◇SH1529◇知財高判、「MEN’S CLUB」の登録商標が原告の業務に係る商品と混同するおそれがあるとされた事例 齋藤弘樹(2017/12/05)

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知財高判、「MEN’S CLUB」の登録商標が
原告の業務に係る商品と混同するおそれがあるとされた事例

岩田合同法律事務所

弁護士 齋 藤 弘 樹

 

1 本判決の概要

 本件は、男性ファッション誌について「MEN’S CLUB」というローマ字の商標(以下「引用商標」という。)を使用している原告が、男性化粧品についての「MEN’S CLUB」というローマ字の商標(以下「本件商標」という。)につき、特許庁に商標登録無効審判を請求したが請求棄却審決がなされたため、知的財産高等裁判所に本件商標の商標権者を被告として審決取消訴訟を提起したところ、審決を取り消す旨の判決が出された事案である(商標の出願・審判・訴訟の手続の流れは以下の図のとおりであり、オレンジ色が特許庁における手続、水色が知的財産高等裁判所における手続であり、本判決は下線を引いてある審決取消訴訟に該当する。)。

 知的財産高等裁判所は、本件商標について、商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがあり、商標登録を受けることができない商標)に該当すると判断した。

 

2 本判決の理由付け

 本判決では、①本件商標と引用商標の外観の類似性、観念及び呼称における共通性、②引用商標が需要者の間に広く認識されていること、③本件商品の指定商品(男性用化粧品)と原告の業務に係る本件雑誌(男性ファッション誌)の関連性等から後述する「広義の混同のおそれ」があると判断した。

 一方、本件では被告から、原告が発行する雑誌「MEN’S CLUB」(以下「本件雑誌」という。)において化粧品はその一部に掲載されているにすぎないのに、本件雑誌と化粧品との間に強い関連性を認めるならば、本件雑誌で紹介されるすべての商品について強い関連性を認めることとなり、ひいては指定商品「雑誌」について不当に広い権利範囲を認めることとなり、不合理である、との主張がなされていた。これに対し、裁判所は、本件雑誌ではほぼ毎号、化粧品に関する記事が掲載され、化粧品自体、本件雑誌の対象であることが明らかな服飾品と少なからぬ関連性を有すること、引用商標が長期間にわたって周知のものであることに加え、原告がコラボレーション企画(化粧品会社と提携する企画)等を行っていることをも合わせ考慮すれば、広義の混同が生じるおそれが認められる旨述べ、被告の主張を退けた。

 

3 本判決の解説(商標法4条1項15号の解説)

 商標法4条1項15号における「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれ」には、①当該商標をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人の商品等に係るものであると誤信されるおそれ(いわゆる「狭義の混同のおそれ」)のみならず、②当該商品をその指定商品等に使用したときに、当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ(いわゆる「広義の混同のおそれ」)が含まれる(最判平成12年7月11日・民集第54巻6号1848頁参照)。

 そして、混同のおそれの判断においては、引用商標の主体[1]が経営多角化し、出願商標[2]の指定商品の分野に進出しているという事情がある場合、混同のおそれを肯定する方向に斟酌されるという(最高裁判所判例解説民事篇平成12年度(下)664頁及び665頁)。

 本判決を見ると、被告の主張を排斥する中で、裁判所が、原告がコラボレーション企画(化粧品会社と提携する企画)等を行っていることを考慮する旨述べており、本判決は引用商標の主体が(コラボレーションという形で)出願商標の指定商品の分野に進出しているという事情が斟酌された事例の一つと整理することができると思われる。

 

4 企業が留意すべき事項

 本件では、被告の商標が特許庁において商標登録され、商標登録無効審判においても商標登録が有効であるとされた後、審決取消訴訟において商標登録につき拒絶理由があると判断されている。このように、商標登録後、特許庁における審判を経てもなお、最終的には裁判所の判決によって、商標登録の有効性が覆る可能性があることには留意する必要がある。

 


[1] 本件における、原告がこれにあたる。

[2] 本件における、本件商標がこれにあたる。

 

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