◇SH3118◇経産省、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を受けて在宅勤務等の推進について関係団体に要請 深津春乃(2020/04/24)

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経産省、新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言を受けて
在宅勤務等の推進について関係団体に要請

岩田合同法律事務所

弁護士 深 津 春 乃

 

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 経済産業省は、令和2年4月13日、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会の長等に対し、在宅勤務等の対応を要請(以下「本要請」という。)した。

 新型コロナウイルス感染症の流行を受け、令和2年4月7日に緊急事態宣言が発出され、既に多くの企業が在宅勤務等を実施しているものと思われる。しかしながら、緊急事態を1ヶ月で終えるためには、最低7割、極力8割の人と人との接触削減が必要とされているところ、かかる削減目標との関係では、未だ通勤者の減少が十分ではない面もあることから、本要請は、感染症拡大防止のため、さらなる協力を求めるものである。

 以下、本要請のポイントについて解説するとともに、特に、テレワークの導入に関する労務管理のポイントを紹介する。

 

 本要請においては、以下の二点が要請されている。

 ・オフィスでの仕事は、原則として、自宅で行えるようにすること

 ・やむを得ず出勤が必要な場合も、出勤者を最低7割は減らすこと

 

(1) オフィスでの仕事は、原則として、自宅で行えるようにすることについて


ア 要請のポイント

 ①報告・連絡・相談には電話やビデオ会議、電子メール、FAXを利用し自宅で行うこと、②書類の保存・共有はインターネットで行い、事務作業も各自宅のパソコンやスマートフォンで行うこと等による、オフィスでの業務の在宅化(テレワーク)が要請されている。

 かかる取組みの要請に当たり、テレワーク導入のためのパソコン・タブレット端末や通信機器にかかる費用の補助・助成制度や、テレワークの導入及び労務管理に関する相談体制も紹介されている[1]

 

イ テレワーク導入時の労務管理

 テレワークの導入に当たっては、出勤を前提とした業績評価の仕組みや労働時間制度の選択を見直す必要がある場合も多いと思われるが、労働条件を変更する場合には、就業規則の変更が必要となる(就業規則に規定すべき事項は労働基準法89条を参照)。その際には、労働基準法所定の意見聴取(同法90条1項)、所定労働基準監督署長への届出(同法89条)、労働者への周知(同法106条1項)の手続をとらなければならない。

 就業規則の作成義務がない会社においては、労使協定を締結したり、労働条件通知書で労働者に通知する必要がある。

 その他、テレワーク導入に当たり労務管理上留意すべき事項としては、以下のものがある[2]
 

①労働条件の明示
 事業主は労働契約締結に際し、就業の場所を明示する必要があります(労働基準法施行規則5条2項)。在宅勤務の場合には、就業場所として従業員の自宅を明示する必要があります。

②労働時間の把握
 使用者は、労働時間を適正に管理するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければなりません。(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準・平成13.4.6基発第339号)

③業績評価・人事管理等の取扱い
 業績評価や人事管理について、会社へ出社する従業員と異なる制度を用いるのであれば、その取扱い内容を丁寧に説明しておく必要があります。また、就業規則の変更手続が必要となります(労働基準法89条2号)。

④通信費・情報通信機器等の費用負担
 費用負担については、あらかじめ決めておく必要があります。なお、在宅勤務等を行う従業員に通信費や情報通信機器等の費用負担をさせる場合には、就業規則に規定する必要があります。

⑤社内教育の取扱い
 在宅勤務等を行う労働者について、社内教育や研修制度に関する定めをする場合にも、当該事項について就業規則に規定しなければなりません。

 
 テレワークの導入に当たっては、労働条件等の見直しのほか、テレワークのためのICT環境の整備等、相当の負担を要するため、緊急事態宣言下においては可能な範囲で取り入れるということになろうが、本要請を契機として、本要請で紹介されている補助・助成や相談体制も活用しつつ、テレワークの導入を本格的に検討することも考えられる。

 

(2) やむを得ず出勤が必要な場合も、出勤者を最低7割は減らすことについて

 在宅勤務への対応が難しい事業者に対しても、同時に大人数が出社しないようローテーションで勤務する、社員同士に十分な距離を取る等の方法により、密閉、密集、密接を回避することが要請されている。

 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、使用者は労働者に対し、平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければならない(労働基準法26条)。そこで、かかる取組みの要請に当たり、新型コロナウイルス感染症の影響により、一時的な休業等を行い、労働者の雇用維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成する制度も紹介されている[3]

 

 


[1] 詳細は、経済産業省作成のパンフレット(https://portal.shojihomu.co.jp/wp-content/uploads/2020/04/20200413004-2.pdf)を参照されたい。

[2] 厚生労働省「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」Q2-1
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf)より引用。

[3] 厚労省が経済団体に対して求める職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みに係る労務管理上の留意事項については、「SH3089 厚労省、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた取り組みを要請~経済団体に対し、改めて労務管理上の留意事項などを周知~ 池田美奈子(2020/04/03)」を参照されたい。

 

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