行動が抑制されることが期待されている。
2. 手続の迅速化
現在、タイにおける関税局における事後監査には、調査の対象として遡れる期間に制限が設けられていないため、一度監査が始まると10年の時効期間まで遡って関税局は調査を行うことができる。しかしながら、かかる長期間に遡った監査は負担が大きいため、監査期間を輸出入があった時点から5年間に制限することが提案されている。
また、現在の税関手続において、関税当局から過少申告等を理由に追徴命令が下された場合に、関税当局の処分に不満があるときは関税当局内の別の機関である不服審査委員会に申し立てることができることになっている。しかしながら、この不服審査委員会の決定が遅れることが多く、その間に遅延損害金が膨らむ等の不利益を申立側が被ることが指摘されていた。新関税法に関する審議では、かかる状況を是正するために、不服申立委員会は申立時から180日以内に決定を行うこと、遅延損害金については上限額を設けることが現在検討されている。