◇SH1511◇コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(28)―革新を阻むものの発生と移行過程のマネジメント 岩倉秀雄(2017/11/24)

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コンプライアンス経営とCSR経営の組織論的考察(28)

―「革新を阻むもの」の発生と移行過程のマネジメント

経営倫理実践研究センターフェロー

岩 倉 秀 雄

 

 前回は、合併組織で発生しやすいコンプライアンス課題を整理した。

 合併組織では出身組織の組織文化の違いによる衝突が発生しやすい。特に合併初期には、コンフリクトの調整メカニズムが円滑に機能しないので、コンフリクトの顕在化であるマネジメントの困難度が高くなる。

 合併組織におけるマネジメントの困難度を減じるためには、コンフリクトの発生そのものを減ずるか、統制力を働かせてコンフリクトの顕在化を防ぐ方向が考えられる。

 今回からは、組織が様々な革新を試みようとする場合に発生する組織内の「革新を阻むもの」について考察する。

 

【「革新を阻むもの」の発生と移行過程のマネジメント】

 本稿では、組織文化にコンプライアンス(倫理・法令順守)・CSRの価値観を浸透させることの重要性を指摘し、そのための方法を考察してきた。

 特に、不祥事を発生させた企業には不祥事発生につながる利益優先の組織文化があることが多いので、不祥事の再発を防ぐためにも、迅速・ドラスティックな組織文化の革新が必要である。

 組織文化の革新は、不祥事を発生させていない企業が、組織内に更にコンプライアンスを徹底する場合やCSR経営戦略に新たに取り組む場合にも必要である。なぜなら、組織文化レベルに、コンプライアンス・CSRの価値観を浸透・定着させることができれば、「やらされ感」を持たず、その時々の経営環境に左右されずに取り組むことができるので、組織の持続的発展に資するからである。

 迅速・ドラスティックに取り組むか、じっくりと取り組むかは、組織の置かれている状況によって異なるが、いづれにしても新たな価値観を組織内に徹底しようとする場合には「組織文化の革新」が必要になる。

 経営者は、組織文化革新を実行しようとする時に、未来の組織の在り方を提示することにばかり気を取られ、新しい組織文化への移行期に発生する諸問題やその解決方法にまで気が回らないかもしれない。

 しかし、命令さえすれば組織文化の革新が実現できると考えないほうが良い。組織文化にコンプライアンス・CSRの価値観を浸透・定着させることは容易ではない。そもそも、変り難いのが組織文化であり、これを革新しようとする場合には、表面上は反対しない(できない)ものの、必ず組織内に抵抗、反対、混乱等が発生する。

 上からの指示・命令だけで無理に革新しようとすると、革新行動は長続きしない。たとえ、不祥事を発生させ社会の批判にさらされている組織であっても、一時的に組織文化革新に取り組んだとしても、やがて上からの指示・命令に対する「やらされ感」が発生する。(筆者は、不祥事発生後に就任した経営トップが必死になって組織文化革新を訴え、強権発動しつつ組織文化革新を牽引しているにもかかわらず、組織成員が「やらされ感」を訴え不満を漏らしているのを何度も聞いたことがある)

 まして、不祥事を発生させていない組織では(特にその革新が自組織のこれまでの組織文化にフィットしていない場合には)、組織成員は心から革新を受け入れることは難しい。

 今回からしばらくは、組織文化革新を進める時に直面する「革新を阻むもの」はなぜ発生するのか、革新を円滑に進めるために、誰が何をどうするべきかについて考察する。

 

1. 革新を阻むものはなぜ発生するのか

 革新を阻む行動は、基本的にコンフリクトの発生メカニズム[1]の考察で述べたように、組織の参加者間に「共同意思決定」の必要感が存在するにもかかわらず、目的の差異か現実についての知覚の差異のどちらか、またはその両方が存在することによる。

 組織は、様々な利害を持った人々の集まりである。組織が革新を進めようとする場合、様々な利害と価値観を持った人々を革新の目的にモーメントを合わせて一体となって取り組むように設定しなければならない。

 革新の対象が目に見える制度やプロセスである場合には、その実施状況やプロセスが判り易くコントロールが比較的容易になるが、組織文化のように目に見えない価値観である場合にはコントロールが難しい。

 革新により、今まで築いてきた自分の地位や価値観を否定されたと感じる人々は、「抵抗」を始め、どう対応してよいかわからない人々は、「混乱」し、「革新」を一つの機会として組織内で有利な地位を占めようと政治的に動く人々は、互いに「対立」することになる。

 したがって、コンプライアンスを重視する組織文化の構築に向けて「革新」を進める場合には、利益優先の組織文化を含めて、慣れ親しんだ組織文化を急激に変えることに対する組織成員の「抵抗、混乱、対立」の発生を想定した移行過程のマネジメントが重要になる。

 次回は、筆者の組織文化革新の実践経験を踏まえて、今回の続きを考察する。



[1] J.G.March, & H.A.Simon, Organizations, New York, 1958.(J. G. March, & H. A. Simon(土屋守章訳)『オーガニゼーションズ』(ダイヤモンド社、1977年))

 

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