◇SH1474◇改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(7) 渡邉雅之/井上真一郎/松崎嵩大(2017/11/02)

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改正民法の「定型約款」に関する規律と諸論点(7)

弁護士法人三宅法律事務所

弁護士 渡 邉 雅 之
弁護士 井 上 真一郎
弁護士 松 崎 嵩 大

 

8 定型約款の変更

  1. (定型約款の変更)
  2. 第548条の4 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
  3. 一 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
  4. 二 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
  5. 2 定型約款準備者は、前項の規定による定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない。
  6. 3 第1項第2号の規定による定型約款の変更は、前項の効力発生時期が到来するまでに同項の規定による周知をしなければ、その効力を生じない。
  7. 4 第548条の2第2項の規定は、第1項の規定による定型約款の変更については、適用しない。

(1) 概要

 改正548条の4は、定型約款準備者が個別に相手方と合意することなく定型約款の内容を変更することを認める規定である。約款の変更規制については従来あまり議論されていなかったところ、法令の変更や経済情勢、経営状況に変動があったときなどに、それに対応して定型約款を変更する必要性があるものの、多数の相手方から個別に同意を得るのは困難であるという事業者側からのニーズに応じて設けられたものである。

 同条第1項は変更内容に関する規制を定めたものである。1号は「相手方の一般の利益に適合するとき」には変更できるとするものであり、2号は相手方にとって不利益変更になる場合であっても、「契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき」には変更できるとするものである。

  要件
利益変更
(1号)
相手方の一般の利益に適合するとき
不利益変更
(2号)
① 契約をした目的に反しないこと
② 合理的なものであること
⇒「変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情」に照らして合理的なものであること。
※後述の周知義務も効力発生に影響。

 同条第2項は変更に関する手続的規制として周知義務を定めている。すなわち、定型約款準備者は、①定型約款を変更する旨、②変更後の定型約款の内容及び③効力発生時期について、インターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならないとされている。不利益変更の場合(改正548条の4第1項2号に基づく変更の場合)には、効力発生時期が到来するまでにこの周知をしなければその効力を生じないということが第3項に定められている。

なお、第4項では、改正548条の2第2項は定型約款の変更については適用しないと定めている。これは、定型約款の変更については、より厳格であり、かつ、考慮要素も異なる改正548条の4第1項の規律によることを明確化するために定められたものである。[1]

(2) 利益変更(改正584条の4第1項1号)

 「定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき」は、これのみで定型約款の変更の効力が生じることになる。このような利益変更の場合であっても、定型約款準備者には、改正548条の4第2項に基づく周知義務が課されることにはなるが、変更の効力発生要件とはされていない。

 ここでいう「相手方」とは、相手方各人毎に判断されるという趣旨なのか、あるいは、当該定型約款の相手方全体で判断されるという趣旨なのかが問題となる[2]

 この点、民事再生法174条4号では、再生計画不認可事由として「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」が挙げられている。ここでは、あくまで「再生債権者全体の利益に反する場合」を不認可事由として、清算価値保障原則を定めたものであり、例えば、相殺期待を有する個別債権者の利益などを問題にすべきではないとの見解が有力であるように思われる[3]。しかしながら、改正548条の4第1項1号は、定型約款準備者の方から一方的に合意内容を変更することを認めるものであることを踏まえると、民事再生法174条4号とは異なり、相手方各人毎の利益に配慮するべく、相手方各人毎に判断をすべきように思われる。

 ただし、このような解釈をとるとしても、相手方各人毎に判断をしたうえで、一部の相手方のみ利益変更の要件を充たすような場合に、当該一部の者との間でのみ改正548条の4第1項1号に基づく変更の効力が認められることになるのかどうかは別途問題になるように思われる。すなわち、このような解釈によると、相手方によって変更の効力が生じるか否かが区々となってしまうことになるが、定型取引の性質を踏まえると、法がこのような変更の効力を生じさせることを予定しているといえるのか疑問がある。

(3) 不利益変更(改正584条の4第1項2号)

 不利益変更については、まず第一に、定型約款の変更が契約をした目的に反しないものでなければならない。ここでいう「契約をした目的」は、相手方の主観的な目的のみでこれを判断するわけではなく、客観的に契約の目的はどういうものであるのかが判断されなければならない。[4]

 第二に、定型約款の変更は合理的なものでなければならないが、この合理性は、「変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情」に照らして判断されることになる。これらの変更に係る事情は、定型約款準備者側の事情のみならず相手方の事情も含めて、総合的に考慮しなければならないものであり、かつ、客観的に合理的なものといえるかどうかが判断されなければならず、事業者にとって合理的なものといえればよいというわけではない。[5]

 「その他の変更に係る事情」としては、相手方に解除権を与えるなどの措置が講じられているか否かといった事情のほか、個別の同意を得ようとすることにどの程度の困難を伴うかといった事情が考慮される。[6]

