中国:中国発の不祥事防止(1)
長島・大野・常松法律事務所
弁護士 川 合 正 倫
旧正月を前に、上海の街並みはすっかりお正月モードで紅や金があふれている。筆者が上海に赴任した2011年の旧正月には、一般市民が場所を問わず爆竹や大型の花火を打ち上げたものだが、昨今は環境汚染や人災による社会混乱の防止の観点から、これらの行為は厳しく制限されている。この時期、中国国内では「春運」とよばれる故郷への帰省に向けた大移動が起こり、今年の期間中の全国乗客輸送量は延べ29億人を超えるといわれている。
申年の2016年は中国でベビーブームになることが予想されている。また、1月から株式市場が大荒れの様相を呈しており、中国経済の動向は予断を許さない状況が続いている。一方で、日中(中日)国家間の関係に目を向けると、両国関係は着実に回復傾向にあり、引き続き中国人旅行客による訪日ブームが継続するものと思われる。訪日旅行客は、これまでの北海道や東京大阪等の大都市を中心に買物を目的とするスタイルから、自然豊かな地方都市で、温泉や食事といったサービスを楽しむスタイルに徐々にシフトしている。数年前までは、中国大陸から香港へ買物目的の旅行客が大挙して押しかけていたが、ここのところ香港へ渡航する大陸からの旅行客が急減しており、香港経済に対して少なくない影響が生じているとのことである。日本でも同じ現象が起きないことを祈るばかりである。
本稿及び次稿の二部に分けて、法務面から2015年を振り返ってみたい。昨年は、中国現地法人発の不祥事が日本親会社に大きな負の影響を及ぼした事案が頻発した年であったように思う。筆者は、上海の現場において、非公開のものを含め多くの案件に関与する機会があったが、これらの問題に巻き込まれてしまった企業にはコンプライアンス意識が非常に高く、管理を強化していた企業が少なくない。また、後述するように不正を図る手段が巧妙化していることも相まって、中国発の不祥事を防止することは容易ではないと実感した一年でもあった。他方で、問題事案が発生した背景には一部共通する構造があると思われるため、リスク発生要因の一部を紹介したい。
中国発の不祥事事案の類型
以下の不祥事事案の類型は、中国実務において古くから典型的事例と認識されているものであるが、いずれも2015年においても頻発している。日本企業にとっては、引き続き、現地法人、投資先、提携先又は取引先にこれらに関連する問題がないか確認が必要である。
- 親族間取引、循環取引、不正リベート等を利用した横領、不正会計・二重帳簿、コンサルタント等を通じた不正行為、書類の偽造、贈収賄(商業賄賂)、独占禁止法違反(カルテル・市場支配的地位の濫用)
2015年のトレンドをあげるとすれば、不祥事事案が大型化し親会社に与えるインパクトが増大していること、通信手段の多様化等を背景に不正の手口が巧妙化しており危機発生時の対応や問題事案の発見が非常に困難になってきていることであると感じている。
中国発の不祥事事案の特徴・原因
中国発不祥事事案の主要な特徴及び原因として、以下の3点を紹介したい。
- ブラックボックスの存在
- イエローフラッグへの対応不足
- (元)内部者による告発
1 ブラックボックスの存在
中国発の不祥事における最大の要因として、現地の特定の人員に権限が集中し、管理が届いていない状態(ブラックボックス)が挙げられる。中国ビジネスにおける「マネジメントの現地化」の重要性を否定するものではないが、「経営を任せること」と「管理をせずに放置すること」は質的に異なる。中国ビジネスに詳しい経験豊富な人員を日本から管理することは容易ではないが、十分な管理体制を整備できず、結果として当該人員の善意に依存する状態になっている場合には注意が必要である。一般に、不祥事においては「動機」「不正の機会」「正当化」という三要因が存在するとされているが、中国において「不正の機会」が存在していないかという点は重要項目として慎重に確認する必要がある。
また、現地企業を買収する際には、買収対象会社における不祥事を防止することがポイントとなる。買収前監査(いわゆるデューデリジェンス)において対象会社の過去の実務におけるコンプラアンスイシューを確認することはもとより、買収後も現経営陣に経営を継続させる多くの事案では、特に、ブラックボックスをつくらない組織管理体制の構築が求められる。この点は、中国実務の経験が豊富な人員を、現地法人の管理部門に派遣することが重要な手段となりうると考える。また、かかる人材が内部にいない場合には、日本の親会社から委任を受けた会計士や弁護士に定期的に監査を行わせることも有効であろう。
(2へ続く)