日弁連、社外取締役の義務付けに関する意見書を法務大臣宛てに提出
岩田合同法律事務所
弁護士 上 西 拓 也
日本弁護士連合会は、2017年(平成29年)8月24日付けで社外取締役の義務付けに関する意見書(以下「本意見書」という。)を取りまとめ、同年8月25日付けで法務大臣宛てに提出した。
本意見書は、公開大会社である監査役会設置会社であって有価証券報告書の提出を義務付けられている会社(上場会社等)は、社外取締役を少なくとも1名置かなければならないものとすべきとの意見を述べるものである。
以下、社外取締役の選任義務付けをめぐるこれまで及び現状の議論について解説する。
1 現行法の規定等
上場会社等に社外取締役の選任を義務付けることについては、平成26年会社法改正に際して検討された。しかしながら、各社の実情に応じた企業統治時の選択を妨げるべきでないという反対論もあり実現せず、いわゆるコンプライ・オア・エクスプレイン・ルール(社外取締役を置いていない場合は、社外取締役を置くことが相当でない理由を、定時株主総会で説明するとともに、事業報告及び株主総会参考資料に記載しないしなければならないとの規律)が採用されることとなった(会社法327条の2等)。
その一方、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号。以下「平成26年改正法」という。)の附則第25条において、「政府は、この法律の施行後2年を経過した場合において、社外取締役の選任状況その他の社会経済情勢の変化等を勘案し、企業統治に係る制度の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて、社外取締役を置くことの義務付け等所要の措置を講ずるものとする。」と定められた。かかる規定を受け、法務大臣の諮問により設置された法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会が、現在、この問題について検討中である。
2 本意見書の概要
本意見書は、かかる背景のもと、弁護士会の立場から、法務大臣に対し、上場会社等は、社外取締役を少なくとも1名置かなければならないものとすべきとの意見を述べるものである。
その理由としては、①現時点においても不適切会計をはじめとする企業不祥事がみられ、業務執行者から独立した社外取締役が監督を行う必要性が高いこと、②役員報酬の決定やMBOなど利益相反状況での社外取締役の役割が重要である上に、個別の業務執行への関与など様々な役割が社外取締役に期待されるようになったこと、③取締役の意思決定プロセスの慎重さや透明性を高めることができること、及び、④上場規則及びコーポレートガバナンス・コードは2名の独立社外取締役の選任が望ましいとの価値判断に基づき制定されていることなどを挙げている。
さらに、本意見書は、現在の社外取締役の選任状況(下記表)は社外取締役の必要性を物語る立法事実であるとも指摘している。
2016年(平成28年) |
2013年(平成25年) (平成26年改正法成立前) |
|
市場第一部 | 98.8% | 62.3% |
市場第二部 | 98.1% | 46.3% |
マザーズ | 93.2% | 65.2% |
JASDAQ | 87.0% | 41.0% |
(東京証券取引所「東証上場会社における独立社外取締役の選任状況<確報> 」(2016年(平成28年)7月27日公表)及び同「東証上場会社における社外取締役の選任状況等について」(2013年(平成25年)9月10日公表)に基づき作成)
3 今後の見通し等
他方で、商事法務研究会が設置する会社法研究会においては、社外取締役の選任義務付けに関し消極的な意見が大勢を占めていた[1]。
その後、平成29年4月26日に開催された法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会第1回会議においては、委員から、従来と同様、各会社の選択に任せるべきとの意見が出された一方、海外の投資家に対し日本の取組み姿勢を見せるべきとの意見も出された。
同会議において言及されているように、現状の選任比率あるいはその推移といった指標のみならず、社外取締役を選任したことによって得られた効果、選任する上での課題など判断材料となるような事例やデータを踏まえた具体的な議論が期待される。
いずれにせよ、法制審議会会社法制(企業統治等関係)部会における本格的な議論はこれからである。本意見書は社外取締役の選任義務付けの要否を考えるに当たっての一つの視点を提供するものであり、上記部会における今後の議論にどのように反映されるかが注目される。
以上