JPX、コーポレートガバナンス・コードへの対応状況の集計結果
(2016年7月時点)
岩田合同法律事務所
弁護士 藤 原 宇 基
平成27年(2015年)6月1日から適用が開始されたコーポレートガバナンス・コード(以下「コード」という。)では、コンプライ・オア・エクスプレイン(コードの各原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明するか)の手法が採用されている。
すなわち、コードの各原則の中に、自らの個別事情に照らして実施することが適切でないと考える原則があれば、それを「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことも想定されている(「コーポレートガバナンス・コード原案」序文11)。
コードの各原則を実施しない理由の説明を行う際には、実施しない原則に係る自らの対応について、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるように工夫すべきであり、「ひな形」的な表現により表層的な説明に終始することは「コンプライアンス・オア・エクスプレイン」の趣旨に反するものとされている(前掲序文12)。具体的には、自社の個別事情を記載することや、今後の取組み予定・実施時期の目途がある場合はそれらを記載することなどが考えられる(東京証券取引所「コーポレート・ガバナンスに関する報告書 記載要領」)。
標記のホームページには、東京証券取引所第1部及び第2部のコーポレートガバナンス報告書提出会社2,262社について、コードの各原則の実施又は説明の状況が掲載されている。
同ホームページによればコード全73原則のうち、全原則を実施している企業は21.0%(474社)、90%以上の原則を実施している企業は63.5%(1437社)、実施している原則が90%未満の企業は15.5%(351社)である。上記の「コンプライ・オア・エクスプレイン」の下、全原則を実施している企業はそれほど多くないことが分かる。ただし、平成27年(2015年)12月の初回の調査時期と比較して、全原則実施企業及び90%以上実施企業はともに増加しており、各企業が検討中としていた原則を実施に移しているものと思われる。
同ホームページには、説明率が高い、すなわち、実施されていない率が高い原則も挙げられている。各原則について、各企業のコーポレートガバナンス報告書における具体的な説明の内容を確認したところ、下記のような説明が見られた(各原則の内容については、下記【資料】を参照)。
原則 | 説明の内容 |
補充原則 |
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補充原則 |
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補充原則 |
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補充原則 |
補充原則1-2④と同様 |
補充原則 |
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原則 |
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説明の内容を見ると、単に「今後、実施を検討する」と述べるだけではなく、自社の個別事情を踏まえて実施する必要がないと説明している例も相当数見られた。
標記のホームページでも、説明の内容による分類では、「実施予定なし」が43.8%ともっとも多くなっている。「コンプライ・オア・エクスプレイン」である以上、すべてについて「コンプライ」することが求められるわけではないことは勿論である。しかし、海外投資家比率の増加も背景に、自社株報酬の導入、任意の諮問委員会の設置、社外取締役の活用等については、政府において、経済産業省を中心にこれを推進する議論が有力になされていること等にも鑑みると[1]、「コンプライ」しないにしても、「エクスプレイン」の内容はそれなりに、海外投資家を含めた株主に対する説明責任を果たし得る内容とする必要があろう。コーポレートガバナンス・コードについては、今後、各企業は、各原則の「コンプライ」を目指すだけでなく、自社の個別事情を踏まえて実施をしない「エクスプレイン」の内容を充実させることにも注力する必要がある。
【資料】
[1] 自社株報酬につき、「攻めの経営」を促す役員報酬~新たな株式報酬(いわゆる「リストリクテッド・ストック」)の導入等の手引~」《http://www.meti.go.jp/press/2016/04/20160428009/20160428009-1.pdf》、任意の諮問委員会や社外取締役の活用につき、「コーポレート・ガバナンス・システム研究会」(座長:神田秀樹学習院大学教授)の設置に関するプレスリリース《http://www.meti.go.jp/press/2016/06/20160623001/20160623001.html》参照。