◇SH1647◇フィリピン:企業結合規制に関する新ルール(上) 澤山啓伍(2018/02/16)

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フィリピン:企業結合規制に関する新ルール(上)

長島・大野・常松法律事務所

弁護士 澤 山 啓 伍

 

 フィリピンでは、長らく個別法でのカルテル禁止などの規定はあったものの、包括的な競争法(日本での独占禁止法に相当する法律)が存在していなかった。これには、国内の財閥の政治力の強さなどが背景にあったと言われていた。しかし、ASEAN加盟国が2015年までにASEANが採択した競争政策についてのガイドラインに沿った法制度の整備を目指す中、フィリピンにおいても競争法の整備が求められ、2015年7月21日に至って、当時のアキノ大統領がフィリピン競争法(Republic Act No. 10667, Philippine Competition Act)に署名し、同法が成立、同年8月8日に施行された。また、翌年6月18日には、競争法施行規則(The Implementing Rules and Regulations of the Philippine Competition Act)(以下「施行規則」という。)が施行された。

 このように、フィリピンの競争法は比較的歴史が浅く、特に企業結合規制に関しては、その対象や手続などに関して実務面で混乱が生じていた。そこで、今般フィリピン公正取引委員会(Philippine Competition Commission)(以下「PCC」という。なお、これ自体がフィリピン競争法に基づいて設立された新たな機関である。)は、2017年11月23日に企業結合に関する新ルール(PCC Rules on Merger Procedure)(以下「新ルール」という。)を公布し、同ルールは12月8日に施行された。本稿では、この新ルールにより変更された点を中心に、新ルールの内容について概説する。

 

1. 届出の時期

 競争法では、10億フィリピンペソ(約25億円)を超える価値を有するM&A取引を行う当事者は、公正取引委員会に対して通知を行う義務があり、その通知から30日(最長90日まで延長されうる)の間は、PCCの承認が出るまでその取引の実行が禁止される。

 施行規則では、この通知を、当該取引を行うための確定契約の締結前に行うべきであるとしていた(施行規則第4ルール第2項)。PCCは、この点について、さらにClarificatory Note No. 16-001において、当該通知は法的拘束力のある事前合意書(MOUなど)を締結する場合にはそれを締結した以降に提出ができ、そのような事前合意書がない場合には、確定契約の締結前に確定契約の文案を根拠としてPCCに対する通知を行うこともできるとしていた。

 しかしながら、このような企業結合審査の届出は、国によっては確定契約の締結後にしか提出できないところもある。フィリピンのように確定契約締結前に届出が必要とされると、当事者の社内でも守秘性が求められる契約締結前の段階でPCCが要求する細かな競争上の情報を収集するのは困難であることや、多数の国で届出が必要となるようなM&A取引の場合には、当事者間での契約締結・実行手続におけるスケジュールの調整が難しくなることなどの問題点が指摘されていた。

 そこで、新ルールでは上記施行規則の規定を改め、該当する企業結合の通知は、確定契約の締結後30日以内に行うべきことになった(新ルール第2.1条)。

(下)につづく

 

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