◇SH3042◇新型コロナウイルス感染症の流行が株主総会に与える影響、実務上の留意点 佐々木智生(2020/03/05)

未分類

新型コロナウイルス感染症の流行が株主総会に与える影響、実務上の留意点

岩田合同法律事務所

弁護士 佐々木 智 生

 

1. 新型コロナウイルス感染症の流行が株主総会に与える影響

 周知のとおり、新型コロナウイルス感染症の発症者が増加している現状を受けて、政府は、令和2年2月25日、「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」[1]を公表し、企業に対し、イベントを主催する際には、感染拡大防止の観点から、感染の広がり、会場の状況等を踏まえ、開催の必要性を改めて検討するよう要請している。

 新型コロナウイルス感染症の流行は、株主総会に対しても影響を与えており、令和2年2月27日時点で確認できる各社の主な対応方針は以下のとおりである。今後、近い時期に株主総会を開催する会社は、他社の動向を踏まえつつ、対応方針を検討することが望ましい。    

会社名 開催日 対応方針
イワキ 2/26
  1. ・ 運営スタッフはマスクを着用
  2. ・ アルコール消毒液を設置
  3. ・ 株主総会終了後の株主懇談会は中止
日本毛織 2/26
  1. ・ 運営スタッフはマスク着用
  2. ・ 株主に対して健康状態や体調等に留意すること、マスクの着用への協力を求める
キユーピー 2/27
  1. ・ 運営スタッフはマスク着用
  2. ・ アルコール消毒液を設置
  3. ・ 例年より円滑な進行となる方法を検討
  4. ・ 高齢、基礎疾患のある、妊娠している、体調のすぐれない株主の出席を控えるよう求める
  5. ・ 体調不良の株主については場合によっては入場を控えてもらう
  6. ・ インターネットによる議決権行使の推奨
日置電機 2/27
  1. ・ 株主総会終了後の懇親会(立食形式)は中止
NODA 2/27
  1. ・ 運営スタッフはマスク着用
  2. ・ アルコール消毒液を設置
  3. ・ 株主席は詰めて座るよう案内しない
  4. ・ 高齢、基礎疾患、妊娠している株主の出席は見合わせることを検討するよう求める
  5. ・ 体調不良の株主には声掛けをする場合あり
大阪有機化学工業 2/27
  1. ・ 議長を含む登壇者及びスタッフのマスク着用
  2. ・ 株主に対する問診(体調、体温の確認)を実施
  3. ・ 株主にマスクを配布し、着用を求める
  4. ・ アルコール消毒液の設置
JT 3/19
  1. ・ 運営スタッフはマスク着用
  2. ・ アルコール消毒液を設置
  3. ・ 高齢、基礎疾患、妊娠している株主の出席は特段の留意を求める
  4. ・ 例年より円滑な進行となる方法を検討
  5. ・ インターネットによる議決権行使の検討を求める
GMOインターネット 3/30
  1. ・ 開催日を3/21から延期
  2. ・ 例年より規模を縮小し運営は最小限の体制へ
  3. ・ 来場特典はなし
  4. ・ 電子行使又は郵送にて議決権の事前行使を依頼
  5. ・ 株主総会当日はインターネットライブ中継を実施
GMOペパボ 3/30
  1. ・ 例年より規模を縮小し運営は最小限の体制へ
  2. ・ 来場特典はなし
  3. ・ オンラインでの参加を推奨し、インターネットライブ中継を実施、事前にウェブサイトから質問受付
  4. ・ 議決権行使についてインターネット又は郵送の方法を推奨

 

2. 実務上の留意点

  1. ⑴ 株主総会の開催の延期及び剰余金配当の基準日
  2.    各種イベントの自粛ムードが広がる中、株主総会の開催を延期するとの選択肢もあり得る。もっとも、令和2年2月27日時点において、株主総会の開催を延期した例は、GMOインターネット1社の例が確認できるのみであり、それも9日間という比較的短期間の延期にとどまる。基本的には各社とも延期はせずに、新型コロナウイルス感染症対策を実施した上で株主総会を開催する方向と思われるが、株主総会を予定通り開催するかは、今後の感染拡大状況を注視しつつ判断する必要がある。
  3.    なお、株主総会の延期により、議決権の基準日(多くの上場会社では定款において定時株主総会における議決権の基準日を事業年度末日と定めている。以下同じ。)から3ヵ月を経過した後に定時株主総会を開催する場合には留意が必要である。すなわち、その場合、かかる会社は、あらためて当該定時株主総会における議決権の基準日を設定し、当該基準日の2週間前までに、当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要がある(会社法124条2項、同条3項本文)。
  4.    また、定時株主総会の開催時期を議決権の基準日から3ヵ月経過後とする場合、定款で定めた基準日株主に対する剰余金配当を行うことができない点にも留意が必要である。この場合に剰余金配当を行うためには、新たに剰余金の配当の基準日を設定し、当該基準日の2週間前までに公告する必要がある(会社法124条2項、同条3項本文)。
  5.    法務省は、令和2年2月28日、新型コロナウイルス感染症に関連して「定時株主総会の開催について」[2]を公表しているが、そこに記載された内容は、上記と軌を一にするものである。
     
  6. ⑵ 株主の入場拒否の判断
  7.    新型コロナウイルス感染症に感染している疑いのある株主については、①入場を拒否する、②隔離した株主席に案内する 、③第2会場に入場させる等の対応があり得るが、特に上記①の対応を採った場合には、株主総会決議が取り消され、当該決議の有効性に影響を与える可能性が否定できない。上記②及び③の対応であれば、上記①と比較して決議取消しリスクは低いが、いずれにしても総会当日の状況等を踏まえた慎重な判断が求められる。
     
  8. ⑶ 議場対応
  9.    株主総会において株主から新型コロナウイルス感染症に関連する質問や動議が提出される可能性がある。たとえば、会社において新型コロナウイルス感染症に対していかなる対策を講じているのか、新型コロナウイルス感染症の流行が会社の事業・業績に与える影響等に関する質問がなされることが想定されるため、これらを含めて新型コロナウイルス感染症関連の質問を洗い出し、想定問答を用意しておくことが有益である。

以 上

 



[2] http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
  なお、法務省は、東日本大震災の際にも、同様の見解を表明している。

 

タイトルとURLをコピーしました