◇SH0279◇公取委、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を一部改正 大浦貴史(2015/04/09)

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公取委、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」を一部改正

岩田合同法律事務所

弁護士 大 浦 貴 史

 公取委は、平成27年3月30日、「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。)の一部改正(以下「本件改正」という。)について公表した。

 改正されたのは、流通・取引慣行ガイドラインの第2部「流通分野における取引に関する独禁法上の指針」(以下「流通指針」という。)である。流通指針では、メーカーが、自社商品を取り扱う流通業者の販売価格、取扱商品、販売地域、取引先等の制限を行う行為(以下「垂直的制限行為」という。)が、再販売価格の拘束(独禁法2条9項4号)、排他条件付取引(一般指定11項)、拘束条件付取引(一般指定12項)等の「不公正な取引方法」(独禁法2条9項)に該当するか否かの判断基準等が示されている。

 旧流通指針については、判断基準が不明確でメーカーに萎縮効果を生じさせているとの指摘や、垂直的制限行為がむしろ競争を促進することがあるにもかかわらず、そのことが考慮されているのか不明である等の指摘がされており、見直しが提言されていた[1]。本件改正は、本提言を踏まえたものである。

 本件改正のポイントは、

 ① 垂直的制限行為の公正競争阻害性[2]の判断基準を明確化し、かつ、その判断に当たっては垂直的制限行為によって生じる競争促進効果の有無等を考慮することを明確化したこと

 ② 競争促進効果が認められる典型例として、(a)いわゆる「フリーライダー問題」(※)が解消される場合、(b)新商品について高品質であるとの評判を確保する上で重要といえる場合等が挙げられたこと

 ③ 販売価格の制限以外は、(a)「新規参入者や既存の競争者にとって代替的な流通経路を容易に確保することができなくなるおそれがある場合」や(b)「当該商品の価格が維持されるおそれがある場合」に当たらない限りは通常公正競争阻害性がないことを明確化した上で、(a) (b)の判断基準を明確化したこと

 ④ 販売価格の制限は原則として公正競争阻害性があることを明確化した上で、例外として許される「正当な理由」の有無の判断基準を明確化したこと

 ⑤ 自社商品を取り扱う流通業者の実際の販売価格、販売先等の調査を行う「流通調査」は販売価格の制限を伴うものでない限り通常問題とならないことを明確化したこと、

 ⑥ 一定の基準を設定し、当該基準を満たす流通業者に限定して商品を取り扱わせる(それ以外の流通業者への転売を禁ずる)「選択的流通」については、(a)消費者の利益の観点からそれなりの合理的な理由に基づくものと認められ、かつ、(b)当該商品の取扱いを希望する他の流通業者に対しても同等の基準が適用される場合には通常問題とならないことを明確化したこと

である。

 本件改正により、例えば一定の販売品質基準を設け、当該品質基準を満たす者以外の販売を防止することによってブランドイメージの毀損を防止するなどの措置が講じやすくなり、メーカーの流通チャネル戦略はより柔軟なものとなることが期待される。

 また、卸売業者の転売先を制限することによってフリーライダーを排除し、小売業者の顧客開拓活動を促進する効果も期待されるが、一方で、メーカーの制限が本ガイドラインに照らして過度のものとなっていないか、さらには、優越的地位の濫用に及んでいないか等について、注意が必要となる。

※フリーライダー問題(一例)



[1] 平成26年6月13日付「規制改革に関する第2次答申~加速する規制改革~」41頁(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kaigi/publication/140613/item1-1.pdf)

[2] 不公正な取引方法とされるには、「公正な競争を阻害するおそれ」(公正競争阻害性)が認められる必要がある。なお、条文上「正当な理由がないのに、」とあるもの(再販売価格の拘束等)は、原則として公正競争阻害性があり、「不当に」とあるもの(排他条件付取引、拘束条件付取引等)は、原則として公正競争阻害性はないと考えられている。

(おおうら・たかし)

岩田合同法律事務所アソシエイト。2007年慶應義塾大学、2009年慶應義塾大学法科大学院各卒業、2010年弁護士登録(新63期)。2014年~2015年金融庁検査局出向。金融・不動産関連法務を中心に、企業法務全般を幅広く取り扱う。著作:「Q&A 家事事件と銀行実務」(共著、日本加除出版、2013)、「Q&A インターネットバンキング」(共著、きんざい、2014)等。

岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/

<事務所概要>

1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。

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