経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定
――契約締結の参考とすべき要素を整理し、契約条項例等を示す――
経済産業省は6月15日、民間事業者等が、データの利用等に関する契約やAI技術を利用するソフトウェアの開発・利用に関する契約を締結する際の参考となる考慮要素等を整理した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定し、あわせて、本ガイドライン(案)に対する意見募集の結果を取りまとめて公表した。
IoTやAI等の技術革新によってデータが爆発的に増加するに伴い、事業者間の垣根を超えたデータ連携により、新たな付加価値の創出や社会課題の解決が期待されているところである。他方で、データやAI技術を巡っては、契約実務の蓄積が乏しいこと、あるいは当事者間の認識・理解のギャップがあること等により、契約の締結が進まないという課題があると指摘されている。
こうした課題に対し、経産省では、2017年5月に「データの利用権限に関する契約ガイドラインVer1.0」を策定し、その後も事業者・事業者団体等からの意見を踏まえ、AI・データ契約ガイドライン検討会(座長=渡部俊也・東京大学教授)を設置するなど、抜本改訂を進めてきた。そして、データの利用に関する契約類型の整理・深堀やユースケースの充実等を図るとともに、新たにAI開発・利用に関する権利関係・責任関係等の考え方を追加した「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)」を作成し、今年4月27日から5月26日までの間、意見募集を行った。
今般、提出された意見を踏まえ、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定し、あわせて意見募集の結果についても取りまとめたものである。
本ガイドラインは、「データ編」と「AI編」とからなり、当事者が契約で定めておくべき事項等を参考として示したものとなっており、経産省では、「実際の契約に当たっては、本ガイドラインを参照しつつ個別事案に応じて契約を作成すること」が期待されるとしている。
以下、本ガイドラインの各編の概要を紹介する。
1 データ編
(1) 目的
データ契約について、類型ごとに主な課題や論点を提示しつつ、契約条項例や条項作成時の考慮要素等を示すことで、契約実務の集積の乏しさに伴う取引費用を削減し、データ契約の普及を図り、ひいてはデータの有効活用を促進することを目的としている。
(2) 基本的視点
-
① データ流通・利活用の重要性と課題
データは保有するだけでは大きな価値がなく、利用する方法を開発することで価値が創出される。契約に際しては、データの利用権限および発生した利益を、適切に分配することが重要である。他方、データの流出や不正利用のリスクへの配慮も必要となる。 -
② 契約の高度化
本ガイドラインは、あくまで契約で定めておくべき事項を示したにとどまる。したがって、契約当事者が協議し、本ガイドラインを参考としつつ、データの創出や利活用に対する寄与度等を考慮し、取引の実状に応じて契約を高度化させていくことが望ましい。 -
③ イノベーションの促進
多様な立場に配慮したデータ契約の考え方や契約条項例等を示すことにより、データ利用の促進を図り、オープン・イノベーションを促進する。 -
④ 国際協調
クロス・ボーダー取引が一般化する状況下、データの越境に関する問題も考慮する。
(3) 本ガイドラインの対象
読者としては、データ契約に関係するすべての者(事業者の契約担当者のみならず、その事業部門、経営層、データの流通や利活用に関連するシステム開発者等を含む)を幅広く想定している。
(4) 概要
本ガイドラインでは、データ契約を下記の3つの類型に整理し、それぞれ構造、主な法的論点、適切な契約の取決め方法等を説明している。
- • データ提供型
- • データ創出型
- • データ共用型(プラットフォーム型)
また、データ提供型とデータ創出型に関して、主な契約条項例を示し、各条のポイントと解説を示している。
(5) 構成
第1 総論
第2 ガイドラインの対象・構成・活用
第3 データ契約を検討するにあたっての法的な基礎知識
第4 「データ提供型」契約(一方当事者から他方当事者へのデータの提供)
第5 「データ創出型」契約(複数当事者が関与して創出されるデータの取扱い)
第6 「データ共用型(プラットフォーム型)」契約(プラットフォームを利用したデータの共用)
第7 主な契約条項例
1 データ提供型契約のモデル契約書案
2 データ創出型契約のモデル契約書案
別添1 産業分野別のデータ利活用事例
別添2 作業部会で取り上げたユースケースの紹介
2 AI編
(1) 目的
AI技術の特性や基本的概念について解説するとともに、AI技術を利用したソフトウェアの開発・利用契約を作成するに当たっての考慮要素、トラブルを予防する方法等について基本的な考え方を提示することで、開発・利用を促進することを目的としている。
(2) 基本的視点(問題の所在)
- ① AI技術の特性を当事者が理解していないこと
- ② AI技術を利用したソフトウェアの権利関係・責任関係等の法律関係が不明確であること
- ③ ユーザがベンダに提供するデータに高い経済的価値や秘密性がある場合があること
- ④ AI技術を利用したソフトウェアの開発・利用に関する契約プラクティスが確立していないこと
(3) 本ガイドラインの対象
大企業から中小企業まで、大手ITベンダからベンチャー企業まで、すべての企業を対象としている。
(4) 概要
本ガイドラインでは、まずAI技術の基本的概念やAI技術を利用したソフトウェア開発の特徴について解説している。そして、開発契約については、開発プロセスを①アセスメント段階、②PoC段階、③開発段階、④追加学習段階に分けて探索的に開発を行う「探索的段階型」の開発方式を提唱し、それぞれの段階における契約方式や契約の考慮要素、契約条項例を示し、契約条項の各条についてポイントと解説を示している。
(5) 構成
第1 総論
第2 AI技術の解説
第3 基本的な考え方
第4 AI技術を利用したソフトウェアの開発契約
第5 AI技術の利用契約
第6 国際的取引の視点
第7 本モデル契約について
第8 総括
別添 作業部会で取り上げたユースケースの紹介
-
経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を策定しました(6月15日)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001.html -
○ AI・データの利用に関する契約ガイドライン(全体版)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-1.pdf -
○ AI・データの利用に関する契約ガイドライン(データ編)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-2.pdf -
○ AI・データの利用に関する契約ガイドライン(AI編)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-3.pdf -
○ 概要資料
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-4.pdf -
○ 寄せられた御意見の概要と御意見に対する考え方
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-5.pdf -
○ 寄せられた御意見の概要と御意見に対する考え方(別紙)
http://www.meti.go.jp/press/2018/06/20180615001/20180615001-6.pdf -
参考
SH1840 経産省、「AI・データの利用に関する契約ガイドライン(案)」に対する意見公募 冨田雄介(2018/05/16)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=6144490 -
SH1553 経産省、「データ契約ガイドライン検討会」を開催(2017/12/18)
https://www.shojihomu-portal.jp/article?articleId=5072168