◇SH1677◇実学・企業法務(第118回) 齋藤憲道(2018/03/01)

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実学・企業法務(第118回)

第3章 会社全体で一元的に構築する経営管理の仕組み

同志社大学法学部

企業法務教育スーパーバイザー

齋 藤 憲 道

 

Ⅴ 全社的な取り組みが必要な「特定目的のテーマ」
Ⅴ-2. 情報セキュリティ管理

4. 不競法と秘密情報保護を規定する他の法律との関係

 一つの情報の取扱い方法について複数の法律が関係する場合は、被害者が最大の保護を得られる法令を適用する。

(1) 不競法と個人情報保護法

 通常、企業の顧客や従業者の個人情報はその企業の営業秘密であり、不競法と個人情報保護法の保護の対象になる。2015年にこの2法が改正され、ともに刑事的保護が強化された。

  1. ・ 不競法改正では、それまで2次取得者までしか処罰できず、有効な名簿屋対策ができなかったことを踏まえて、3次以降の者についても処罰することにした。
  2. ・ 個人情報保護法の改正では、図利目的を処罰する個人情報データベース提供罪が同法で初めて直罰規定として導入された。

    1. (注)「加害目的」を含まない点で、「図利加害目的」を罰する不競法の営業秘密侵害より処罰範囲が狭い。

 両法の保護は、対象情報・対象行為・保護主体が異なるので、最大の保護を得るように法律を適用することが重要である。

  1. (注) 不競法と個人情報保護法の保護主体
    不競法が保護するのは情報を保有する企業であり、個人情報保護法が保護するのは情報主体である本人(個人)である。

(2) 身分・資格に伴う秘密義務と不競法

 身分又は資格に関する職務を通じて、他者の個人情報や企業の秘密を知り得ることがあり、在職中だけでなく離職・退職後も秘密保持を義務付ける法律が多い。

 秘密保持の内容は、次のように法律によってさまざまである。

  1. ① 個人の情報を守るもの
    (例)刑法133条(信書開封)、個人情報保護法
  2. ② 正当な理由なく業務上知り得た人の秘密を漏示することを禁じるもの
    (例)刑法134条1項(医師、薬剤師、弁護士等)、刑法134条2項(宗教、祭祀の職等)、医療業務に係る資格法上の守秘義務(保健師助産師看護師、診療放射線技師、臨床検査技師、衛生検査技師、臨床工学技士、救急救命士等)、国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法、弁護士法、公認会計士法
  3. ③ 社会システムの安全の阻害を禁じるもの
    (例)刑法163条の4第1項[1]、168条の2[2]、168条の3[3]、不正アクセス禁止法

 これらの法律には、違反者に刑事罰を科し、資格等を剥奪するものが多く、不競法の民事的保護・刑事的保護と合わせて、大きな不正抑止力になる。

5. 国際約束との整合性確保

 不競法における営業秘密の保護は、 WTO 加盟国間の最低限の保護水準を定めたTRIPs協定を担保するものであり、現在の日本の不競法はこの要件を満たしているとされる。

  1. (注) TPP 協定では、加盟国が「営業上の秘密性」について、公正な商慣習に反する契約違反・信義則違反・違反の教唆等の行為によって他者が開示・取得・使用するのを防ぐように法整備することを求めている。

 

6. 今後の課題(例)

 今日、企業のビジネスがグローバル化する中で、ICT(情報通信技術)の浸透、事業拠点の海外移転、業務提携・共同開発等の連携の増加、人材の流動化等が進んでいる。

 技術・営業等の情報は、企業が市場競争力を確保するための有力な武器であり、それらを秘密情報として適切に管理することが、企業価値向上に欠かせない。

 次に、秘密情報の取り扱い方に関する今後の検討事項を例示する。

(1) 企業におけるトップ・ダウン型の事故対応訓練

 企業情報にはグローバルな市場競争の勝敗を左右する力があるが、日本では企業も国も情報(技術ノウハウを含む)の価値の重要性の認識が薄いようである。

 市場競争力確保のためには、重要な情報資産を重点的に管理することが望ましい。中でもITは全社一律に管理しないと、管理水準の一番低いところから破られる。

 従って、企業で秘密情報管理を徹底するためには、トップ・ダウン型の取り組みが不可欠であり、常にリスク・マネジメントを行って、最新かつ訴訟で使用できる水準の管理を行う必要がある。

 企業法務には、自社の技術情報が流出したと仮定して、告訴状(試案)を書いてみることを勧める。告訴状を書くと、自社の管理の盲点(流出ルート、証拠の確保等)に気づき、改善点が見つかる。

(2) 国による技術情報規制のあり方の点検

 2015年の改正不競法で、海外漏洩に対する海外重罰を導入し、非親告罪化して検察だけの判断による起訴を可能にしたことは、技術情報の「国の財産」としての性格を強めたことになる。

 ところが、技術情報の国外流出を規制する外為法[4]と、出願公開制度を採用する特許法との間には次のように制度的な矛盾が内在する。

 今後、両法間の調整が求められよう。

  1. 〔外為法・輸出貿易管理令〕
    外為法による技術輸出規制には、武器・原子力・化学兵器・生物兵器等の規制品を列挙する「リスト規制」と、貨物や技術の需要者や用途から見て大量破壊兵器の開発等に用いられる恐れがあるときに規制する「キャッチオール規制」があり、いずれかに該当する輸出は、貨物だけでなく設計・製造・仕様に係る技術も規制対象として経済産業大臣の許可・承認を必要とする。

     
  2. 〔特許法〕
    特許法64条は出願公開制度を採用し、特許出願から1年6ヵ月を経過すると、公開特許公報に出願書類全文を公開する。現在の日本には、ほとんどの国々に存在する秘密特許制度がないので、外為法が輸出を禁じる技術も、原則として公開される。
    公の秩序又は善良な風俗を害する恐れがあると特許庁長官が認める場合は非公開にされるが(特許法64条2項)、技術情報をこの例外とする説明は見られない。
    なお、米国の秘密特許に係る情報は、日米の2国間協定[5]によって特別に守られている。

    1. (注) 公序良俗に関する事案の例として、誹謗中傷、第三者のプライバシーの不当開示、違法な手段、わいせつ、発明の技術的事項とは無関係の自己主張、が挙げられる。


[1] 支払用カード電磁的記録不正作出準備

[2] 不正指令電磁的記録作成等

[3] 不正指令電磁的記録取得等

[4] 外国為替及び外国貿易法(通称、外為法)

[5] 「防衛目的のためにする特許権及び技術上の知識の交流を容易にするための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」昭和31年6月6日公布(条約第12号)

 

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