SH4515 Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書) 第5回 忙しい法務のための人材育成(リーガルリスクマネジメント編) 渡部友一郎/東郷伸宏(2023/06/26)

そのほか法務組織運営、法務業界

Legal as a Service (リーガルリスクマネジメント実装の教科書)
第5回 忙しい法務のための人材育成(リーガルリスクマネジメント編)

Airbnb Japan株式会社
渡 部 友一郎

合同会社ひがしの里・セガサミーホールディングス株式会社
東 郷 伸 宏

 

リーガルリスクマネジメントの教科書 バックナンバー

 

©弁護士・グラフィックレコーダー 田中暖子 2023 [URL]

 

1 共通の悩みの特定

 前回第4回は、忙しい法務のための人材育成について、「2019年報告書」を最大限活用し、法務機能実装と人材育成を同時に達成するという内容を一緒に検討しました。具体的には、既に、法務人材育成WGが、(a)どう目標を設定し、モチベーションを与えるか、(b)どうトレーニングするか、(c)どう評価するか、及び、(d)適した人材をどう採用するかについて検討を加えていたことを振り返り、「2019年報告書」がガーディアン機能・パートナー機能の実装について、人材育成の面からも重要な提言を行った報告書であることを確認しました。

 今回は、第4回に引き続き、忙しい法務のための人材育成について検討します。

 第5回は、2019年報告書とは別の視点として「リーガルリスクマネジメント」(第3回 URL もご参照)を用いることを提案します。

 改めて、「正直、自分の仕事に追われて、法務部門のメンバーの能力開発・キャリア支援については最低限のことしかできていない。申し訳ない気持ちであるが、枠組みをじっくり考える暇もない。」という悩みは重要な共通する悩みです。考え方の枠組みは汎用的なものが好ましいと言えます。では、汎用的な枠組みである「リーガルリスクマネジメント」は私たちにどのようなアクションを示唆してくれるのでしょうか。

 

2 共通の悩みの分析

 はじめに、共通の悩みの中核を分析します。筆者らは、「優秀な法務人材のスキルとは何であろう」という曖昧さに帰着する、と分析しています。

 たとえば、私は陸上競技の1つ「やり投げ」については素人です。ある日、ポテンシャルを秘めた人材(未来のやり投げ選手)の育成を任されても、どのようなスキルに関して、どのような手順・方法で伸ばしていけるのか、皆目検討もつきません。

 

3 共通の悩みの評価

 では、このような共通の悩みからどのような悪循環が生じうるのでしょうか。

 前述の「やり投げ」選手の育成とまではいきませんが、私たちは、どのようにすれば、目の前の部下・同僚(一人の尊い人間としてさまざまな個性・バックグラウンド・現在の環境を持つ)のフルポテンシャルを引き出せるのか悪戦苦闘してしまう場合があります。

 「優秀な法務人材のスキル」が法務部門で定義されている場合には、ある程度の評価軸に従って、そつなくサポートを提供することもできます。

 ところが、法務部門の定めるスキルセットが古く、現状にマッチしていないような場合、または、マネジャーの裁量に委ねられている場合はさまざまな困難が生じえます。本来会社の責任ではあるのですが、マネジャーの腕次第で育成環境が異なる職場では、上司(=本来はこの部門長の育成責任)からは管理能力にネガティブな評価をいただく可能性がある上に、部下からは「育成が下手な上司(隣のグループリーダーが良かった)」などのネガティブな評価をいただく可能性があります。まさに、板挟み状態です。

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(わたなべ・ゆういちろう)

鳥取県鳥取市出身。2008年東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。現在、米国サンフランシスコに本社を有するAirbnb(エアビーアンドビー)のLead Counsel、日本法務本部長。米国トムソン・ロイター・グループが主催する「ALB Japan Law Award」にて、2018年から2022年まで、5年連続受賞。デジタル臨時行政調査会作業部会「法制事務のデジタル化検討チーム」構成員、経済産業省「国際競争力強化に向けた日本企業の法務機能の在り方研究会」法務機能強化実装WG委員など。著書に『攻めの法務 成長を叶える リーガルリスクマネジメントの教科書』(日本加除出版、2023)など。

 

(とうごう・のぶひろ)

金融ベンチャー役員を経て、2006年サミー株式会社に入社。以降、総合エンタテインメント企業であるセガサミーグループの法務部門を歴任。上場持株会社、ゲームソフトウェアメーカー、パチンコ・パチスロメーカーのほか、2012年にはフェニックス・シーガイア・リゾート(宮崎県)に赴任。部門の立ち上げから、数十名規模の組織まで、多種多様な法務部門をマネジメント後、2022年には組織と個人の競争力強化を目的とする合同会社ひがしの里を設立。2023年からはセガサミーグループにおける内部監査部門を担当。

 

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