国交省、民法改正及び家賃債務保証業者を利用した契約の増加等を踏まえ、
「賃貸住宅標準契約書」を改定
岩田合同法律事務所
弁護士 羽 間 弘 善
国土交通省では、賃貸借契約をめぐる紛争を防止し、借主の居住の安定及び貸主の経営の合理化を図ることを目的として、住宅宅地審議会答申(平成5年1月29日)で賃貸住宅標準契約書を作成している。
国土交通省は、今般、この賃貸住宅標準契約書を改定したことを発表した。今般の改定では、標準契約書について、従来は連帯保証人が個人である場合を想定した一種類のみが作成されていたところ、機関保証を利用する場合を想定した「家賃債務保証業者型」と従来から想定されている個人の連帯保証人の場合を想定した「連帯保証人型」の二種類作成された。新たに作成された「家賃債務保証業者型」については、近年、住宅の賃貸借において、新規契約の約6割が機関保証を利用していることを踏まえて作成されたものであり、従来の標準契約書の「連帯保証人型」についても、民法改正によって、個人が根保証人となるケースについて極度額を設定することが要件化されたこと等を踏まえ、極度額の記載欄を設ける等の修正がなされている。
以下では、「連帯保証人型」の標準契約書の民法改正との関係について、簡単に解説する。
改正民法では、個人が保証人になる場合の規律につき、大きな改正が行われた。
現行民法は、個人を根保証人とする根保証契約の中で、金銭の貸渡し等によって負担する債務を主債務の範囲に含む貸金等根保証契約についてのみ、極度額を定めなければならないものとしている(現行民法465条の2)。
しかし、貸金等根保証契約以外にも、個人である保証人が予想を超える過大な責任を負うおそれは、同様にあり得る。そこで、貸金等根保証契約以外の根保証についても同様の規律を及ぼすことの要否について、法制審議会民法(債権関係)部会にて審議が重ねられたが、下級審裁判例の中には、賃借人が長期にわたり賃料を滞納したり、賃借人が賃借物件で自殺した事案などで、親類や知人である個人保証人に過大な責任の履行を求めることが適切であるのかが問題となったものがあったことから、かかる規律を拡大すべきであるとの意見が大勢を占めた(筒井健夫=松村秀樹編著『一問一答 民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)135頁)。
以上を踏まえ、改正民法では、極度額に関する規律の対象を保証人が個人である根保証契約一般に拡大し、個人根保証契約は、主債務の範囲に含まれる債務の種別を問わず、書面又は電磁的記録で、極度額を定めなければその効力を生じないとしている(改正民法465条の2)。そして、賃貸借契約に係る保証契約は、賃貸借契約に基づいて賃借人について生ずることのある債務すべてを保証対象とする根保証契約であるから、かかる規律の対象となる。
したがって、改正民法下では、住宅の賃貸借契約に基づく賃料や損害賠償債務等を個人が保証する場合には、極度額を定めなければならない。
具体的な極度額の設定金額については、賃貸人と連帯保証人等の協議によって決定される必要があるが、国土交通省では、極度額の設定に資するように、各賃料帯(①4万円未満、②4万円~8万円未満、③8万円~12万円未満、④12万円~16万円未満、⑤16万円~20万円未満、⑥20万円~30万円未満、⑦30万円~40万円未満、⑧40万円以上)において、家賃債務保証業者が借主に代わって貸主に支払った滞納家賃等のうち、借主に求償しても回収することができなかった損害額等を公表しており、かかる損害額等の範囲が、極度額の設定に当たっては一つの考慮要素となり得る。したがって、具体的な極度額の設定にあたっては、当該調査結果を参考にすることも考えられよう。
【賃料8万円~12万円未満の物件の損害額の調査結果】