◇SH1462◇実学・企業法務(第89回) 齋藤憲道(2017/10/30)

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実学・企業法務(第89回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

1. コーポレート・ガバナンス

(2) 「コーポレートガバナンス・コード」 東京証券取引所が制定

 コーポレートガバナンス・コード(以下、「コード」という。)は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主な原則(5つの「基本原則」、30の「原則」、38の「補充原則」)を示すことにより、会社が「持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」のための自律的な対応を図り、会社、投資家、ひいては経済全体の発展に寄与することを目指す。

 5つの「基本原則」の概要は次の通り。

〔基本原則1〕 株主の権利・平等性の確保[1]

 上場会社は、株主の権利が実質的に確保されて行使できる環境を整備するともに、株主の実質的な平等性を確保する。少数株主や外国人株主にも配慮する。
 

〔基本原則2〕 株主以外のステークホルダーとの適切な協働[2]  ◇☆

 上場会社は、会社の「持続的な成長」と「中長期的な企業価値の創出」には、従業員、顧客、取引先、債権者、地域社会等のステークホルダーの協力が必要であると認識して、適切に協働する。取締役会・経営陣は、彼らの権利等や事業倫理を尊重する企業文化を醸成する。
 

〔基本原則3〕 適切な情報開示と透明性の確保[3]  ○□◇☆

 上場会社は、財政状態等の財務情報や、経営戦略・経営課題、リスクやガバナンスに係る情報等の非財務情報について、法令に基づく開示を適切に行うとともに、法令に基づく開示以外の情報提供にも主体的に取り組むべきである。取締役会は、開示・提供される情報(特に非財務情報)を、正確で分かり易く有用なものにする。

  1.   (筆者注)「基本原則3」は、「リスク」や「ガバナンス」に関する情報の開示を求めている。そして、情報開示の充実の対象になる例として、経営理念、経営計画、「コーポレートガバナンス」に関する基本的な考え方・方針、取締役会が行う報酬決定・取締役等の指名方針等を挙げ、外部会計監査人の役割を認識して適正な監査を確保すべきことを求める(原則3-1、原則3-2)。

〔基本原則4〕 取締役会等の責務[4]  ○□◇

 上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の「持続的成長」と「中長期的な企業価値の向上」を促し、収益力・資本効率等を改善すべく①企業戦略等の方向性を示し、②経営幹部によるリスクテイクを支える環境を整え、③独立した客観的立場から経営陣・取締役を実効的に監督する、等の役割・責務を果たす。
 

〔基本原則5〕 株主との対話[5]

 上場会社は、「持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」のため、株主総会以外でも株主と対話する。経営陣幹部・取締役は株主の声に耳を傾け、その関心・懸念に留意し、自らの経営方針を分かり易く説明して理解を得、株主を含むステークホルダーの立場をバランス良く理解して適切に対応する。

  1.   (筆者注)「コーポレートガバナンス・コード」は、「経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行う[6]」ことを通じて企業価値向上を促すとともに、「内部統制」、「リスク・マネジメント」、「コンプライアンス確保」の関係について、「取締役会は、適時かつ正確な情報開示が行われるよう監督を行うとともに、内部統制リスク管理体制を適切に整備すべき[7]」だが、「取締役会は、これらの体制の適切な構築や、その運用が有効に行われているか否かの監督に重点を置くべきであり、個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきではない[8]」としている。

 


[1] 原則1-1株主の権利の確保、2株主総会における権利行使、3資本政策の基本的な方針、4いわゆる政策保有株式、5いわゆる買収防衛策、6株主の利益を害する可能性のある資本政策、7関連当事者間の取引

[2] 原則2-1中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定、2会社の行動準則の策定・実践、3社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題、4女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保、5内部通報

[3] 原則3-1情報開示の充足、2外部会計監査人

[4] 原則4-1~3取締役会の役割・責務(1)~(3)、4監査役及び監査役会の役割・責務、5取締役・監査役等の受託者責任、6経営の監督と執行、7独立社外取締役の役割・責務、8独立社外取締役の有効な活用、9独立社外取締役の独立性判断基準及び資質、10任意の仕組みの活用、11取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件、12取締役会における審議の活性化、13情報入手と支援体制、14取締役・監査役のトレーニング

[5] 原則5-1株主との建設的な対話に関する方針、2経営戦略や経営計画の策定・公表

[6] 基本原則4前段(2)

[7] 原則4-3.取締役会の役割・責務(3)

[8] 補充原則4-3②

 

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