◇SH2458◇Brexit―交錯かつ分化する政治・社会・法律を踏まえての企業活動―(4) 大間知麗子/土屋大輔(2019/04/05)

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Brexit
―交錯かつ分化する政治・社会・法律を踏まえての企業活動―

第4回

伊藤見富法律事務所
弁護士 大間知 麗 子

ブランズウィック・グループ
土 屋 大 輔

 

3. コンティンジェンシー・プラニングと考慮すべき事項[1]

 イギリスに拠点を置きつつ欧州に顧客を抱える企業などでは、国民投票直後から、Brexitを前提としたコンティンジェンシープラン(緊急時対応計画)の策定が必要であると考えられるようになった。その後、離脱通知がなされると、さらに多くの企業で、コンティンジェンシープランの策定がなされるようになり、離脱予定日を控えた現在では、多くの企業が既に策定を行い、実施段階に移っている企業もあるとされる。

 コンティンジェンシープラニングとは、将来の不測の事態(Contingency)に備えて、あらかじめ、リスクやその実現可能性、事業への影響などを分析し、Brexitが与える影響を最小限にするべく、対処すべき問題やその優劣、とるべきアクションのタイムラインを定めるプラン策定の作業である。

 一般に、結論が見通せず、結論に至るまでのシナリオもいくらでも想定しうるような混乱した社会状況においては、企業は、もう少し様子が明らかになるまでプラニングを遅らせたいと考えがちになりやすい。しかし、Brexitの場合においては、EUとの合意に至るにはイギリスを除いた加盟国27ヵ国の承認が必要とされるなどの事情があったため、早くから報道などで、離脱予定日である2019年3月29日に合意なき離脱となる可能性は低くないと伝えられていた。そのため、企業にとっては、そのような合意なき離脱を前提に、取るべき行動やそのタイムラインを漠然と考えただけでも様子見をしている余裕はないと受けとめられたのか、比較的スムーズにコンティンジェンシープランの策定に取り掛かかられた印象を受ける。とくに、許認可や登録などのパスポート制度を利用している企業や(下記(3)参照)、単一市場・関税同盟から離脱してEUへの輸出入に関税が復活するとその収益に影響を受ける企業(下記(1)参照)に関しては、早い段階からコンティンジェンシープランを策定し、Brexitに向けて準備することの必要性が指摘されていた。

 以下では、Brexitにより影響を受けるとして懸念されている諸問題を紹介したい。各企業は、自社の事業分野に応じて、たくさんの問題点から(以下は例示に過ぎないといえる。)、とくに関係が深い点を優先的に取りあげ、イギリスがEUを離脱した場合をシミュレートして、EU離脱が事業に与える影響を分析し、それについての対応や戦略を具体的に検討することになる。いかなるシナリオであっても対応できるようなフレキシブルなプランが立てられればそれに越したことはないが、実際には困難であるので、ワーストケースシナリオといわれる、最悪の事態(Brexitの場合はほとんどの企業で「合意なき離脱」)を想定してそれに対応するためのプランが立てられることが多いようである。

(1) 関税、税関手続き、物流

 EU加盟国間の取引については、現在、関税が適用されていない。ところが、イギリスがEUの単一市場・関税同盟から離脱するとなると、イギリスとEU加盟国の間の取引には関税が適用されることになる。その場合、WTOにおける最恵国待遇(Most Favored Nation(MFN))の枠組みの中で、実行最恵国税率(MFN税率)が適用されることになるとともに、従来はなかった税関手続きも行われることになる。現在、イギリスの貿易輸入額及び貿易輸出額の約半分に相当する貿易相手国は、ドイツ、オランダなどのEU加盟国であり、イギリスの貿易は、EU加盟国への依存度が高い。したがって、関税付加によるコスト増や、税関手続き通過にかかる待ち時間などが、企業(とりわけメーカー、商社、物販会社など)のコスト、イギリスや欧州全体の経済に与える影響は極めて大きいと考えられている。

 他方、日本のような域外第三国にとっては、イギリス以外のEU加盟国との間の貿易の関税について、Brexitによる変更は生じない。しかし、日本とEU離脱後のイギリスとの間の貿易については、税率が変更になることが考えられるので、注意が必要である。すなわち、当該取引に、日本とEUとの間の通商協定に基づく特恵関税率が適用されていた場合には、日本とイギリスとの間での通商協定が発効していない限りは、MFN税率が新たに適用されることになる。

 以上のような事情をかんがみて、EU域内の地域をサプライチェーンに含む企業にあっては、原料の調達元、物流のルート、生産拠点などを戦略的に見直す企業がみられる。最近になってイギリス政府は手続きなどに関するガイダンス[2]を公表しているが、企業にとって十分な準備期間があるとはいえず、合意なき離脱となる場合には大きな混乱が予想される。



[1] 日本貿易振興機構「英国のEU離脱(ブレグジット)に向けた日本企業の留意点」(2018年10月)を全体として参考にさせていただいた。
 https://www.jetro.go.jp/world/reports/2018/01/63e5b8fb0ea6b7c8.html

[2] HM Revenue & Customs “Collection: Trading with the EU if the UK leaves without a deal” (2018年12月4日)
 https://www.gov.uk/government/collections/trading-with-the-eu-if-the-uk-leaves-without-a-deal

 同“Guidance: Customs procedures if the UK leaves the EU without a deal” (2019年2月4日改訂)
 https://www.gov.uk/guidance/customs-procedures-if-the-uk-leaves-the-eu-without-a-deal

 など。

 

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