経産省、「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(案)」
についての意見募集
岩田合同法律事務所
弁護士 徳 丸 大 輔
経済産業省は、2019年12月26日付けで、企業が、ハイブリッド型バーチャル株主総会を実施する際の法的・実務的論点及び具体的取扱いを整理した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド(案)」(以下「本ガイド案」という。)を公表し、併せて、これに係る意見の募集を開始した。
「ハイブリッド型バーチャル株主総会」とは、取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所で株主総会(リアル株主総会)を開催する一方で、リアル株主総会の場に在所しない株主がインターネット等の手段を用いて遠隔地から参加/出席することができる株主総会をいうと定義されている[1]。
本ガイド案では、ハイブリッド型バーチャル株主総会における法的・実務的論点を整理し、リアル株主総会においてこれまで積み重ねられてきた解釈や実務をベースとしつつ、インターネット等の手段を用いた株主総会への参加/出席という新しい行為態様における特異性等を踏まえ、海外のプラクティスを参考にし、商業上利用されている現在の技術を前提とした検討がされている[2]。
株主総会を開催する企業側としては、ハイブリッド型バーチャル株主総会を選択するか否かを検討する上では、この形態によった場合の株主総会決議取消等の事由としてどのようなものがあるかが関心事のひとつであり、この点の整理が不明瞭であると、株主総会決議の効力が不安定となるため、導入を選択しづらいものと思われる。特に、インターネットの特異性を踏まえると、会社側の通信障害が発生したことにより、インターネット等の手段を用いた株主総会への参加/出席ができない事態が生じた場合、その影響が多数の株主に及ぶ可能性があることから、株主総会決議の効力に影響が生じる余地も大きくなるように思われる。
この点について、本ガイド案では、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会の場合に、会社法831条1項所定の決議取消事由に当たるとして、決議取消の請求がなされる可能性も否定できないとしつつ、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を実施する会社の株主は、バーチャル出席ではなくリアル出席をするという選択肢があり、バーチャル出席を選んだ場合は、リアル株主総会において株主が全く出席の機会を奪われるのとは状況が異なることを理由に、会社が通信障害のリスクを事前に株主に告知しており、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策を取っていた場合には、会社側の通信障害により株主が審議又は決議に参加できなかったとしても、決議取消事由には当たらないと解することも可能であるとの整理を示し、併せて、会社が次の対策をとることが必要と考えられるとしている。
本ガイド案が示す会社に求められる対策 |
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本ガイド案に示された考え方は司法判断を拘束するものではないと解されるが、本ガイド案において整理された内容は、ハイブリッド型バーチャル株主総会を選択する会社にとって有益であるとともに、議決権行使促進が課題となっている等の会社においては本ガイド案を契機とした質問が発生する余地もあるように思われたことから、紹介する次第である。
なお、本ガイド案は、上記のほか、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会について、①株主の本人確認、②株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係、③株主からの質問・動議の取扱い、④議決権行使の在り方、⑤その他(招集通知の記載方法、お土産の取扱い等)についても、法的・実務的論点及び具体的取扱いの整理がされている。
また、本ガイド案は、2020年2月7日(金)17時を期限として意見募集[3]が行われた後、2020年2月中を目途に成案の公表を行う予定とされている。
以 上
[1] なお、本ガイド案では、①リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の開催場所に在所しない株主が、株主総会への法律上の「出席」を伴わずに、インターネット等の手段を用いて審議等を確認・傍聴することができる株主総会を「ハイブリッド参加型バーチャル株主総会」と、②リアル株主総会の開催に加え、リアル株主総会の場所に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて、株主総会に会社法上の「出席」をすることができる株主総会を「ハイブリッド出席型バーチャル株主総会」と、それぞれ定義している。
[2] なお、物理的に存在する会場においてリアル株主総会を開催せず、取締役や監査役等と株主がすべてインターネット等の手段を用いて株主総会に出席するタイプ(バーチャルオンリー型株主総会)については、現行の会社法下においては解釈上難しい面があるとの見解が示されている。第197回国会 法務委員会 第2号(平成30年11月13日)における小野瀬政府参考人(法務省民事局長(当時))の発言参照。