不動産テック(Real Estate Tech)の実務と法律上の留意点・問題点(4)
~不動産クラウドファンディングを中心に~
TMI総合法律事務所
弁護士 成 本 治 男
2. 日本における不動産テックサービスの類型
(2) マッチングプラットフォームサービス
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① 主に個人をターゲットとして、不動産の売り手と買い手との間での売買や、貸主と借主との間での賃貸借を、web上でマッチングさせるサービス[1]が典型的な類型である。この類型においては、従前の一般的な水準よりも低額の手数料や無料とすることで顧客を取り込もうとする戦略がとられていることが多いように見受けられる。
単純な売買や賃貸の他にも、様々な請負工事の発注者と請負人とをマッチングさせるサービス[2]、いわゆる「居抜き物件」として退去することを希望する現テナントと居抜きのまま入居することを希望するテナント候補とをマッチングさせるサービス[3]、買い手候補にアパート経営の提案をしつつ土地の売り手と買い手をマッチングさせるサービス[4]など、様々なマッチングサービスが存在する。 - ②「媒介」の概念
- 宅地又は建物の売買や賃貸の代理や媒介を業として行う場合は、宅地建物取引業法上の免許が必要となる[5]。この点、「媒介」の定義は宅地建物取引業法上規定されていない。裁判例上は、「当事者の一方の依頼を受け、当事者間にあって宅地建物の売買、交換、貸借の契約を成立させるためにあっせん尽力するすべての事実行為を指称する」[6]などと定義される。具体的にどのような行為が「媒介」に該当するかについては、「例えば取引物件の探索、物件情報の提供、売却広告、権利関係等の調査、現地案内、契約当事者の引き合わせ、取引物件等に関する説明、取引条件の交渉・調整、契約締結の立会い等、契約成立に至る尽力行為をいう」との見解[7]があるが、かかる見解も上記列挙された行為のうち1つでも行えば直ちに「媒介」に該当すると解しているわけではないようであり、「宅地建物の売り情報、買い情報を提供するだけの行為は情報提供行為であり、契約当事者の間に立って契約の成立に向けた交渉、あっせんをするものでない限り、法2条2号にいう媒介には該当しない」と述べている[8]。関連する行政判断としては、「業者が受ける報酬のうちから、当該業者に情報を提供したことにより謝礼を受ける『タネ屋』の行為は、宅地建物の取引行為に直接関与するものではないから宅地建物取引業には該当しない。業者と共同して取引行為に関与し独自に手数料を受領する等の行為を反復して行う場合は宅地建物取引業を営むものと認められる。」というものがある[9]。私見としては、単なる情報提供や掲載(情報検索機能の提供を含む。)や情報・意思表示の伝達・授受という限度であれば、原則として「媒介」には該当しないと解するべきと考える。
- ③ 重要事項説明のIT化
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国土交通省から平成27年1月30日付けで公表された「ITを活用した重要事項説明等のあり方に係る検討会 最終とりまとめ」に従って、平成29年1月末まで賃貸取引及び法人間取引におけるIT[10]を活用した重要事項説明の社会実験が行われた。その実証実験結果等を踏まえて、国土交通省から平成29年3月に公表された「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会 とりまとめ」で、賃貸取引については、平成29年度に、IT重説を実施する際に遵守すべき事項等の明確化、宅建業者への周知等の準備措置を実施した後、本格運用に移行することが適当であるとされ、賃貸取引に係るIT重説の本格運用は平成29年10月1日から開始されている[11]。
但し、留意しなければならないのは、上記運用になって可能となるのは、重要事項の説明義務の履行をITを利用して行うことに留まるのであり、重要事項を記載した書面の交付が電磁的方法によりなされることを可能とするものではないという点である。かかる重要事項説明書の交付自体を電磁的方法によりなされることを可能とするためには宅地建物取引業法の改正を要するものと考えられる。不動産テックの観点からは、少なくとも賃貸取引や法人間取引についてだけでも早期に重要事項説明書の電磁的方法による交付を可能とする法改正がなされることが望ましいところである。
[1] 売買のマッチングサービスとしては、『おうちダイレクト』(https://realestate.yahoo.co.jp/direct)、『リノベる。』(https://www.renoveru.jp/)や『カウル』(http://housmart.co.jp/)がある。賃貸のマッチングサービスとしては、『officee』(https://officee.jp/)、『ノマド』(https://nomad-a.jp/)がある。
[2] 『ツクリンク』(https://tsukulink.net/)
[3] 『店舗市場』(https://tenpoichiba.jp/)
[4] 『Tateru』(http://www.tateru.co/)
[5] 宅地建物取引業法第2条2号、第3条1項
[6] 東京高裁平成19年2月14日判決(東京高等裁判所(刑事)判決時報58巻1~12号7頁)
[7] 岡本正治=宇仁美咲『改訂版[逐条解説]宅地建物取引業法』(大成出版社、2012年)68頁
[8] 岡本=宇仁前掲注[7] 70頁、71頁
[9] 昭和38年10月8日建設計第108号建設省計画局長から大阪府建築部長あて回答
[10] パソコン、スマートフォン、タブレット端末などを利用したテレビ会議やテレビ電話など、動画と音声を同時にかつ双方向でやり取りできるシステム等をいうものとされている。
[11] なお、法人間売買取引については、社会実験を継続実施することが適当であり、その後の検証検討会において検証の結果、必要な対策をとること等で問題ないと判断され、かつ、新たに懸念される点が生じなかった場合は、本格運用に移行する、とされている。また、個人を含む売買取引については、平成29年度に開始する賃貸取引の本格運用の実施状況、法人間売買取引の社会実験の検討結果を踏まえて、社会実験又は本格運用を行うことを検証検討会において検討することとする、とされている。