 また、「この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定め」(以下「変更条項」という。)については、これを定型約款の変更に必須のものとすることは適当でないとの意見もあったため、必須の要件とはしないこととされた。もっとも、変更条項を必須とはしないとしても、変更条項が置かれ、かつ、その内容が具体的である場合には、変更の合理性は認められ易くなると考えられる。そこで、改正548条の4第1項2号では、変更条項の有無及びその内容は、変更の合理性の判断において考慮がされる旨を明らかにしている。例えば、変更の対象や要件等を具体的に定めた変更条項が定型約款に置かれている場合には、その変更条項に従った変更をすることは、変更の合理性の判断に当たって有利な事情として考慮されることになる。[7]

 なお、現行法下でも、例えば預金規定であれば、通常は変更条項が定められていることが多い。一般には、「金融情勢その他諸般の状況の変化その他相当の事由があると認められる場合には、店頭表示、インターネットその他相当の方法で公表することにより、変更できる」ことや、変更後の内容は「公表の際に定める1か月以上の相当な期間を経過した日から適用される」ことが定められていることが多いが、このような変更条項が定められていることは、改正548条の4の定めにも沿ったものであり、有益であると考えられる。もっとも、改正548条の4第1項2号に「この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定め」と規定していることに鑑みると、「民法548条の4の定型約款の変更の規定に基づいて変更すること」も明記をしておいた方がよいと考えられる。

(4) 周知義務(改正548条の4第2項及び3項)

 定型約款準備者は、定型約款の変更をするときは、その効力発生時期を定め、かつ、定型約款を変更する旨及び変更後の定型約款の内容並びにその効力発生時期をインターネットの利用その他の適切な方法により周知しなければならない(改正548条の4第2項)。

 不利益変更の場合(改正548条の4第1項2号)については、変更の効力発生時期が到来するまでに上記周知をしなければ、定型約款の変更の効力は生じない(改正548条の4第3項)。したがって、この場合のみ、改正548条の4第2項に基づく周知は、定型約款準備者の義務であるだけではなく、定型約款の変更の要件としても位置付けることができる。

(5) 具体的事案の検討(暴力団排除条項の追加・改訂)

ア 現行法下での暴力団排除条項の追加変更(遡及適用)
 暴力団排除条項(以下「暴排条項」という。)が規定されていない約款について、暴排条項を追加する旨の約款変更を行い、追加された暴排条項に基づいて契約を解除することができるかという問題(遡及適用の可否などといわれることもあるが、以下においては「追加変更」の問題という。)については、従前より議論がされてきたところであり、特に預金規定については複数の裁判例でもこの点に関する判断が示されている。
 この点、福岡高判平成28年10月4日金法2052号90頁は、「預金契約については、定型の取引約款によりその契約関係を規律する必要性が高く、必要に応じて合理的な範囲において変更されることも契約上当然に予定されているところ、本件各条項(筆者注:暴力団排除条項)を既存の預金契約にも適用しなければ、その目的を達成することは困難であり、本件各条項が遡及適用されたとしても、そのことによる不利益は限定的で、かつ、預金者が暴力団等から脱退することによって不利益を回避できることなどを総合考慮すれば、既存顧客との個別の合意がなくとも、既存の契約に変更の効力を及ぼすことができると解するのが相当」、「本件各口座については、控訴人らが社会生活を送る上で不可欠な代替性のない生活口座であるといった事情は認められず、本件各条項に基づき控訴人らとの本件各預金契約を解約することが、信義則違反ないし権利の濫用に当たるとはいえないから、控訴人らの各請求はいずれも理由がないものと判断する。」と判示して、暴排条項の追加変更の効力を認めた。
 その根拠については、原判決である福岡地判平成28年3月4日金法2038号94頁が判示するとおりであるとしているところ、原判決は、まず前提として、「本件各預金契約のように、ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的であるような定型的な取引については、定型の取引約款によりその契約関係を規律する必要性が高いから、取引約款を社会の変化に応じて変更する必要が生じた場合には、合理的な範囲において変更されることも、契約上当然に予定されているということができ、既存の契約の相手方である既存顧客との個別の合意がない限り、その変更の効力が既存の契約に一切及ばないと解するのは相当でない。」としており、改正548条の4の趣旨に沿った判示をしているといえる。そのうえで、追加変更を認める正当化根拠として、以下の事情を挙げている。

  1. ① 暴排条項は、反社会的勢力の経済活動ないし資金獲得活動を制限し、これを社会から排除して、市民社会の安全と平穏の確保を図るという公益目的を有しており、単に預金口座の不正利用等による被告らの被害を防止することのみを目的としたものではないこと
  2. ② 暴排条項追加後も、暴力団構成員等によるマネー・ロンダリング検挙事犯は、平成23年から平成26年にかけて20%ないし33.5%(59件ないし85件)を占めるなど、反社会的勢力による預金口座の不正利用は、社会にとって依然として大きな脅威となっていること
  3. ③ 暴排条項の目的は、暴排条項が追加された当時に既存の預金契約にもこれを適用しなければ達成することが困難であること
  4. ④ 暴排条項が適用されることによる不利益は、既存の契約に遡及適用されるものであっても、各種支払について口座引落し以外の支払方法による支払が可能であることが多いことからしても、電気、ガス、水道等のいわゆるライフライン契約とは異なり、預金契約については、契約が締結されなくとも社会生活を送ることがおよそ不可能なものとはいえず、これによる不利益も限定的であるといえ、かつ、預金者が反社会的勢力に属しなくなるという、自らの行動によって回避できるものであること
  5. ⑤ 銀行は、暴排条項の追加に先立ち、その内容や効力発生時期を、自行のホームページへの掲載、店頭等におけるポスターの掲示やチラシの配布等の適切な方法により周知していること

