◇SH0858◇最高裁、弁護士会照会に対する報告拒絶に不法行為責任を認めず 山田康平(2016/11/01)

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最高裁、弁護士会照会に対する報告拒絶に不法行為責任を認めず

岩田合同法律事務所

弁護士 山 田 康 平

 

1. 弁護士会照会とは

 弁護士会照会とは、弁護士が、受任している事件につき、所属弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出て、当該弁護士会が、その申出の適否を判断した上で、適当でないと認める場合を除き、当該公務所又は公私の団体に対して照会して必要な事項の報告を求める制度である(弁護士法23条の2)。弁護士法の条文から、「23条照会」と呼ばれることもある。弁護士会照会は、民事又は刑事などの分野を問わず、弁護士が依頼者のために事実を調査し、証拠を収集するための手段として、実務上よく利用されている。

 弁護士会照会を受けた照会先は、正当な理由がない限り、これ応じる公法上の義務を負うと一般的に解されている。しかし、照会に応じなかった場合に、法律上、これを強制する手段や罰則はない。そのため、依頼者、その弁護士又は弁護士会が、照会先を相手取って、損害賠償請求訴訟、報告義務の存在確認訴訟等を提起する事例がみられるところである。

 以下で紹介する最判平成28年10月18日(以下「本判決」という。)は、弁護士会が、報告を拒否した照会先に対し、①不法行為に基づく損害賠償と②報告義務の確認を求めた事例である。

 

 

2. 本判決について

 (1) 本判決の原審(名古屋高裁平成27年2月26日判時2256号11頁)は、「弁護士会が、23条照会の適切な運用に向けて力を注ぎ、国民の権利の実現を図ってきたことからすれば、23条照会に対する報告を拒絶する行為は、23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成する」と判示し、弁護士会による不法行為に基づく損害賠償請求(①)を認めた。

 これに対し、本判決は、「23条照会の制度は、弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等をすることを容易にするために設けられたものである。そして、23条照会を受けた公務所又は公私の団体は、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり、23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み、弁護士法23条の2は、上記制度の適正な運用を図るために、照会権限を弁護士会に付与し、個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである」と弁護士会照会の仕組みを説明した上で、「そうすると、弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって、23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない[1]」と判示し、弁護士会による不法行為に基づく損害賠償請求(①)を認めなかった。

 なお、本判決は、報告義務の確認請求(②)については、更に審理を尽くさせる必要があるとして、本件を原審に差し戻した。

 (2) 本判決の一方で、23条照会の主体が弁護士会であり、弁護士会照会を行うか否かが弁護士会の判断にかかっていること等から、依頼者及びその弁護士には反射的利益があるにすぎないとして、依頼者及びその弁護士による不法行為に基づく損害賠償請求を認めなかった下級審裁判例(福岡高判平成25年9月10日判時2258号58頁、名古屋高判平成25年7月19日金商1430号25頁等)が複数みられるところである。

 仮にこれらの裁判例と本判決が両立するとすれば、照会先の報告義務違反に関し、依頼者、その弁護士及び弁護士会のいずれからの損害賠償請求も基本的に認められないこととなる。

 

3. まとめ

 本判決は、弁護士会照会に対する報告拒絶について、不法行為に基づく損害賠償請求(①)を認めなかったが、照会先が、正当な理由がない限り、照会に応じる義務を負うことは本判決も指摘するとおりである。また、差戻審において、報告義務の確認請求(②)が認められる可能性は残されている。

 したがって、弁護士会照会を受けた照会先は、引き続き慎重に対応する必要があろう。

以 上



[1] 下線は筆者による。

 

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