シチズン時計、第三者委員会からの調査報告書の受領及び当社対応等について
岩田合同法律事務所
弁護士 松 田 貴 男
1. シチズン電子(株)の不適正行為
シチズン時計(株)は、2018年2月9日、連結子会社シチズン電子(株)が、製品の出荷ラベルのうち製造拠点を示すロット番号について、本来は実際の製造拠点を示すロット番号を印字すべきところ、意図的にこれと異なる製造拠点を示すロット番号を印字して製品に貼布して取引先に出荷していた件に関する、第三者委員会からの調査報告書を受領したと発表した。
第三者委員会の報告書(要約版)によれば、本件は、主に、シチズン電子(株)の業績回復を図るための構造改革の一環として、2011年から2012年ごろにかけて開発・生産拠点を国内外の製造拠点へ移管したことに伴い行われるようになった。また、同報告書では、第三者委員会の調査により、新たに、シチズン電子(株)による、中国生産製品と国内生産品の混載梱包箱への「Made in Japan」と印字されたシールの貼付行為や、同社試験所が発行する照明用LED製品の光束維持率等の試験データの書換え行為も判明した。
第三者委員会の報告書は、これらの不適正行為の根本原因として、事業の運営において大局的な見地から的確な判断をする仕組みが構築されないまま、経営層が売上確保・収支改善を優先し、各種施策により生じる問題への対処を担当者に委ねた、として、経営層の責任は重いと厳しく指摘した。また、同報告書は、不適正に関与したシチズン電子(株)の取締役2名について、不適正行為を隠蔽又は容認したとして、取締役としての善管注意義務に違反するとの法的評価にまで踏み込んでいる。
2.製品検査データの改ざん事例
シチズン電子(株)で新たに判明した照明用LED製品の試験データの書換えは、同社だけに見られる問題ではなく、2017年秋以降、我が国を代表する複数の素材メーカーグループで、同様の品質検査データ書換え事例が多く公表されている。このうち、代表的な3グループ(神戸製鋼所、東レ、三菱マテリアル)の品質検査データ書換えの概要は末尾の通りである。
これら各社の品質検査データ書換えの行為態様は様々であり(とりわけ、三菱伸銅、三菱電線の調査報告書にはもっともらしい名称の不正マニュアルが用いられた書換えの態様が詳述されている。)、一様にはいえないものの、一連の事案から浮かび上がる教訓の一端を以下に示す。
- ⑴ 高い不正リスクゆえに、重点監査が必要
- 不正行為は、動機・機会・正当化の3つの「トライアングル」がそろうと発生しやすいといわれる。[1] 製品の検査データの書換えは、動機(=収益・効率重視のプレッシャー、検査不合格に伴う損失回避)、機会(=品質保証の専門性・技術性から社内ですら発見困難)、正当化(=「実際の安全性に支障なし」や「法令違反なし」の言い訳)の3つが揃う、典型的な不正の発生しやすい分野といえる。そして、このタイプの不正が発生すると、企業へ与えるダメージは根深く、大きい。
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したがって、リスクベースアプローチに基づく内部統制・監査の観点からは、経営層による強い問題意識のもと、製品・サービスの品質がどのように保たれているかについての重点的な内部監査が求められる。その際は、これら各社の事案が、品質保証を製造部門から独立して担う役割を有する品質保証部署の関与のもとに進められていたことを踏まえ、品質保証部署を取り巻く環境にまで踏み込んだ監査が必要といえる。
- ⑵ 組織の「壁」への対応は喫緊の課題
- シチズン時計(株)も末尾表記載の3グループの例も、本体の低収益部門又は子会社における事案であり、部門、子会社の「壁」が厚いことを示している。検査データ書換え発覚後8か月間の書換え継続について、三菱電線の社長(当時)は、全ての対象顧客に対して問題行為を一斉に報告した場合、顧客への対応や製品納品もできなくなり、最終的には損害賠償請求に広がり、破たんにつながると考えた(同社の中間報告書)。このように、子会社、部門において、往々にして、グループ全体の最適を顧みない独自の論理による不正の正当化が行われやすいことを認識する必要がある。
- 経営陣がどのように、組織の「壁」を克服して、リスクマネジメントを貫徹するかは、業種、規模を問わず、今や喫緊の課題といえる。
[1] 甘粕潔ほか「『不正のトライアングル』がそろうと横領リスクは危険水準に達する」金融財政事情2755号(2007)、「全体会 企業のグループガバナンスと子会社発の不祥事対策」月刊監査役678号(2018)など。