 以上のような事情を踏まえて、「このような本件各条項(筆者注:暴排条項)の事前周知の状況、本件各条項の追加により既存の顧客が受ける不利益の程度、本件各条項を既存の契約にも遡及適用する必要性、本件各条項の内容の相当性等を総合考慮すれば、本件各条項の追加は合理的な取引約款の変更に当たるということができ、既存顧客との個別の合意がなくとも、既存の契約に変更の効力を及ぼすことができると解するのが相当である。」と結論付けている。
 そして、上記福岡高裁判決は、最判平成29年7月11日(平成29年(オ)71号、平成29年(受)80号)において上告棄却・上告不受理とされ、確定した。
 なお、上記福岡高裁判決は、対象口座が社会生活を送る上で不可欠な代替性のない生活口座ではないことを前提としているようにも思われるが、同じく暴排条項の追加変更を認めた東京地判平成28年5月18日金法2050号77頁(確定)では、預金口座を一般市民としての生活に必要な取引にのみ利用している場合であっても暴排条項が適用される旨を判示している。
 預金規定以外の約款についても上記のような考え方が参考になるものと思われ、同様の判断基準に基づき暴排条項の追加変更の可否を検討することが考えられる。もっとも、追加変更の必要性及び合理性を基礎付ける事情は、各契約の内容及び性質等によって異なるところであり、特に暴排条項が適用されることによる不利益については、個別の契約に応じて慎重な検討がなされるべきであろう。[8]

イ 改正548条の4第1項に基づく暴力団排除条項の追加変更(遡及適用)
 改正548条の4第1項に基づく暴排条項の追加変更を行うためには、不利益変更(同条項2号)の要件を充たす必要があると考えられる。
 前述した預金規定における暴排条項の追加変更を認めた各裁判例においても、まさしく改正548条の4第1項2号が合理性の判断に当たっての考慮要素としている「変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情」を考慮しているものと思われる。
 したがって、この点に係る判断は、現行法における判断方法と大差はないものと思われるため、預金規定における暴排条項の追加変更は前述した平成29年最高裁判例の考え方に基づきこれを行うことが可能であると考えられる。その他の定型約款における暴排条項の追加変更については、現行法に関して述べたのと同様、預金規定に係る考え方が参考になるところではあるが、あくまで個別の契約に応じて「変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情」について慎重な検討が必要になると考えられる。



[1] 部会資料88-2・6頁、衆議院法務委員会議事録第12号(平成28年12月2日)民事局長答弁。

[2] 「相手方各人毎に判断される」としつつ、その場合には約款の斉一的な適用がされなくなる問題があるとも指摘する見解がある(浅田・前掲第3回[1] 432頁)。なお、改正548条の2第2項の「相手方」の意義については、個々の相手方を意味すると説明されている[衆議院法務委員会議事録第15号(平成28年12月9日)民事局長答弁]。

[3] 全国倒産処理弁護士ネットワーク編『新注釈民事再生法(下)〔第2版〕』(金融財政事情研究会、2010)112頁、伊藤眞『破産法・民事再生法〔第3版〕』(有斐閣、2014)1015頁。

[4] 第99回議事録7~8頁(村松幹事発言)。

[5] 衆議院法務委員会議事録第12号(平成28年12月2日)民事局長答弁。

[6] 部会資料83-2・41頁。

[7] 部会資料88-2・6頁。

[8] 例えば、保険約款については、金融庁が、「契約書や取引約款への暴力団排除条項の導入は反社会的勢力との関係遮断に対する有効な手段の1つであると考えますが、既存契約の変更を一律に求めるものではありません。なお、変更後の保険約款の効力は、原則として変更後の新契約にのみ及び、既契約の当事者間において変更後の約款を適用する合意がなされる等の事情がなければ、既契約に変更後の約款の効力は及ばないことに留意が必要です。」との見解を示している(平成20年3月26日付け「主要行等向けの総合的な監督指針、中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針、信託会社等に関する総合的な監督指針、保険会社向けの総合的な監督指針、少額短期保険業者向けの監督指針、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針及び貸金業者向けの総合的な監督指針の一部改正について」の「4 『反社会的勢力による被害の防止』について」の回答54(http://www.fsa.go.jp/news/19/20080326-3/15a.pdf))。保険契約の場合、解除によって保険契約者が受ける不利益は、保険契約による保障を失うだけではなく、支払済み保険料の返還も受けられなくなるなど、その不利益の程度が異なるため、当然に預金規定と同様に考えられるものではないと思われる。この問題について論じたものとして、大野徹也「契約締結後の約款変更による暴排条項の導入および適用を認めた福岡高判平28.10.4の保険暴排実務に与える影響」金法2060号(2017)22頁等参照。

 

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