◇SH2575◇法務担当者のための『働き方改革』の解説(35)――副業・兼業(1) 栗原誠二(2019/06/03)

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法務担当者のための『働き方改革』の解説(35)

副業・兼業(1)

TMI総合法律事務所

弁護士 栗 原 誠 二

 

XIX 副業・兼業

1 はじめに

 働き方改革の一環として、柔軟な働き方がしやすい環境整備についての施策が脚光を浴びているが、今回は「副業・兼業」について概観する。

 副業・兼業については、厚生労働省が公開しているモデル就業規則において、「許可制」を前提とした規定[1]が採用され、長らく「原則禁止」とする立場で論じられることが多かったが、平成30年1月に副業・兼業に関するモデル就業規則の条文が改訂された際に、原則として副業・兼業を認めた上で、「届出制」が採用された(その後、平成31年3月には、モデル就業規則全体の改訂版が公開された)。

 また、厚生労働省は平成30年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」[2](以下、「ガイドライン」という)を公開し、政府の立場として、労働者が副業・兼業を行うことについて、積極的に容認・促進する姿勢に転じた。

 このように、副業・兼業については、働き方改革の進展に伴い、積極的に推進する基盤が一定程度整備されたと言えるが、一方で実務上の懸案については、いまだに十分解明されていない事項も多い。

 本稿においては、モデル就業規則や過去の裁判例に触れつつ、副業・兼業を認めるにあたっての実務上の留意点について検討する。

 

2 新モデル就業規則と過去の裁判例

 厚生労働省が公開している最新のモデル就業規則は、副業・兼業について、一定の禁止・制限事項を定めつつ、原則としてこれを容認する届出制を採用した。

 

(副業・兼業)

第68条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。

  1. 2  労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
  2. 3  第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。

    1. ① 労務提供上の支障がある場合
    2. ② 企業秘密が漏洩する場合
    3. ③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
    4. ④ 競業により、企業の利益を害する場合
       

 過去の裁判例の中には、労働者が勤務時間外に副業・兼業を行うことについて、「労働者は勤務時間外の時間については、事業場の外で自由に利用することができるのであり、使用者は、労働者が他の会社で就業(兼業)するために当該時間を利用することを、原則として許さなければならない」(マンナ運輸事件判決 京都地判平成24年7月13日)としたものや、「職場秩序に影響せず、かつ、使用者に対する労務提供に格別の支障を生ぜしめない程度・態様の二重就職については、兼職(二重就職)を禁止した就業規則の条項には実質的には違反しないものと解するのが相当である」(上智学院(懲戒解雇)事件判決 東京地判平成20年12月5日)と判示したものがある。

 このように、モデル就業規則が改訂される以前から、労働者の副業・兼業について厳格な対応が一般的であった企業実務と、比較的寛容な姿勢を示していた裁判所の判断には乖離があったが、働き方改革の推進を契機に、政府が副業・兼業を容認する姿勢に転じ、副業・兼業を積極的に推進する方向に方針転換したものと考えられる。

(2)につづく



[1] 「遵守事項」の1つとして「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと。」が規定されていた。

[2] https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2019/06/0000192844.pdf なお、紙面に限りがあるため、本稿においては、ガイドラインの内容に関する詳細な解説は控える。

 

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