経団連、会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)を公表
岩田合同法律事務所
弁護士 武 藤 雄 木
1 概要
経団連(日本経済団体連合会)は、平成27年4月10日、同年5月1日に予定される改正会社法施行規則・会社計算規則の施行及び企業結合に関する会計基準の改正等に係る改正事項に即した修正を行った「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(「ひな型」)を公表した。
ひな型の適用時期は書類ごとに異なっており、①事業報告及びその附属明細書については、平成27年5月1日以後に事業年度の末日を迎える事業年度から、②株主総会参考書類については、同日以後に株主総会参考書類の記載事項を含めて会社法298条(株主総会の招集の決定)1項各号に掲げる事項が取締役会の決議によって決定された株主総会に関するものから、③計算書類及び連結計算書類については、改正会計基準の各適用時期などに応じて、適用が開始される。主要な改訂のポイントは以下のとおりである。
2 事業報告
(1)会社役員に関する事項
平成27年5月1日から施行される改正会社法により、責任限定契約を締結できる者が、社外取締役及び社外監査役から業務執行取締役等を除く取締役及び監査役全般と広げられたことから(改正会社法427条1項)、事業報告の「責任限定契約に関する事項」は、社外役員に関する事項から会社役員一般に関する事項に変更された。また、改正会社法施行規則を受けて、事業年度の末日において社外取締役を置いていない上場会社等については、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を事業報告の記載事項とする修正がなされた(改正会社法施行規則124条2項3項)。
(2)会計監査人に関する事項
改正会社法施行規則により、会計監査人設置会社においては、各会計監査人の報酬等について、監査役会等が同意した理由が事業報告の記載内容となったことから、各社の状況に応じて監査役会等の同意の内容を事業報告に記載することを求める修正がなされた(改正会社法施行規則126条2号)。
(3)業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項
改正会社法施行規則により、業務の適正を確保するための体制について、当該体制の整備に関する決定の内容の概要に加えて、当該体制の運用状況の概要を記載することとなったことから、「決議の内容の概要」と併せて「当該体制の運用状況の概要」の記載を求める修正がなされた(改正会社法施行規則118条2号)。
3 株主総会参考書類
(1)取締役選任議案に係る記載事項
改正会社法施行規則により、事業年度の末日において上場会社等が社外取締役を置いていない場合であって、社外取締役の候補者を含まない取締役選任議案を株主総会に提出しようとするときは、「社外取締役を置くことが相当でない理由」を記載すること求められるようになったことから、株主総会参考書類作成時点の事情に応じて社外取締役を置くことが相当でない理由を記載することを求める修正がなされた(改正会社法施行規則74条の2第1号)。
(2)会計監査人選任議案に係る記載事項
改正会社法により、会計監査人の選解任等に関する議案の内容は監査役等が決定することとされことから(改正会社法344条)、監査役等が当該候補者を会計監査人の候補者とした理由を株主総会参考書類の記載事項とする修正がなされた(改正会社法施行規則77条3号)。
4 終わりに
かかる経団連のひな型は、上場会社等において実務上広く参照されているものであるから、今後、改正会社法施行規則等の施行下の各種書類を作成するに際して大いに参考になるものといえる。
新 | 旧 |
1.株式会社の現況に関する事項 (略) |
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2.株式に関する事項 (略) |
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3.新株予約権等に関する事項 (略) |
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4.会社役員に関する事項 (略) |
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4-6.常勤で監査を行う者の選定の有無及びその理由 | (新設) |
4-7.責任限定契約に関する事項 | (新設) |
4-8.取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額 | 4-6.取締役、会計参与、監査役又は執行役ごとの報酬等の総額 |
4-9.各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する事項 | 4-7.各会社役員の報酬等の額又はその算定方法に係る決定に関する事項 |
4-10.その他会社役員に関する重要な事項 | 4-8.その他会社役員に関する重要な事項 |
(社外役員に関する事項) | (社外役員に関する事項) |
4-11.他の法人等の業務執行者との重要な兼職に関する事項 | 4-9.他の法人等の業務執行者との重要な兼職に関する事項 |
4-12.他の法人等の社外役員等との重要な兼職に関する事項 | 4-10.他の法人等の社外役員等との重要な兼職に関する事項 |
4-13.自然人である親会社等、事業報告作成会社又は事業報告作成会社の特定関係事業者の業務執行者又は役員との親族関係(会社が知っているもののうち、重要なものに限る。) | 4-11.会社又は会社の特定関係事業者の業務執行者との親族関係(会社が知っているもののうち、重要なものに限る。) |
4-14.各社外役員の主な活動状況 | 4-12.各社外役員の主な活動状況 |
(削る) | 4-13.責任限定契約に関する事項 |
4-15.社外役員の報酬等の総額 | 4-14.社外役員の報酬等の総額 |
4-16.親会社等、親会社等の子会社等、又は子会社からの役員報酬等の総額 | 4-15.親会社又は子会社等からの役員報酬等の総額 |
4-17.記載内容についての社外役員の意見 | 4-16.記載内容についての社外役員の意見 |
4-18.社外取締役を置くことが相当でない理由 | (新設) |
5.会計監査人に関する事項 (略) |
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5-6.各会計監査人の報酬等の額及び当該報酬等について監査役会が同意した理由 (略) |
5-6.各会計監査人の報酬等の額 |
6.業務の適正を確保するための体制等の整備に関する事項 | 6.業務の適正を確保するための体制等の整備についての決議の内容の概要 |
6-1.決議の内容の概要 | (新設) |
6-2.体制の運用状況の概要 | (新設) |
7.株式会社の支配に関する基本方針に関する事項 | |
8.特定完全子会社に関する事項 | (新設) |
9.親会社等との間の取引に関する事項 | (新設) |
10.株式会社の状況に関する重要な事項 | 8.株式会社の状況に関する重要な事項 |
出典:経団連「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型新旧対照表」(http://www.keidanren.or.jp/policy/2015/035_diff.pdf)
(むとう・ゆうき)
岩田合同法律事務所アソシエイト。2003年慶應義塾大学経済学部卒業。2008年3月 東京大学法科大学院修了。2009年弁護士登録。2003年から2006年まで中央青山監査法人勤務。「特集 徹底検証 金融ADR事例から学ぶ実務対応」(共著、銀行実務2012年10月号)、「震災対応と実務対策」(共著、銀行実務2011年7月号)等著作多数。
岩田合同法律事務所 http://www.iwatagodo.com/
<事務所概要>
1902年、故岩田宙造弁護士(後に司法大臣、貴族院議員、日本弁護士連合会会長等を歴任)により創立。爾来、一貫して企業法務の分野を歩んできた、我が国において最も歴史ある法律事務所の一つ。設立当初より、政府系銀行、都市銀行、地方銀行、信託銀行、地域金融機関、保険会社、金融商品取引業者、商社、電力会社、重電機メーカー、素材メーカー、印刷、製紙、不動産、建設、食品会社等、我が国の代表的な企業等の法律顧問として、多数の企業法務案件に関与している。
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