◇SH1017◇ISS、2017年版 日本向け議決権行使助言基準を公表 伊藤広樹(2017/02/14)

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ISS、2017年版 日本向け議決権行使助言基準を公表

岩田合同法律事務所

弁護士 伊 藤 広 樹

 議決権行使助言機関(株主総会議案を分析し、機関投資家に対して賛否の推奨等に関する意見を表明する機関)であるInstitutional Shareholder Services(以下「ISS」という。)は、本年2月1日付で施行された「2017年版 日本向け議決権行使助言基準」(以下「本基準」という。)を公表した。以下、その概要について解説する。

 ISSは、毎年各国の議決権行使助言基準を改定し、これを一般に公表しているが、本基準における主な改定点は、相談役制度を新設する旨の定款変更議案への対応である(この他、「報酬型ストックオプション」に譲渡制限株式を利用する株式報酬制度(いわゆるリストリクテッド・ストック)が含まれる旨も明記された。)。

 具体的には、本基準では、定款変更議案のうち、相談役制度を新設するものについては、原則として反対を推奨する旨が新たに定められている。また、ここで言う「相談役制度」については、いわゆる「相談役」のみを対象とするものでなく、活動の実態が見えにくい名誉職的なポスト(例:顧問、名誉会長、ファウンダー)も対象としている。この点については、昨年10月27日付でISSから公表された「ISS議決権行使助言方針(ポリシー)改定に関する日本語でのオープンコメントの募集について」でも改定案として言及されていたが、日本企業では、社長・会長経験者等が退任後も相談役・顧問等の役職に就き、時として経営上大きな影響力を持ち、役員時代と同様の待遇を得ることがあるにもかかわらず、相談役・顧問等が別途取締役に就任していない限り、その活動実績や報酬が開示されることはほとんどなく、また、株主に対して受託者責任を負うこともないこと等が、近時の粉飾決算事件等も踏まえて問題視されることがある。

 そのような問題意識を受けて、本基準では、本年2月以降に開催される株主総会において相談役制度を新設する定款変更議案が提出された場合には、原則としてこれに反対を推奨する旨が定められることとなった。なお、相談役・顧問等の役職が取締役の役職の一つとして位置付けられている場合(いわゆる役付取締役)には、必要に応じて、株主は、取締役の立場を前提に当該相談役・顧問等に対して責任を問うことが可能であるため、定款変更議案には反対を推奨しない旨が定められている。

 上場会社において、相談役・顧問等の役職を定款上定めている事例は相当程度存在するが、これを新たに新設しようとする会社は多くないと考えられる上に、取締役の役職の一つとして位置付けないのであれば、そもそも敢えて定款に規定する必要はない(社内規程で定めることで足りる)と考えられることから、上記の改定による実務上の影響は大きいものではないと考えられる。

2017年版 日本向け議決権行使助言基準の主な改定点
・ 相談役制度を新設する旨の定款変更議案

  1. → 相談役制度を新設する定款変更議案については、原則として反対を推奨する。
  2. →「相談役」のみならず、名誉職的なポスト(例:顧問、名誉会長、ファウンダー)も含まれる。
  3. → 相談役・顧問等が取締役として位置付けられている場合には、反対を推奨しない。

 なお、本年の議決権行使助言基準の改定にあたっては、ISSが監査等委員会設置会社向けポリシーの厳格化を検討しているとの報道があった(2016年7月2日付日本経済新聞電子版)。具体的には、監査等委員会設置会社において、外部からの役員の登用が増えておらず、コーポレートガバナンスの強化に繋がっていないとして、4名以上の社外取締役の選任を求めることを検討しているとの報道がなされており、その検討の事実はISS自身も認めているが、今回の改定ではかかる厳格化は見送られた。ISSが厳格化を見送った理由は正式には公表されていないが、仮に厳格化した場合には、各社(特に監査役設置会社)が改正会社法により新たに設けられた監査等委員会設置会社制度を採用することを躊躇し、全体としてモニタリングモデルを志向した機関設計への移行が妨げられる可能性があると考えられることも判断に影響を及ぼしたのではないかと推測される。

 この点に関して、ISSは2018年以降も引き続き厳格化に関する検討を継続する方針であると仄聞しているが、今後もその動向には留意する必要があろう。

 

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