◇SH1320◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(6)-組織のライフサイクルと組織文化① 岩倉秀雄(2017/08/01)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(6)

――組織のライフサイクルと組織文化①――

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、組織文化を革新するために必要な筆者の視点を補足するとともに、組織文化の革新を実践する上で知っておくべき組織文化の一般的な特性を述べた。

 簡単に言うと、組織文化の影響力が組織内に広く深く及ぶことを踏まえ、組織文化革新の明確で強力なビジョンを構築するとともに、旧組織文化の影響の下に形成された組織内の様々な仕組みや意思決定プロセスも同時に革新することが、組織文化革新を成功させる上で必要であることを述べた。

 また、組織文化の特性として、①組織文化は過去の成功期間が長いほど、成功パターンが同質なほど強化・固定されること、②組織文化を形成・革新できるのは、組織のリーダー(経営トップ)だけであること、③組織文化が状況や戦略と適合・調和した時に、優れた成果を上げることができること、④組織文化とイノベーションは必ずしもトレード・オフの関係ではなく、イノベーションを促進する組織文化もあり、そのような組織は成功可能性が高いこと[1]、⑤組織文化は、マクロカルチャー(民族、国や地域のカルチャー)とサブカルチャー の影響を受けることについて述べた。

 今回から複数回、組織文化と組織のライフサイクルの関係について、シャインをベースに考察する。まず、組織文化が組織創生以来の成功の積み重ねにより形成され、組織の成員により共有されたものであることから、草創期の組織文化が形成される過程について、学説の紹介だけではなく、筆者の日本ミルクコミュニティ(株)及び日本トライアスロン協会の創業にかかわった経験を踏まえた見解を述べる[2]

 

【創業時~成長期の組織で組織文化が形成・強化される仕組み】[3]

  1. ⑴ 創業者が組織文化を創る。事業家である創業者の個人的信念、仮定、価値観が、雇われた人 に押し付けられ(メンバーにふさわしくない人は去る)、その組織が成功すると、文化は共有され、正しいと認識され、最終的に当たり前のこととなる。そして、共有された信念、仮定、価値観は組織を結びつける基本的な結びつき、アイデンティティの源泉、組織特有の能力を定義付ける方法として機能する。
     
  2. ⑵ 組織文化は、実際にそれに沿って行動することで、繰り返し検証され、補強され組織が成功すると、文化は強力になる。逆に、組織が失敗した場合には、創業者は排除され、創業者が掲げた仮定に疑問が投げかけられ、初期の文化は放棄される。
     
  3. ⑶ 成長の過程で、成功に関する基本的規準が作られると、組織はそこで認められない力に対して抵抗する。その力が不当である、不適切であるということを合理的に説明しようとする。
     
  4. ⑷ 成功した創業者は、自身の仮定を明確に持っている場合が多く、自身と同じ信念、価値観、仮定を共有する人だけが雇用される。反対者は去る。仮に、学習棄却する必要がある場合でも、創業者により制限される場合が多い。
     
  5. ⑸ 創業間もない組織の文化が強力な理由は、次の理由による。

    1. ① 文化を創り上げた人物が、まだ社内にいる。
    2. ② 文化は、組織が自身を定義するのを助け、潜在的に敵意に満ちた環境に踏み出す際の、後押しになる。
    3. ③ 文化的要素の多くは、組織が自らを作り上げ維持していく際に、不安に対する防衛手段として身につけているものである。

 以上、シャインの見解をまとめた。

 筆者の経験では、創業時には、強力な創業者のビジョンやリーダーシップがなければ、組織は競争の激しい環境で生き残れない。(営利組織はもとより、非営利のボランティア組織であってもライバル組織は存在し、互いに正当性を主張する。)また、創業時の組織に意見の異なるものが存在する場合には、互いにけん制し、路線の違いによる分裂の危機を迎えるケースが多いと思われる。筆者は、日本トライアスロン協会の運営においてそれを経験した。路線の異なる人たちに残留するように十分に説得したつもりだったが、溝を埋めることは難しく、別のグループを組織して脱退した人たちを思い出す。

 次回は、創業時の組織文化に関する考察を続ける。



[1] これについては、咲川孝『組織文化とイノベーション』(千倉書房、1998年)を参照。

[2] 筆者は、日本ミルクコミュニティ(株)の設立時に、同社設立準備委員会事務局次長及び初代コンプライアンス部長として合併会社の創業を経験した。また、トライアスロン競技の草創期に、日本アマチュアトライアスロン協会と合併した日本トライアスロン協会の初代理事長として、創生時の組織の経営に携わった経験がある。いずれにしても、ベンチャー企業もそうだが、創業時の組織は、組織文化がまだ形成されておらず、様々の問題をはらんでいる。

[3] Edgar H.Schein(2009)”The Corporate Culture Survival Guide:New and Revised Edition
 (尾川丈一監訳、松本美央訳『企業文化〔改訂版〕――ダイバーシティと文化の仕組み』(白桃書房、2016年)121~131頁)

 

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