◇SH1621◇実学・企業法務(第112回) 齋藤憲道(2018/02/05)

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実学・企業法務(第112回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅴ 全社的な取り組みが必要な「特定目的のテーマ」
Ⅴ-1. 商品・サービスの安全性の確保

3. 安全に関する法制度

(3) 製造物責任法(PL法)

 「製造物の欠陥」により、消費者が死亡・負傷し、又は、家が焼失する等して財産に被害(拡大損害)が生じたとき、そのメーカーは、この損害を賠償する責任を負う。

  1. (注) 被害者の立証責任
    被害者は、①製品に欠陥があること、②損害が生じたこと、③欠陥と損害の間に因果関係があること、を証明すれば、メーカーに対して、製造上の過失の有無に係わらず損害賠償を請求できる。
    製造物責任法の施行(1995年)前は、メーカー側に製造上の過失があったことを被害者が立証する必要があった(民法709条)が、施行後は、被害者の手元にある(又は入手可能な)製品が、通常有する安全性を欠いている(欠陥である)ことを立証することで足りる。

 製造物責任法制定当時、欠陥には「設計の欠陥」「製造の欠陥」「警告の欠陥」の3種類があるとして、各企業で対策が行われた。

 ところで、現在の製造物責任法は所期の目的を果たしていると言えるだろうか。

 1995年以降、社会の状況は大きく変わり、製造物責任法の制定時には無かった次のような状況が出現している。

  1. ・ パソコンの普及(1995年 マイクロソフトがWindows95を発表)
  2. ・ インターネットが出現し、中古市場が拡大(1996年 ヤフー・ジャパンがサービス開始)
  3. ・ 技術の進展(情報通信技術、人工知能、遺伝子技術応用治療、素材)
  4. ・ 介護等対象者が増加(乳幼児・障害者に加え、今後、高齢者の増加が顕著)
  5. ・ 入国外国人数が増加(1964年27万人→2016年1,969万人 法務省統計<協定該当者[1]含まず>)

 次に、現代における課題と検討の切り口を例示する。
 

 ①「製造物」の範囲に問題はないか。

  1. a. システムは対象になるか。消費者が使用する家電や自動車等の単品(動産)がシステムに組み込まれる方向にあるが、問題はないか。
  2. b. 3Dプリンターで作成した複製物に不具合が生じた場合、問題はないか。
  3. c. 家事・介護等でロボットが生活に入り込み、インターネットで外部接続が可能になるが、問題はないか。
     

 ②「欠陥」を認定する際の「通常有すべき」安全性とは何か。

  1. a. 通常使用、誤使用、異常使用等さまざまな使用の態様がある。使用者の責任範囲は明確・適切か。
  2. b. 昔の生活常識が失われていくときの「通常」とは何か。マッチを知らない子どもの常識とは何か。
     

 ③「責任主体」・「加工」の範囲は明確か。

  1. a. 中古品を修理して販売した「一般消費者」は「加工業者」か。
  2. b. ネット販売で外国から購入した商品を第三者に譲渡・転売する一般消費者は、輸入業者か。
  3. c. 小売業者(又は消費者)が商品に加工をしてネット市場で販売する場合、「メーカー保証」、「量販店等の延長保証」、「並行輸入品に表示された商標権の品質保証機能」の責任主体は明確か。
  4. d. 日本でほとんど(全く)生産しない商品[2]が増加しているが、被害者保護は十分か。
     

 ④「免責事由」として抗弁できる範囲はどこまでか。

  1. a.「開発危険の抗弁[3]」の実際の運用は、無過失責任になっているのではないか。
  2. b.「部品・原材料の製造業者の抗弁[4]」は、機能しているか。

 以上のように、商品・サービスの安全性を確保し、万一、不具合が生じた場合に修理、リコール、被害者救済等を含めて最善の対応をするためには、社会・消費者の目線と企業全体の取り組みの両方が必要になる。



[1] 日米間の地位協定による軍人・軍属・その家族で、軍艦・軍用機によらないで入国した者。

[2] 一般の自転車、ハロゲンヒーター電気ストーブ、使い捨てライター(100円ライター)、スマホ等

[3] 製造物責任法4条1号「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかった」場合は、賠償の責めに任じない。

[4] 製造物責任法4条2号「その欠陥が専ら当該他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示に従ったことにより生じ、かつ、その欠陥が生じたことにつき過失がない」場合は、賠償の責めに任じない。

 

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