◇SH2942◇監査役協会、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を公表 武藤雄木(2019/12/19)

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監査役協会、「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 武 藤 雄 木

 

1 「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集」の位置付け

 監査役協会・会計委員会は、2019年6月11日に「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・前編」を、同年12月4日に「監査上の主要な検討事項(KAM)に関するQ&A集・後編」(以下、前編と併せて「本Q&A集」という。)を公表した[1]

 本Q&A集は、金融庁・企業会計審議会が、2018年7月5日付で「監査基準」を改訂し、金融商品取引法上の監査人の監査報告書に「監査上の主要な検討事項」(KAM: Key Audit Matters)を記載することを義務付けたことを踏まえて、KAMの円滑導入に向けた監査役等の実務支援ツールとして作成されたものである。

 KAMの選定は監査人が行うものではあるが、本Q&A集は、監査役等と協議した事項の中からKAMが選定されるため、監査役等においてもKAMの取扱いに重要な役割を果たすことが期待されるとする。

 

2 本Q&A集の構成

 本Q&A集は、KAMの早期適用[2]のケースを勘案して前後半の2分割構成となっており、本Q&A集・前編は、KAMの概要に加えて、早期適用を行う場合に直近で対応が必要となる事項(監査契約の締結、監査計画の策定段階)を、本Q&A集・後編は、期中の対応、定時株主総会に向けた対応等に関するQ&Aが取りまとめられている。その具体的な項目は下表のとおりである。

前編 後編
1.KAMの概要
 ⑴ 概要
 ⑵ 導入の背景
 ⑶ KAMとして考えられる事項はどのようなものか
3.実務上のポイント・後編
 ⑶ 期中
 ⑷ 期末(監査報告書作成時)
 ⑸ 株主総会に向けた対応
2.導入に向けて
3.実務上のポイント・前編(おおむね6月頃までに対応が必要となる事項)
 ⑴ 監査契約
 ⑵ 監査計画
4.制度と実務対応の今後

 

3 KAMの導入による株主総会運営への影響

 本Q&A集は、基本的にKAMの導入に際しての監査役等による対応を取りまとめたものであるが、企業の情報開示や決算対応など会社運営全般に影響することに関しても有益な情報を提供している。以下では、本Q&A集・後編3.⑸「株主総会に向けた対応」について概説する。

 ⑴ 株主総会でKAMに関して質問が予想される事項(本Q&A集・後編Q3-5-1参照)

 多くの会社では有価証券報告書は株主総会終了後に提出されるため、その監査報告書も株主総会終了後に公表されることになる。したがって、会社法上の会計監査人の監査報告書に任意にKAMが記載されない限り、株主は、株主総会の時点から約1年前に開示されたKAMしか知り得ないことになる。しかしながら、株主の関心は、直近事業年度の財務諸表に係るKAMの内容にあると考えられるため、株主総会における株主のKAMに関する質問としては、開示済みのKAMの項目がどのように変化しているのか、監査期間中にどのような議論が行われたのかといったものになることが想定される。また、KAMとして選定される可能性のある事項について会社側としてどのような対応を考えているかといった質問も考えられる。なお、これらの質問に回答するに際しては、株主総会当日では直近事業年度の財務諸表に係るKAMは公表されていないため、回答内容は限定的にならざるを得ないことに留意が必要である。

 ⑵ KAMに関する質問への事前準備について(本Q&A集・後編Q3-5-2参照)

 株主総会では、上記⑴のような質問事項のほか、会計監査人のKAMの選定理由や監査上の対応に関して株主から質問がなされることも考えられることから、株主の質問内容に応じて誰が回答すべきかを執行側、監査役等、会計監査人の間で協議のうえ決定しておく必要がある。なお、本Q&A集では、会計監査人が株主総会で意見を述べるには常に株主総会決議(会社法398条2項)が必要となることを前提としているようにも見受けられるが、株主総会の議長又は説明義務者の求めに応じて会計監査人がその立場で意見を述べることは差し支えないと考えられることから[3]、本Q&A集は会計監査人が意見陳述義務に基づき回答する場合について説明したものと思われる。

 

4 KAMの導入に向けた準備態勢について

 KAMの導入に向けた対応は監査人及び監査役等が中心となることが想定されているが、執行側との連携や企業の情報開示の促進など全社的な取組みが求められていることには留意が必要である。この点、本Q&A集は、企業運営全般に係る事項についても有益な情報を提供するものであるから、監査役等に限られず、企業法務に携わる者にとってKAMの導入に向けて参照すべき価値の高いものであるといえる。

以上



[1] 公認会計士協会が、「監査上の主要な検討事項」を円滑かつ有意義に導入することを目的として上場企業の監査人に向けて公表した会長声明については、SH2694 会計士協会、会長声明「『監査上の主要な検討事項』の適用に向けて」 齋藤弘樹(2019/07/26)を参照されたい。

[2] KAMの導入は2021年3月決算に係る財務諸表の監査から適用されるが早期適用は妨げられておらず、特に東証1部上場企業についてはできるだけ2020年3月決算の監査から早期適用することが、東京証券取引所等の関係機関から期待されている。

[3] 東京弁護士会会社法部編『新・株主総会ガイドライン〔第2版〕』(商事法務、2015)70頁

 

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